ざまあみろ
キングサイドのベッドのど真ん中、ふてぶてしく陣取ってすぴすぴと呑気な寝息をたてるレオナルドの、低い鼻をぎゅっと摘んでやる。隙間が出来ないよう、きっちりと穴を塞いでやって。
すると少しも経たないうち、ぱかりと口が開いてそちらで息をし始める。鼻を摘む指を払う素振りもない。全く、危機感が薄い。仕方なく指を離してやっても、開いた口はそのまんま。
間抜け面め。ぐいぐいとレオナルドの鼻を指でつついて押し上げ潰し豚鼻にして遊び、ひひひと笑ったザップは、気が済んだところで手のひら軽く数度その頬を叩いてやった。
「おいこら陰毛頭、おい、レオ、レェオ」
多少の加減はしているものの、ぺしんぺしんと乾いた肌の音が響く程度には遠慮はしていない。二度三度と叩く手を往復させるうち、頬がほんのりと熱を持って赤みを帯びる。
それでもレオナルドは目を覚まさない。一応、叩かれるのは嫌なのか眠ったままぐぎぎぎと歯を食いしばって唇を引き結び一人で変顔を披露しても、しぶとく目は開けないまま。衝撃が去ればまたすよすよと穏やかな寝息を響かせ始める。
よくもまあここまで呑気に眠ってられるもんだと呆れる気持ちが半分、まあそらそうだろうなと納得する気持ちが半分。バイト終わりでへろへろになっていたレオナルドを捕まえてヤリ部屋に連れ込んで、体力の一欠片も残らないくらい徹底的に抱き潰したのは他ならぬザップだったから。
どうやってもレオナルドが起きそうにないことを確認したザップは、ベッドから下りてぐっと伸びをしてバキバキと骨を鳴らしてから、血紐を伸ばし眠るレオナルドを回収して手元に引き寄せる。そして片手を腹に差し込んで小脇に抱え直し、ベッドルームから出た。
向かうはバスルーム。二人で入っても余裕のある広々としたバスタブがあるところ。
ヤるだけなら別にレオナルドの部屋でも構わない。けれどレオナルドの部屋にはシャワーしか備え付けられておらず、しかも安定して湯が出ない。途中で冷水に切り替わるなんてザラで、いくら限界まで抱き潰されて気絶するように眠るレオナルドだって、冷水をぶっかけられればさすがに目を覚ましてしまう可能性が高い。ザップがしたいことをするには、それでは少し都合が悪い。
だから最近は専ら、レオナルドとヤるのは大きなバスタブのあるヤリ部屋と決まっていた。
最初のうちはヤリ部屋に連れていこうとする度にげえっと嫌そうに顔を歪めて、アンタと愛人さんたちの修羅場に巻き込まれたくねぇんすけど、なんて生意気を言っていたくせに、普段使っている安物とはまるで違う肌触りの良いすべすべのシーツと寝心地の良いマットレスの弾力に、レオナルドが陥落するまでさして時間はかからなかった。今じゃベッドのど真ん中でぐーすか眠りこける程度には、慣れきってしまっている。そういう所は本当に図太い。
移動の最中、小脇に抱えたレオナルドのだらんと垂れた手足が、大股で歩くザップに合わせてゆらゆらと揺れるのを見て、ザップはふふんと笑ってざまあみろと呟いた。
そのまま血紐で縛って連れてってもよいのに、わざわざ手で抱えるのはそちらの方がなんとなくしっくりくるからだ。
それに。荷物のように抱えられて運ばれる意識のないレオナルドを腕の中に感じると、妙に気分がよくなる。スカッとしてにやにや笑いたくなって、楽しくて仕方がない。言葉にするなら、多分、ざまあみろ。きっとそれが一番近い。
まずはシャワーブースから。内開きの扉を足で蹴り開けて、置いてある椅子に腰をかけて膝の上にレオナルドを乗せて胸にもたれかけさせる。
シャワーヘッドを手に取って、血紐でコックを捻りながらの温度調整。冷水はもちろん、熱すぎてもダメだ。温いぐらいが丁度いい。手のひらに当てて確認しながら、程よい温度になったところでざっとレオナルドの体を洗い流してやる。汗でべたつく体の表面の所々には乾いた精液がこびりついていて、特に腹から股間にかけてはひどい。
ざまあみろ。もうやだ出ないザップさんのバカと涙声で訴えてからも、とぷとぷと断続的にすっかりと薄くなった精液を漏らしていたレオナルドの事を思い出しながらザップは、ふんふんと鼻歌混じりに手のひらでそこを洗ってやる。
ざまあみろ。散々いやだのだめだの言うくせして、しっかり出すものを出し切ってイキまくっていたレオナルドをせせら笑いながらも、ふにゃふにゃと柔らかな陰茎を持ち上げて玉の裏まで洗う指先の動きは案外と丁寧だった。
途中、思い出したようにすりすりと陰毛の剃り跡を指で撫でて、にやにやと笑ってざまあみろ、歌うように眠るレオナルドの耳に囁いてやる。
一番最初、うっかり何かの弾みでヤッてしまった時は、下の処理すらサボっているような生粋のクソ童貞だったくせに、今では一丁前に手入れを始めていつでも綺麗に剃っている。
今のところレオナルドがザップ以外の誰かと寝ている気配も、これからの予定もさっぱりと見えない。だからつまりこれは、このクソ生意気でクソ可愛くない後輩が、ザップとヤることを想定して剃ってるって事になる。ヘラヘラしているくせに妙に頑固な男が、ザップの影響で変わらざるを得なかったものだ。
ざまあみろ。分かりやすく目に見える変化の形をしばし指先で弄んでから、中断していた作業を再開する。
外を洗ったら、次は中。
まだ柔らかく解れたままのアナルに指を二本差し入れて、くぱりと穴を広げてやればそれだけでつつつと粘った液体が指を伝って流れ出してくる。
ゴムはしなかった。わざとだ。後処理が面倒になると分かっていても、レオナルドを抱き潰す日はゴムをつけない事にしている。当然レオナルドの同意は得ていない。だって面倒で手間だけれど、嫌だとは思っていない。むしろ結構楽しい。そうだ、楽しいからやる。至極単純な欲求に従い、ザップはレオナルドに中出しをする。この先もやめるつもりはない。
よおこんな溜めむわ、注いだのは自分であることは棚に上げて、たっぷり数回分の精液を腹の中に呑み込んだレオナルドを嗤ってやる。
さすがに中に指を入れられれば、眠っているとはいえ何かしらの違和感を抱くようだ。粘度のある液体が中を伝って降りてきて、ぬるりと内から零れるたびにびくりと体を震わせてザップの膝の上でごそごそと動き始める。鬱陶しげに眉を寄せて、寝息の代わりにうんうんと短い唸り声をあげはじめ、落ち着かない様子でもぞもぞと太ももをすり合わせ出した。
弄って擦って舐りたおした前立腺、軽くつついてやればそれだけで、嬌声と共に目覚めるだろう。レオナルドの体のことをある意味本人より把握しているザップには、簡単に想像がつく。それもまた面白そうだ。このままここで延長線になだれ込むのも悪くない。
けれどザップは思いつきとは真逆、極力前立腺に触れぬように穴を広げて手早く中身を掻き出しながら、むずがるように短く唸るレオナルドの耳に、ゆったりと囁いた。
「レェオ、まだ寝てろ、な?」
「んう、……ん……」
閉じたシャワーブース、細かな水音の合間を縫って響くのは、やけに甘ったるく鼻にかかったザップの声。レオナルドが起きていれば、うわっと大袈裟に飛び退いて、ザップさん気持ちわりぃ! と青ざめるやつだ。それか似っ合わねえと二人揃って笑い転げるやつ。
けれど起きていれば悪ふざけの冗談にしかならないものを、耳に注いでやればそれだけでレオナルドの眉間の皺が消えた。ザップの胸に頭を擦り寄せて、ほっと力を抜いて全てを預けきってまた呑気な寝息を響かせ始める。ザップが言った通りに、すやすやと眠りに身を任せる。
ざまあみろ、間抜けめ。目覚めていれば絶対にしないであろう仕草ですり寄るレオナルドに、ひどく愉快な気持ちになる。起きていればするだろう嫌そうな顔と、今の安心しきった寝顔を交互に脳裏にチラつかせれば、ばあああか、とせせら笑ってからかっておちょくってやりたくなって、楽しくて仕方がなくってともすれば笑いだしてしまいそうだ。
あらかた中を洗い終えてから指を引き抜き、軽く流してコックを捻って湯を止める。水音の消えたシャワーブース、気まぐれに眠るレオナルドの目尻にちゅっと唇を寄せれば、ほわり、唇が笑みの形に緩んで糸目が下がる。
ざまあみろ、ばかめ。すっかりと何もかもを委ねきったその様に、また楽しくてとくんと心臓が跳ねる。ザップのキス一つで簡単に笑うレオナルドに、腹の底が満たされる。それはカジノのスロットで大当たりが出た時の気持ちに似ている。
ざまあみろ。もう一度呟いて今度は唇に、キスを落とす。へにゃりとだらしなく笑んだ唇の形はそのままで、機嫌よく鼻歌を歌いながらザップはレオナルドをそっと抱えて立ち上がった。
ごわごわの陰毛頭、だらしなく緩んだ腹、あるかないか分からない糸目、かわいそうなくらい短い足のちんちくりん、それが私のお気に入り。
移動したバスタブの中、ふんふんと歌うのはこの間レオナルドと観た映画で流れていたやつの替え歌だ。映画の内容は殆ど覚えていないが、その曲は以前にもあちこちで聴いたことがあったからすんなりと頭に入ってきた。
次々と連なってゆく単語を全てレオナルドに関するものに変えて歌ってやれば、馬鹿にしてんのかとレオナルドがきいきい怒るのが面白くって、最近は折に触れて口ずさんでからかっている。事務所で歌っているとスティーブンやツェッドが微妙な顔で何か物言いたげにしているのが面倒くさいから、外ではあまり歌わない。レオナルドと二人の時に、ここぞとばかりに歌いまくってやっている。
機嫌よく歌いながら腰辺りまで湯をはったバスタブの中、思い切り伸ばした足の間、抱えたレオナルドの頭にしゃこしゃことシャンプーをかけて泡立てる。さすが陰毛頭、少しもしないうちにあっという間に泡だらけになった。
レオナルドの家にある安物と違って、そこそこいい値段のするシャンプーとトリートメントで洗えば、ごわのわの陰毛頭がふわふわのさらさらになって指通りがよくなる。レオナルドの頭はザップの肘置きで、手持ち無沙汰の時に弄って遊ぶ玩具だ。触り心地が良い方がザップにとって都合がいい。だからヤリ部屋でヤッたあとは髪まできっちり洗ってやることにしている。
レオナルド本人は不本意らしい。いつもさらさらになった髪を触っては微妙な顔をする。そんな顔をするから余計に、やめてなんてやれない。ざまあみろ。テンションの下がった犬みたいな顔で自分の髪を触るレオナルドを想像しながら、ザップは泡だらけの髪をざっとシャワーで流してやる。ぺとんと濡れた髪は後ろから見てもいつものレオナルドとまるで違って、また少し気分が高揚した。とても楽しい。
トリートメントを馴染ませたら、しばらく放置。その間に自分の頭も手早く洗ってしまう。気づけばバスタブの中には二人分の泡がぷかぷかと浮いている。一旦湯をはりかえようと決めたザップは、自分の髪にトリートメントをつけると時間を置くことなくすぐに二人まとめて洗い流してしまった。レオナルドと違ってザップの髪はそれほど手をかけなくてもいつでもさらさらをキープしている。だからそこまで馴染ませなくてもいい。さっすが俺だわ、陰毛頭とはちげーわ、と自画自賛をしながら足先でバスタブの栓を抜き、じゃあじゃあと流れるシャワーを自分とレオナルドに浴びせかけた。
ごぽごぽと煩い水音と共に、泡がきれいさっぱり流れきったことを確認してから、また足の指で栓を閉じて湯をためる。ぬるま湯が徐々にひたひたと下から上へとあがってくる感覚が気持ちいい。
バスタブのふちなみなみまで溜めたところでようやく湯を止めた。少し動けばざざあ、と湯が外へと流れ落ちるのがいい。レオナルドが起きていれば勿体ないと文句を言うに違いない。ざまあみろ。わざとざぶざぶと湯をこぼして、ザップはひひひと笑う。
しばらくそうして遊んでから、そうだと思い出して血紐を伸ばした。手元に取り寄せたのは真新しいミネラルウォーターのボトル。バスルームに数本常備してあるやつ。
キャップをあけてまずは自分でごくごくと飲む。そして一気に半分まで減ったそれを、レオナルドの口にも当ててやろうとしたザップは、直前で気が変わってレオナルドを抱え直した。横向きに抱えて、顔が見えるように。
そしてまたミネラルウォーターを口に含み、飲み込んでしまうことなくレオナルドの口に唇をあてて、口移しで水を注いでやった。レオナルドは抵抗することなく、こくこくと喉を動かして与えられるままにあっさりとそれを飲み下す。
にやあ、笑ったザップはまた同じ動きを繰り返してせっせとレオナルドに水をやった。面白い。そういう玩具みたいだ。試しに水を含まないまま口づければ、水を探すようにレオナルドの舌がザップの咥内をまさぐって、そのうち何を勘違いしたのかちゅうちゅうと舌を吸い始めた。ばかめ、ざまあみろ。すっかりと楽しくなったザップは、ぐじゅりと湧いた唾を吸わせてやる。それでもレオナルドはやめることなく、従順にザップの唾を吸ってはこくりと小さな喉仏を動かしてそれを飲み下してゆく。
ばぁか、そりゃ水じゃねえっての。オメー、今、俺の唾をうめーうめーって飲んでんの。ざまあみろ。
再び水をやる気にはならない。こんな面白いこと、やめてやる理由がない。上機嫌でザップは、レオナルドがねだる分だけ唾を飲ませてやる。ざまあみろ、その喉仏が動くのを見るだけで、最高に気分が良かった。
バスルームから出たら、タオルでレオナルドを隅々まで拭いてやって、髪はドライヤーで乾かしてやる。こうすれば起きた時には、ふわふわさらさらの陰毛頭の出来上がりだ。ざまあみろ。移動したベッドルーム、全裸のままソファに腰掛けて足の間に座らせたレオナルドの髪にドライヤーを当てる。長くはないが無駄に毛量が多いせいで、それなりに時間はかかる。
その間に血紐を動かして、べしょべしょに湿ったシーツを変えておく。さすが俺、器用だわ。天才じゃね。ドライヤーをあてる手はそのままに、同時進行で進めるシーツの交換は順調だ。どうだレオお前には出来ないだろ、ざまあみろ。呟けばひどくやる気のないレオナルドが「へーへーすごいっすね」と棒読みで答える声が聞こえた気がして、このやろう、わしゃわしゃと乾きかけた髪を乱して、つむじにキスをしてやった。すると「うわっ、バカ、やめろよ」そう言ってわたわたと慌てるレオナルドが見えて溜飲が下がる。ざまあみろ。
やがて根元まで綺麗に乾いた髪に満足したザップは、レオナルドをベッドの上にぽんと放り投げた。そのまま自分も隣に潜り込んで、がっしりとレオナルドを抱え込む。
服は着ていない。どちらとも全裸だ。そんな状態でくっついていれば、目覚めた時にレオナルドがとても嫌がってぎゃあぎゃあ騒ぐだろう。ざまあみろ、嫌がらせだ。
それにぷくぷくと贅肉のついたレオナルドの抱き心地は案外悪くない。チビだから抱えた時の収まりもいい。ざまあみろ、抱き枕代わりにしてやる。
レオナルドは相変わらず呑気に眠ったままだ。裸の男に抱え込まれても、嫌がる素振りもなくむしろ身を擦り寄せてくっついてくる。
結局起きねーでやんの、ざまあみろ。
意図的に抱き潰したとはいえ、こうまで起きないものかとある意味では感心もする。どれほどセキュリティの高い家の中に引きこもっていたとしたって、100%安全とはいえないこの街で、ここまでぐっすりと寝こけるなんてなかなか出来ることではない。それもその間にザップに好き勝手弄られて遊ばれていたくせに。安心しきった顔で眠ったままだった。
ざまあみろ。達成感にも似た気持ちで心を満たしたザップは、ふにふにとレオナルドの柔らかな頬をつついて笑った。
レオナルドをからかって遊ぶのは楽しい。ぎゃあぎゃあと馬鹿みたいに騒いでムキになって言い返してきて、悔しげにむすりと唇をひん曲げる様を見ると最高にテンションがあがる。弄り倒してやりたくって、つつき回してやりたくって、そうするうちに指をさして笑いだしたくなる。
ドラッグをキメた時よりハイになって、酒を飲んだ時より楽しくって、カジノで大当たりした時より気分がいい。訳もなく高揚して、走り回って飛び跳ねたくなって、もっともっと、遊んでやりたくなる。
だから、ざまあみろ。言ってやりたくなるのだ。
ざまあみろ、悔しがるレオナルドに投げつけるのは気持ちがいい。自分以外の誰かが自分を除け者にして喜んでいるのは面白くなくって、ヘマをしてみじめな姿をしている方がよほど笑えるし面白い。特にそれがレオナルドなら最高だった。
だからこれは、ざまあみろ。胸をくすぐり弾け飛びそうな気持ちを表すのに一番ぴったりくる言葉はそれしかないのだと、ザップは心底思っている。
しかしながら。
一見してヒューマーのように見えて、その精神性においてヒューマーから逸脱した所も散見される男、ザップ・レンフロがレオナルド・ウォッチに対して頻繁に用いる「ざまあみろ」との言葉。ある意味ではザップ語とも言えるそれ。
それをごくごく一般的なヒューマーの言葉に翻訳すると対レオナルド限定で本来のものとは別の意味になることを、ザップとレオナルド以外のライブラのメンバーはなんとなく察している。察しているために、そんな二人のやり取りを目撃してしまうたび、何とも形容しがたいしょっぱい顔をしている。
眠るレオナルドの額に唇を落とした時、跳ねる胸の高鳴りを、生意気で可愛くない後輩を出し抜いてやった、何も知らない間にしてやった時の高揚感だと疑いもしないまま、口癖のように舌に馴染んだ言葉を紡いでザップは目を閉じる。
さしても経たないうち、すうすうと響き始めたもう一つの寝息。発生源の男の唇は、らしからぬ穏やかな笑みを湛えていた。