二人であそぶ


「あ」、と。
場にそぐわない何とも気の抜けた声を耳にしたザップは、反射的にレオナルドの中に己の物を埋め込んだ。
柔らかく解している途中だったそこは、挿入するにはまだ少し硬い。中ほどまで突き入れたと同時にうぐぅと、潰れた異界存在の何かみたいな、情けない声が身体の下から聞こえてきて、しまったと思ったのも束の間。

「ちょ、っと、ザップさん……! 今の、止めるとこ、でしょーがっ!」

やっべ、これは流石に切れたんじゃね、血出てたらまずいか、と内心では多少なりとも焦っていたザップに対するレオナルドの反応は、大事な尻穴が傷ついたにしては幾分元気が良すぎた。
だからすぐさま反省にも似た思考を撤回したザップは、きゃんきゃんと喚いてさっさと抜けと主張するレオナルドの言い分に耳を傾けること無く、むしろ対抗するようにゆるりと腰を動かして中を擦ってやる。
わざといい場所を抉って焦らすように、時間をかけてたっぷりと。勢いで流される前に嬲られている事を自覚できるほどには、じっくりと形を馴染ませるように。

ところが。
いつもならそれで、割と簡単にひんひんと喘ぎ始めるレオナルドが。
きゅっと眉間に皺を寄せて堪えるように唇を噛み、快感に耐えてやり過ごすような素振りを見せたから、違和感を覚えたザップは、一度動きを止めて様子を窺う。
すると。

「あーもう! 早く、抜けって!」
「オイオイ、レオ君よぉ。さすがにそりゃあ、冷たすぎじゃね? 切れてねーし、いーだろうがよ、別に」
「良くねーって! 今、ひらめいたんですってアレ! あのパズルのステージ、二十四の攻略法!」
「あああん? 何々、ザップさんよく聞こえなかったんですけどー? え、え、もしかしてオメエ、俺が丁寧に慣らしてやってる間にんな事考えてたっつーの? あり得なくね?」
「んあっ! だ、って、思いついちゃったんす、もんっ。一瞬でいーから、やらせて下さいって! ザップさんも、知ってるっしょ、俺が、んっ、アレ、めっちゃ悩んでたのっ」

その瞬間を待っていたのか、すかさず口を開いて威勢よく喚き始めたレオナルドの言葉に、ザップは咄嗟に中に突っ込んだ己の判断がとても正しかった事を実感した。突っ込んでいなければ確実に、それまでの空気を台無しにされて逃げられていたところだった。

しかし、まあ、パズルって。よりにもよって、さあこれからヤろうって時にそれって、お前。ガキかよ。ガキだけど。ガキだわ。

呆れて多少はムッとはしたものの、レオナルドが最中にこんな色気のない事を言い出すのは案外、よくある事なのでさほど驚きはしなかった。普段は散々ザップの事を屑だ屑だとこき下ろすくせして、こういう時はむしろレオの方がデリカシーにかけてるんじゃねえのと、思わずにはいられない前科がぱっと思い返すだけでも、両手で足りないくらいには存在している。
無視して強引にそのまま進めても良かったけれど、そうすれば後から面倒くさい。ぶちぶちと文句を言って、盛大に拗ねる。そうなったらそうなったで、機嫌を悪くしていた事を忘れるくらい徹底的に抱き潰せばなんとなくなし崩しに誤魔化す事も出来るけれど、今日はそういう気分でもなかった。
だから渋々、多少の思惑は心に秘めたまま、血紐を使ってわざわざ机の上に放り出されていたゲーム機を取って渡してやる。
当然、挿入はしたままだ。ここで抜いてしまえば、レオナルドのこと。直前まで何をしていたか忘れて、ゲームの方に夢中になってしまう。更にはザップまでもを言いくるめて、対戦ゲームに持ち込む流れを作ってしまう。連敗続きのタイトルを盾に取られ、ハンデをつけるからと唆されれば、ザップとてうっかりそちらに揺らがない自信がない。
だからそこは、どれだけ喚かれて嫌がられようが譲れないラインだ。

しばらくの間は往生際悪く、抜かねえんすか、と顔を歪めて嫌そうにしていたレオナルドではあったけれど、一応は多少なりとも、自分の行動に罪悪感はあったらしい。
ゲーム機を手渡してやれば、ちらりと己の下半身に視線をやったあと、まあしゃーねえすけど、となぜだかレオナルドの方がザップに譲歩したかのような口ぶりで、ぱちりと電源を入れた。既に意識の半分は、パズルゲームへと飛んでいる様子だった。
当然ザップの方としては、後々の面倒くささを考慮して許容したとはいえ、この状況が面白い訳ではない。

「ちょ、邪魔しねーでくださいって……ん、もう!」
「邪魔してねーし? オラ、そっちに集中してさっさと終わらせろって」
「あ、だって、ザップさん、動くからっ……あーくっそ、二十秒だけ大人しくしてろ!」

レオナルドが今はまっているパズルゲームとやらは、制限つきの手数の中で駒を動かして、途中に用意されたギミックをクリアしてゴールまで辿り着くというタイプのものだ。ザップとは非常に相性が悪く、隣から覗き込んで眺めてみても、何が面白いのかさっぱり理解できない。おまけに対戦機能もついてないそれは、完全に一人用のゲームだ。
セックスの最中は勿論のこと、ザップがわざわざ来ている時にそんな一人用のゲームに集中されると面白くない。
客くらいちゃんともてなせよ、というのがザップの主張であり、これについては完全にレオナルドに非がある。客扱いされればそれはそれでムカつくけれど、ザップの立場は場合によって臨機応変に変わるので問題ない。
レオナルドが一人用のゲームに興じている時、部屋にいるザップはレオナルドの家の客の顔をする。それが一番レオナルドの非情を責めるのに都合がいいからだ。
従ってそんな大事なお客様を放置して遊んでいるような冷たい家主は、邪魔をされても文句は言えない筈であるという論理の元、以前からレオナルドがそれに気を取られればザップがちょっかいをかけるのは、ある意味では当たり前のお約束となっていた。

だから当然、レオナルドがそのステージ二十四とやらをクリアするまで大人しく待っている訳があろうはずも無かった。
レオナルドがボタンを操作するタイミングを見計らって、レオナルドの弱い所を緩く突き、抗議されればしれっとそっぽを向いて腰の動きを止め、代わりに尻の辺りに力を入れて、挿入したペニスだけを意識的にぴくりぴくりと動かしてやる。
たったそれだけで、分かりやすく指を震わせたレオナルドに気をよくしてにやにやと笑えば、次第にその口調が荒くなってくるものだから、ザップはすっかり楽しくなってしまった。
一人の世界に没入されて放っておかれるのは面白くないけれど、それを邪魔してレオナルドが苛立つのを見るのは、意外と嫌いではない。どんどん口調に遠慮が無くなってきて、スラングまで交じり始めれば少し、心が浮き立ってくる。
罵られるのが好きだなんて変な趣味がある訳ではないけれども、特にそれがセックスの最中ともなれば、余裕が無くなって追い詰められてゆくのを隠す事も出来なくなってしまうレオナルドの様子に、ついつい嗜虐心が擽られてしまうのは仕方がない事だと思う。

「あ、ちょっと、もう! 今、出来そうだったの、にぃっ、ザップさんのせ、で、失敗したぁ……」
「おーおー、悪かったなァ。おら、待ってやるからもっかいやってみ?」
「くっそ、しね! ぜってー、クリアしてやる、しっ」
「ほれ、頑張れって。俺も、応援してやるからよォっ」
「だ、から、それやめっ!」

喘ぎつつ怒るなんて器用な真似をしつつ、指はしっかりとキーに添えたレオナルドをからかうように、ぐっと奥まで一気に挿入する。それだけでひっと喉の奥を鳴らして、気持ちよさそうに身体を震わせるくせして、それでもゲームにかける情熱は消えないままらしい。おそらくもう、その内訳の半分以上は意地にすり変わってもいるのだろうけれど。

それならそれでいーや、と、面白くない筈の現状が面白くなってきたザップは、完全にレオナルドの意識がこちらを向かないギリギリの線を狙って動くことにする。他に気を向ける余裕がないくらいガンガンに突いて一気にこちらに集中させるのもそれはそれで楽しいけれど、今日はひたすらこの、瀬戸際の状況を満喫したい気分だった。
レオナルドの指の動きに合わせて、軽く腹を押して外側から中を圧迫する。スティックに添えられた親指が、うまく誤作動を起こすように、滑りだそうとするタイミングを見計らって、一気に引き抜いて浅い部分をくちくちと嬲ってやる。顔を真っ赤にして息を荒くしたレオナルドが、チッと舌打ちをするたびに、わざとらしく触れるだけのキスを額にくれてやる。
ああ、もう、また、とレオナルドがもどかしそうに呟けばそれだけで、イってしまいそうなくらい気持ちよくなって、切なげに短く息を吐きだせば、それが画面の向こうに向けられたものだと分かってなお、興奮した。腹の底から笑いだしたくなるくらい楽しくって、傾いた画面にゲームオーバーの文字を見つけるたび、恐ろしく気分が上がってゆく。
何度目かのゲームオーバーの後、続く攻防に先に焦れて白旗を振ったのは、レオナルドの方だった。

「あーもう! しつけえっ! ヤるならさっさとヤれ!」
「はっ、なんだよもういーのかよ」
「集中できねえっつーの!」
「そりゃ、悪かったなっ……っと!」

うがーっと叫んで手にしたゲーム機をベッド脇に放り投げると、ガッとザップの腰に足を絡めてくる。その行動自体は誘ってるようにしか見えないのに、どこかやけっぱちのような開き直った態度のせいか、さっぱりと色気が無い。
しかしザップとしても、レオナルドに色気なんぞ求めてはいないので、全く問題は無かった。むしろ自棄になった末の行動があれだけやりたがっていたゲームを放り出してザップに続きを強請るものだったり、ザップをベッドから蹴り落さずに最後までする事を選択している時点で、色気はなくとも割とエロいなと興奮する。
それでもプレイ途中のゲームへの未練が完全に無くなった訳ではないらしいレオナルドは、足を絡めてるのは自分からのくせして、さっさと終わらせろだなんて可愛くない文句を、未練がましくぶつぶつ呟いている。

けれども。おそらくは本気で早く終わらせるべく、自分からひくひくと中の肉を収縮させてザップのものを締め付けて搾り取ろうとするなんて、可愛げがあるんだかないんだか如何とも判別し難い、珍しく積極的な行動になんて出たもんだから。
当然、ザップがレオナルドの希望を叶える可能性なんて、存在する筈もない。

だって、全面的にレオナルドが悪い。
今日はそんな気は無かったのに、その気にさせたレオナルドが。

(ま、一回はお望みどーり、すぐイかせてやっけど)

その後に最低でも、二発はキメると決意したザップは、一先ず手っ取り早く一回目を終らせてやるべく、激しく前後に腰を振り始める。
すぐさまその動きに合わせて、素直に喘ぎ始めたレオナルドの稀に見る従順な態度にすっかり気を良くしたザップは、ばれないようにペロリと心の中で舌を出して笑った。

(文句言えねーくれぇ、トばしゃ問題ねぇだろ)

素面でぶうぶうと拗ねるレオナルドは面倒くさいけれど、ドロドロになって蕩けた状態でぐずぐずと拗ねるレオナルドをあやすのは、結構楽しいし。
だからなんの問題もないと、レオナルドに知られればひどく怒らせそうな事を考えたザップは、やべえ今日めっちゃ楽しいわと、鼻歌すら歌い出しそうな勢いで、さほど時間をかけずして一回目の白濁をレオナルドの奥に放ってやり、そして。
ほっと息を吐き、もうこれで終わったと言わんばかりの顔をしているレオナルドを牽制するように、がじりと。
その肩口に、思い切り歯を立てて噛み付いてやり、ひっと悲鳴が漏れると同時に、ぐいぐいと腰を押し付ける。そして既に再び固くなり始めていた自慢のマグナムを、収めた中から引き抜くこと無くゆるゆると動かし始めるのだった。


「あー、すげぇ良かったわ。オメーがゲームしてんの邪魔しながらヤんの」
「俺は最悪でしたけどね……」
「はあ? っつーか、普通に考えて最悪なのはテメエの方だからな。アレ、女相手にヤッたら一発で振られるぞ」
「うっ……それは、分かってますけど。でも、ザップさん相手だし、別にいいかなって」
「あーあーあーひでー差別だわーやべー傷ついたわーレオナルド君ってばさいてー」
「うわあうぜえ……」
「逆ギレとかぁ、サイテーだと思いますぅー」
「あーもー! 俺が悪かったですってば!」
「悪いと思うならもっかいケツ貸せや」

結局終わったのは、予定の三発に上乗せしてもう一発キメてから。二発目を出す辺りでは顔を真っ赤にしてしねしねと喚いていたレオナルドだったけれど、途中からはザップの思惑通りいい具合にトんでくれた。
ぐすぐすと鼻を啜りながらばかばかと舌っ足らずに喘いでいたのも、あやしてやるとばかばかばかと言いながらザップに擦り寄ってくるのも、とても楽しくて良かった。またやろうと思う。

そして最後は意識を飛ばしたレオナルドが眠る間に、後処理やら諸々の片付けをしてやってたのも割と効いたのか。
目覚めたレオナルドは、口ではぶうぶう文句を言いつつも、本気で不機嫌になっている様子は無かった。うまくなし崩しにして誤魔化す事に成功したらしい。
こいつ拗ねるとマジめんどくせーからな、とうまくやり仰せた事に内心ではほっとしつつ、逆にちくりとレオナルドのデリカシーの無さを指摘して刺してやる。
そうしたらちょっぴりぎくりとしてみせたからすかさず、ザップは調子に乗った。そのままレオナルドを責め続ければまたいい感じにヤれんじゃね、との算段からである。

げんなりとした顔でザップをあしらうその動作の端々から、不機嫌よりも後ろめたさが多く宿っている事を見抜いたザップは、よっしゃこれはいけるヤツだわと判断して、誘いをかけたのだったが。

「やですよ。俺、もーちょい寝てぇし」
「しゃーねえなあ、じゃあ起きたらもっかいな」
「えー……どうせならゲームして遊びましょうよ」
「あん? テメーそう言ってまたアレやんだろ、パズル」
「違いますよ、一緒にやれるやつ。ザップさんのやりたいヤツでいいっすよ」

あっさりとそれを突き返したレオナルドは、ごしごしと目を擦ってふわぁと欠伸をしながら、この後に及んでもセックスよりゲームの方がいいだなんて言い出した。
今日一日はレオナルドもザップも、バイトもなくライブラへの報告も呼び出しもない、完全なフリーになっている。
だからザップとしては、どうにか言いくるめて一日中ハメ倒そうと思っていたのに、あんまりにもガキ臭い提案にヤる気が削がれて、それでもいいかなんて気になってきてしまう。

「ほんっとガキやのー、お前」
「ガキでいいっす今は。そうだ、今なら何でも一個だけ、ハンデつけたげますよ」
「はあ? 生意気言ってんじゃねーぞコラ。ハンデ無しでも勝てるっつーの。陰毛君がどうしてもっつーんなら、つけられてやってもいいけどな」
「どうしてもー、ザップさんとハンデつきでゲームしたいですぅー」

格ゲー、レース、陣取り。すっかりと別の意味でやる気になったらしいレオナルドは、もう少し寝たいと言ったのも忘れたように、ザップとプレイした事のあるタイトルの名前を挙げてゆく。
そのうちの一つ、格闘ゲームのとあるタイトルを指定すると、一瞬ひくりとレオナルドの表情が引き攣った。そこそこレオナルドといい勝負が出来るようになってきたやつで、ハンデなんてつければ一気にザップが優勢になる。
しかしそこでちょうどいいバランスになるものを選ぶつもりなんざ、さっぱりと無かった。全力で勝ちにいくつもりである。

「ちなみに負けたら罰ゲームアリな」
「えっ、それはズルくないっすか」
「あっれえ? レオナルド君は勝つ自信がないって? ほーん、へー」
「……分かりました、ギッタギタに叩きのめしてやるっての」
「はっ、テメーがギッシギシに泣かされるの間違いじゃね?」

罰ゲームの条件をつければさすがに、げっとわかり易く顔を歪めたけれど、煽れば簡単に乗ってきた。チョロい。
うきうきと自分のゲーム機を手元に引き寄せたザップは、もう完全に勝った気で何をさせようかと考える。

(フェラとか、騎乗位で腰振らせんのもいいけど)

セックスの最中、繋がったまま二人で、バーチャルの世界へ狩りに出るのも面白そうだと。
新しく見つけた遊びをより一層楽しむ方法を思いついたザップは、ガードとジャンプと必殺技禁止な、と告げたハンデにすかさず「えええっそりゃないっすよ! 一個! ハンデは一個!」と大声をあげたレオナルドの情けない声に機嫌よく笑って、使い慣れたキャラを選択した。