男と少女
「ほれ、やるよ」
野営の準備中、ユーインと二人で火の番をしていた最中、ぽんと何かを投げて寄越される。慌てて受け取ったメリナは、手の中のものを見てむっと顔を顰めた。それはいかにも子供が好きそうな、猫の形の棒付き飴。
「ん? なんだぁ、嫌いだったか?」
けれど喉元まで出かけた抗議の言葉は、ユーインの姿を見て止まってしまう。だって既にユーインの口には棒付き飴が含まれていて、心做しか機嫌の良さそうな表情の理由は「リンデの屋台の飴でな、ここのが一番うまい」と語ったもので間違いないだろう。
少し迷ってから、メリナは飴をぱくりと口に含む。美味しそうに食べるユーインを前にすれば、子供の食べ物だと忌避して食べない事の方が余程子供っぽい反応に思えた。
(やりにくいわね)
焚き火の向こうの男に気づかれないよう、そっと目を伏せて小さなため息をつく。
子供扱いされるのは嫌い。
だって、子供だからと背に庇われてしまうから。
子供だからと、一方的に守られてしまうから。
メリナよりも戦いに向いていない人だって、大人だというだけでメリナと魔獣の間に立ちはだかり、凶悪な一撃で死に瀕してもなお、こちらを想う優しい笑みを浮かべるから。
だから子供扱いされるのは嫌い。
大事な人を守る力がないと告げられてるようだから。
なのにユーイン相手だと調子が狂う。
菓子を与えられたり頭を撫でられたり、他の人なら子供扱いと受け止め不愉快に思うものでも、ユーインのものはそれと判断するには微妙なものばかり。菓子はユーイン本人が美味しいと思っているものを分けられた形で、頭を撫でる時はメリナだけでなくアルドたちも、それもキュカやセティーのような、メリナ基準で心身ともに立派な大人だと判断できる仲間たちの頭まで撫でるから、一概に子供扱いと断じにくい。
何より業腹なのは、そんなメリナの内心をあの男は見透かしていて、分かってやっている節がある事だ。巧妙にメリナの反論を封じ、怒った方が余程子供っぽいと言わんばかりのやり口で甘やかしてくる。メリナだけに与えられるものでなく、仲間みんなに向けられるものだから拒絶しにくい。
だからメリナはユーインの事が苦手だ。食えない男だと思っている。
胸に生まれた苦々しい気持ちとは裏腹に、口の中に広がる甘さは、昔、皺々の優しい手がメリナの掌に乗せてくれた砂糖菓子の甘さと似ている。
それがひどく懐かしくて、認めるのは少しだけ悔しかった。