※魔剣2までのネタバレ(ミグ王の名前バレ)あり。若ミグラキベル捏造。
私の友達
「や、やはり今一度お考え直し頂きたく……!」
「くどいぞ、ベル」
行き交う人々で賑わうユニガンの街中、こそこそと小声で囁き交わす三人の姿があった。
取り立てて奇抜な格好をしている訳ではない。ユニガンではごくごく普通の形と色のシャツとズボンを身に着け、髪の色も茶と金と黒とこの国ではよくあるものだ。どこをとっても珍しいものはない。
それでもちらちらと彼らに視線を向ける者、特に女性からのそれが多いのは、三人がそれぞれ種類の違った見目の良い青年たちであったからだろう。
すらりとした立ち姿の金髪の男は優男じみた綺麗な顔立ちをしており、浮かべた笑みは非常に穏やかで物腰も柔らかそうに見える。
一方、彼とは対照的に難しい顔をしているのは黒髪の男、がっしりとした体格をしていて険しい表情をしているためにどこか近づきがたい雰囲気があるが、こちらもよくよく見れば顔立ちは整っている。
そんな二人の間に立つのは茶色の髪の男。二人と同様見目が良いのは当然のこと、むっと唇をへの字に曲げて不貞腐れても見える表情を浮かべているのにどこか愛嬌があって、人好きのする空気を纏っている。
金髪の男は、周囲の注目を浴びていることに気づいていたのだろう。何やら揉める二人をそれとなく促して、近くにあった建物の影に移動する。人の行き交う通りから完全に身を隠してしまった訳ではないが、雲一つない晴天の昼間、対比して濃い影はうまく三人の顔を隠し、自然と集まった視線を散らしていった。
「しかしおう、じっ……!」
そうして場所を移してすぐさま、口を開きかけた黒髪の男、ベルトランの言葉はぬっと伸びてきた手のひらによって塞がれせき止められてしまう。
「それはやめろ、カディと呼べと言っただろう」
手の持ち主は、茶髪の男。今代ミグランス王の息子、カドリーユ王子その人である。なぜ王子が昼間のユニガンに王族らしからぬ服装で立っているのかといえば、おそらくは誰もが想像するであろう通り、お忍びの真っ最中であったからである。
「か、カディ様……しかし」
「様もいらん。目立つだろう」
「さすがにそれは……お許しください」
口を塞いだまま視線だけで念を押してから王子がその手を離せば、ベルトランがぎこちなく提示された愛称を口にする。表情は変わらず晴れないままだ。
そもそもベルトランがこのお忍びについて知ったのは、街に降りる直前だった。突然王子に呼び出され向かった先には既に着替え終えた王子とラキシスがいて、その意を問う前に急かされて訳も分からず半ば混乱のままにそこにあった服に着替えてみれば、あれよあれよという間にこの状況である。どんな人間だと騎士団の誰に尋ねても真面目で実直な男だとの答えが返ってくるであろう彼が、ようやく現状を理解して王子を止めるのも無理もない話である。
しかしベルトランという男、けして口が回る方ではない。更には説得を試みる前に王子が口を開いてしまえば、王子のお言葉を遮るわけにはいかないと反射的に口を噤んでしまう素直さもあって、説得どころか新たな要求を突き付けられて目を白黒させる事態に陥っている。どこまでも真面目な男なのだ。
「そこまでしたらこいつ、泡吹いて倒れちまいますよ」
「む、そうか」
さすがに見かねたのか、二人の間に金髪の男、ラキシスが割って入った。それで王子は不満そうな表情は隠さないままであるも一旦ひく素振りを見せたが、ベルトランの瞳に過ったのは安堵ではなく驚愕だった。
「ラキシス! お前は馴染みすぎだ! 一体なんなんだその言葉は!」
「つってもな、ここであんまりかしこまった喋り方してる方が目立つぜ? 下手に目立ってそれこそ俺たちのことがバレちまったら困るだろ? 市井に溶け込むにはそれなりの喋り方ってもんがあるしな。ほら、任務の一環だと思え。ちなみに俺はラスって呼んでくれよ」
常日頃のラキシスとはまるで違う、軽薄な喋り方。いくらお忍びの最中とはいえど王子相手にあまりに礼を欠いていると怒りを見せれば、ぺらぺらとよく回る口であっという間に言いくるめられてしまう。確かにそれも一理あるな、と思ってしまえばそれ以上彼の不敬を咎めることはベルトランには難しかった。
「ぐっ……善処す、……がんばる……いや、そうではなくて! 今すぐし、……家にお帰りください!」
「帰るならお前一人で帰るんだな。私たちは帰らんぞ」
「お、カディ様!」
けれどどうしたって譲れないものはある。騎士として、このまま王子を行かせる訳にはいかない。必死で訴えかけるも、つんとそっぽを向いてしまったカドリーユの反応はつれなく素っ気ない。
「心配するな、王子がお出かけになる事は城の者に伝えてある。王もご存知だ。極秘に護衛も数名ついている」
「……それなら、いやしかし……」
どうやって説得すべきか、うんうんと考え込むベルトランの耳にこそりと小声で囁いたのはラキシスだ。直前の喋り方を改め、いつも通りの口調で告げられた内容、そしてさっと彼が視線をやった方を窺えば、城で見たことのある顔が街に溶け込んでさりげなくこちらへと注意を向けているのが見てとれた。
「行くぞ。行かぬなら置いていく」
「っ! 行きます、行きますから!」
ならば、いやそれでもやっぱり、余計に悩み始めたベルトランをよそに、痺れを切らした王子はさっさと歩き始めてしまう。ラキシスもそれに倣ってついて行ってしまえば、いよいよベルトランには二人を慌てて追いかける選択肢しか残されていなかった。
「すごいな」
「そっすね」
しばらく歩いて辿り着いたのはユニガンの広場では市が開かれていて、様々な店がところ狭しと並んでいる。買い物をする者、店を冷やかす者、店主と値切り交渉をする者、駆けまわる子供たち。活気づいた人々の喧騒につつまれた市を眺め、感慨深げに呟いた王子にラキシスがすかさず相槌を打つ。ベルトランは無言で頷くだけに留めた。うっかりと口を開いてしまえば、王子と言葉にしてしまいそうだったから。
しばらくは目を細めて人々を見つめていた王子だったが、そのうち見ているだけでは我慢できなくなったらしい。わくわくとした期待を隠せない様子で、人の溢れる市の中にずんずんと分け入ってゆく。
当然、ベルトランとラキシスもその後を追い、怪しげな者がいないか警戒して周囲に目を光らせる。離れた場所には護衛がついているとはいえ、ひしめき合う人々と王子の距離はあまりにも近く、万が一を考えるだけで生きた心地がしなかった。
目的もなく歩いているだけに思えた王子は、そのうち一つの屋台の前で足を止める。みたらし、と書かれたのれんを下げた店では串に刺した団子をその場で焼き、仕上げに茶色いソースをかけて客に渡している。この国では見たことのない食べ物だ。店主の着ている物から判断するに、おそらくは東方のものだろう。
「三つ貰おう」
「あいよ」
そして止める間もなくごく自然な様子で王子が団子を頼んでしまったから、ベルトランは大いに慌てた。さすがに毒見もなしに王子に屋台の食べ物を食べさせる訳にはいかない。かといって頼んでしまった注文をうまいこと取り消す言葉も思いつかない。下手に動けば目立ってしまう。
ならばベルトランにせめて出来るのは、団子を焼く店主の手元から目を離さないことだけだ。怪しいものを混ぜ込む素振りはない。ソースは瓶の中に入っている。他の客に害が出ている様子はないことから考えて、瓶に毒が混ぜられている可能性は低いが、無いとはいえない。ならばベルトランが先に食べて団子にもソースにも毒が入っていなければ、他の団子に紛れている可能性はほぼないと言えるだろう。いやまて、串に毒が塗られていればその限りではない。となれば、腹を空かせたふりをしてベルトランが全て平らげてしまうより他ないのではないか。仕方ない、そうしよう。
やがて出来上がった団子を渡される時、考えた対策を実行すべく意気込んだベルトランがそれを受け取る前にさっとラキシスの手が伸びてきて、自然な動作で王子に向けて差し出されていた団子を手にする。そしてぱくりと口にすると、「おっ、うまいな」と小さな声で呟いた。
気負っていたところに予期せぬラキシスの行動を受けてベルトランが固まっていれば、その間に王子までもが団子を口にしてしまう。「うん、うまい」満足げに頷いてもぐもぐと口を動かす様を茫然と見つめたベルトランは、結果的に最後に受け取ることになってしまった団子をもそもそと口に運ぶしかなかった。うまい。
そんな三人の様子を見つめていた店主が、潜めた声で話しかけてくる。
「……あんたら、もしかしてお忍びかい?」
不意うちの言葉に反射的に身を固くして警戒すれば、店主が両手を振ってからからと笑った。
「ははは、警戒しなくていいさ。そっちの二人が護衛で、そっちが貴族の坊ちゃんってとこだろ?」
そして続いた言葉には、不意打ち以上の衝撃を受けてしまう。なぜなら護衛として指さされたのはラキシスと王子で、貴族の坊ちゃんだと言われてしまったのはベルトランだったのだから。
「まいったな、内緒にしてくれよ?」
咄嗟に否定しようとしたベルトランの口を、王子が塞ぐ。その間ににこやかに店主に話しかけたラキシスがその手にそっと数枚の銀貨を捻じ込んだ。暗に口止め料だと告げるように。
「おや、そんなつもりじゃなかったんだけどね。せっかくだからもう一本ずつおまけしてやるよ。ついでにうまい店も教えてやろうね」
そんなつもりではと言いながらも満面の笑みとなった店主がいそいそと団子を焼く間、あそこの屋台はうまい、あそこの出店はぼったくりだ、熱心に市の情報をラキシスへと伝えている。
ベルトランとしては是非とも店主の誤解、尊き主をまさか自らの護衛扱いだなんてあまりにも不敬な思い違いを何としても正してしまいたかったが、口を塞いでいた手を離す際に王子より、ベル、短く諫めるように名を呼ばれてしまえば、喉元まで出かけた訴えをぐっと飲み込むより他ない。具体的な説明は何一つ添えられてはいなかったけれど、短いながらも鋭い声音に、黙っているようにとの意を込められてしまったから。
主より命じられてしまえば、ベルトランは従うしかない。仕方なく無言のまま食べたおまけの二本目の団子も、大層うまかった。
「どういうことだ」
「そういうことですよ」
団子屋から離れてしばらく市の中を歩き、店主の姿が人影に隠れて見えなくなった頃合いを見計らって、小声でラキシスに問えばまるで答えになってはいない答えが返ってくる。生憎と一を聞いて十を悟るような器用な真似は出来ない。はぐらかすような言葉に苛立ちを覚えれば、ラキシスはひょいと肩を竦めてみせた。
「仕方ないでしょ、坊ちゃん、庶民のふりは苦手みたいですし。無理して隠そうとしてもバレちまいますって」
あくまで先ほどの貴族の坊ちゃんと護衛という設定を崩さないまま、暗にお前の演技が下手なせいだと言われた気がして少々むっとする。しかし己の態度がぎこちなかったせいで妙な誤解をされたことも分かっていたので、返す言葉もない。
「……影武者、頼んだぞ」
それにしたってもう少しどうにかならないものか、再び声をかけようとした瞬間、王子にぐいと胸倉を掴まれ引き寄せられたかと思えば、ぽそりと耳元で囁かれた。
近づいたのは一瞬のこと。すぐに手を離した王子はにやりと笑っていて、いかにも現状を楽しんでいる悪戯めいた顔をしているにも関わらず、その瞳は真っ直ぐにベルトランを見つめている。お前なら出来るだろう、疑ってもいない顔で信頼を向けてくる。
全く、なんてたちが悪い。叶うならば顔を覆ってため息の一つでも吐き出したかった。敬愛すべき主から信頼を向けられて、応えない騎士がいるだろうか。否、いるはずがない。王子はそんなベルトランの内心をも見透かしていて、その上で繕っていない心からの信頼をよせてくる。計算はしても嘘がないから、本当にたちが悪い。
これは任務だ、それも王子より与えられた直々の任務。ベルトランは己に言い聞かせる。王子の身を守るために必要なことなのだ。
「拝め……わかりまし、わかり、わかる……わかった……です」
なればやるしかない。拝命いたします、と口にしかけて慌てて訂正した言葉が着地をするまでに少々の時間はかかってしまったものの、与えられた役割を万全にこなすべく気合いを入れなおしてきりりと表情を引き締めた。
とはいうものの、演じはしても基本的にお忍びであるという立場自体は変わっていない。王子の影武者の心づもりにはなったけれど積極的に人に悟られるように動いたつもりはなかったし、人からわざわざ指摘されることもなかったから、傍から見てどう映っていたのかは分からない。それでもベルトランが影武者としての役割を務めようとすればするほど、ラキシスがへらへらと軽薄な物言いながら設定に忠実にベルトランを影武者扱いし王子を護衛扱いすればするほど、王子はやけに機嫌よく笑っていた。
団子屋が勧めた店を残らず回って、王子の気になる露店を覗いて、また小腹がすいたとよい匂いのする屋台で肉や魚の串焼きを食べ、また市をめぐって。そんなことを繰り返しているうちに太陽は随分と低い位置に下がりつつあった。
夕方になれば昼とは違う市がたつのだと聞いた王子は非常に興味を示してはいたけれど、さすがにそこまで居残る訳にはいかない。遅くとも日が沈む前には城に戻らねばならないだろう。それは王子もきちんと理解していて、名残惜しさは滲ませつつもお忍びを切り上げて城へと向かう。
その道中。カディ様、ベルトランが呼びかければ、王子はひどく寂しげな表情で瞳を揺らした。
「……もう、カディとは呼んでくれないのか」
「それは……」
市を回っている最中、どうしても王子を呼び捨てる事には抵抗があって極力その名を口にしないようにしていたが、一度だけ、必要に駆られて呼んでしまった。ラキシスにうまく誘導されたと言い換えてもいい。いくら市井に馴染むためとはいえ、ラキシスは馴染みすぎていたのではないだろうか、王子の身辺に警戒しながらも満喫していたようにしか見えないラキシスの姿を思い出して僅かに眉を寄せれば、王子は足を止めてしゅんと肩を落とした。
「無理を言っているのは承知だ。私の立場もそなたたちの忠義も理解している。……それでも、せめて城に帰るまではそなたたちを私の友と呼ばせてくれ」
とつとつと語る声には微かな悲哀と熱が込められていて、思わずはっと息を飲んでしまう。
カドリーユ様は随分と隔てのない方だ。騎士団の訓練にしれっと混じって共に剣を振り、同じ飯を食べて楽しげに笑う。まるで本当に一介の騎士と変わらぬような、自然な有様で。
確かに。王子、その身分に対して払う敬意だって勿論存在しているけれど、王子の周りに人が集まるのは身分ではなく王子自身に惹きつけるものがあるからだ。今日一日楽しんでいたラキシスだって、相手がカドリーユ様でなければ護衛についてくることすらしなかったに違いない。
人当たりがいいように見えて、案外人の好き嫌いの激しい男のことだ。ただ身分の高いだけの相手に護衛を求められたとして、うまく躱して別のやつに押し付けるか、あくまで護衛の範疇を超えることのない仕事をこなすに留まっただろう。わざわざ口調まで変えて王子に付き合ったのは、王子に心置きなく楽しんでもらうためだと分かっている。ついでにラキシス自身も心底楽しそうだったことも。
ベルトラン自身、カドリーユ様以外であったならば、どれほど請われたって愛称で呼ぶなどと臣下の域を超えたことは頑として辞退したことだろう。ラキシスのように器用には立ち回れなかったけれど、悩みながらも王子の要望に添えるようにと必死についていったのは、ご機嫌取りでもなんでもない。カドリーユ様に笑ってほしかったからだ。カドリーユ様が楽しそうなら、ベルトランも楽しくなってしまうから。
それでも。王子と騎士の間にはけして超えることのできない一線があることを、皆理解している。それは当然、カドリーユ様自身だって。
けれど、それでも。
「……水臭いこと言うなよ、カディ。今だけじゃなく、俺たちはずっと友達だろ? ……たとえあなたが王となったその時も、変わらぬ忠誠と友情を、永遠に。……なあ、ベル、そうだろ?」
先に口を開いたのはラキシスだ。途中まではおどけた口調で語っていた彼は、ふっと表情を引き締め改まった口調で告げる。胸に手をあて頭を垂れ、誓いを立てるように。
「……ええ、勿論です。か、カディ……変わらぬ忠誠と友情を、我が主と我が友に、永遠に」
促されたベルトランも、同様に誓う。けしてラキシスに流された訳ではない。
王子と騎士の間にはけして超えることのできない一線があることは事実。しかし同時に、カドリーユ様のことを特別に大事に思う自分がいることも本当で、恐れ多くも友と呼べるなら、嬉しい、思ってしまう自分がいることだって否定できなかったから。王子の意向に沿うためじゃなく、己自身が王子の友足り得たいと不遜な望みを抱いてしまったから。
「お前たち……」
垂れた頭に王子の声が降ってくる。どこか気恥ずかしそうな、嬉しそうな、感じ入っているような。いくつもの色を宿した声でふるりと語尾を震わせた王子に、ベルトランの胸もぐっと熱くなる。
「顔を上げろ」
ところが。王子の言葉で頭を上げたベルトランの目に飛び込んできたのは、声から想像した表情とは少々違った。嬉しそうではあったが、恥ずかしそうでも感じ入ってもおらず、にっと唇を上げて不敵に笑う顔はなぜか既視感が。そう、今日の昼頃、突然の呼び出しに慌てて向かった先にいた、王子とラキシスが浮かべていた表情によく似ているような。
「よし、では次はリンデに行くか!」
「……はっ?」
「また頼むぞ、我が友たちよ!」
果たしてベルトランの既視感は、思い違いではなかったらしい。まだ城に帰る前からもう、うきうきと弾む声で次のお忍びの計画を立て始めている。
そうだ、だからこの方はたちが悪いのだ。ベルトランは呆気にとられながらもしみじみと再認識してしまった。何も分かっていない訳ではなく、自分の立場も向けられた忠誠も好意も全て理解した上で、本当のことをぶつけてくる。計算した嘘でなく把握した上での本物をぶつけてくる。ベルトランたちが分かっていることも分かっている。超えられない線も葛藤も何もかも分かっていて、全部利用した上で、本物をひょいと渡してくる。自分の望む方向に誘導しながら、それを隠そうとはしない。
だから、心底たちが悪い。上に立つ方としても共に並ぶ存在としても、どうしたって惹きつけられてしまうのだ。
現に今だって。抜け目なくしっかりと次の予定を立てながら、ラキシスとベルトランを見て今日一番の笑顔を浮かべる。お前たちが臣下で嬉しい、お前たちが友で嬉しい、察しのあまりよくないベルトランですらはっきりと読み取れてしまうほど、弾ける笑顔に隠すことなく喜びを乗せている。
ちらり、隣を見ればラキシスが困ったように微笑んでいた。おそらくはベルトランも似たような顔をしているに違いない。ぱちり、二人の目が合えば、どちらともなく噴き出していた。