ジェラシー合成鬼竜
東方では次元戦艦の姿は目立ちすぎてしまう。更には改変された原因を探るために、ずっと東方で活動をしていたため、次元戦艦に頼るのは違う時代の仲間たちがそれぞれの時代に帰る時くらいで、アルド自身はしばらくの間、次元戦艦に乗り込むことすらなかった。
そうしたら。
「な、なんだこれ……?!」
久しぶりに足を踏み入れた次元戦艦。それなりに長い付き合いで、熟知していた筈の内部が、知らぬうちに大きく様変わりしていてアルドは驚愕した。
真っ直ぐの長い廊下はくねくねと曲がりくねり、あるべき場所に部屋がない。いくつもいくつも分かれ道があって、適当に進めば行き止まりに行きあたってしまう。早い話が、次元戦艦の中が巨大迷路と化していた。
一体何があったんだろう。もしかして次元戦艦にまで何かの時間改変の影響が出てしまったんだろうか。ついさっき甲板で話した合成鬼竜も主砲も特に変わったところはなかったようだったのに、とアルドが首を傾げつつも警戒を強めていれば。
突然、艦内に合成鬼竜の声が響いた。
「聞こえるか、アルド。合成鬼竜Zだ」
「合成鬼竜? なあ、一体これ、何があったんだ?」
「……聞いているぞ、アルド。最近、カラクリじかけの船で遊んでいるそうではないか。ふん、それくらいの児戯、俺だって出来る。内部を迷路に改造するなど容易いことだ」
「えっ?! い、いや、オレたち別に遊びに行ってる訳じゃ……」
「カラクリもあるぞ。艦内に仕掛けた突起を引くと、道が切り替わる。しかも構造から組み変わるのだ、すごいだろう」
そして流れる合成鬼竜の声を聞くうち、自然と警戒が解けてゆき、代わりに何とも言い難い微妙な気持ちと共にがくりと脱力してしまった。機械の平坦な音声ではあるものの、アルドは合成鬼竜の声にひしひしとある種の感情が滲んでいるのが分かってしまった。
(ものすごく、拗ねてる……)
村の子供たちがむくれてつんとそっぽを向いている時に似ている。他の子を褒めた時に、自分の方が凄いと拗ねてしまうチビたちの事を思い出して、アルドは生暖かい気持ちを抱く。最近ちっとも寄り付かなかったせいで、どうやら合成鬼竜は盛大にへそを曲げてしまっているらしい。
「なんだ迷路ではまだ物足りないというのか。良いだろう、その角を曲がって真っ直ぐ進み3つ目の角を曲がって更に進んだ先の、壁を二度叩いたら現れる階段を降りてみろ。間違い探しの部屋がある。存分に楽しむといい」
「だから……」
「同じ場所でクルーたちのレースも出来るぞ。誰が一番でゴールするか予想するのだ。どうだアルド、俺の方がすごいだろう。この合成鬼竜Zが率いる次元戦艦が、海を渡るだけの船やカラクリなんぞに劣るものか」
「……うん、すごいな……」
けして遊びにいっている訳では無いし、あちらで楽しんでいる訳でも合成鬼竜たちをないがしろにしたつもりもない。そう説明してなんとか誤解をとこうとしたものの、次から次に新しい部屋を紹介してゆく合成鬼竜に、ついには諦めてがっくりと項垂れ、力なく頷く。
どうにもこのまま解放されなさそうだぞと思い、指示に従って迷路を進んだ先、現れた階段を降りて見つけた部屋に入ってみれば、中には様々な仮装をした戦艦クルーたちが待機していて、間違い探しをするかレースをするか尋ねられる。クルーたちも無機質な音声ながら、どことなくそわそわと楽しげにも見えてしまったため、結局は断りきれずに間違い探しを三回、レースを五回する羽目になってしまった。もらった合成鬼竜ポイントは、貯まるといいものと交換出来るらしい。試しに十ポイント差し出してみれば、ビットの模型を貰えた。更にポイントを貯めればクルーたちや合成鬼竜や主砲の模型も貰えると聞いて、反応に困ったアルドはとりあえず微笑みを浮かべる。
(これからはもっと、定期的に合成鬼竜に会いに来よう)
貰ったビットの模型をどうしようかと思いつつ、まだまだあるぞと新たな部屋を紹介する合成鬼竜の艦内放送を聞きながら、アルドは密かに胸の中で決意するのだった。