お兄ちゃんの手のひら
「セヴェンくん、先に行ってるのー!」
「おいこら、転ぶぞ!」
素材集めと新しくやって来た仲間の肩慣らしがてら、巡った戦場から帰ってきた時のこと。次元戦艦に降り立ってすぐ、勢いよく駆け出したレレの背中にセヴェンは慌てて声をかけた。
慣れた場所とはいえ、新人に敵の弱点や行動パターンを教えながら何戦も繰り返せばさすがに疲れる。しかしあっという間に小さくなってゆくレレの足取りに、疲れの色は少しも見えない。
(ったく、ガキは元気だな)
本音を言えば今すぐにでもその辺の仮眠室か休憩ポッドに飛び込んで寝てしまいたかったけれど、レレを一人放っておくのも不安がある。後ろを振り向いて仲間たちに解散を告げてから、既に見えなくなったレレを早足で追いかけた。
辿り着いた先は、作戦ルームにあてている会議室の一つ。中にはセヴェンたちの帰りを待っていたアルドがいて、ちゃんとレレの姿もそこにあった。前に一度、次元戦艦の中で盛大に迷っていたことがあったから、間違わずに辿り着いていた事にほっとする。
そして安堵の息を吐き出したあと、ふと、セヴェンはおかしな事に気がついた。
アルドの隣にレレが立っている。それはいい。
「ねえねえアルドくん、あのね、あのね」と話しかけるレレが、先の戦闘のことや集めた素材について報告していないのも構わない。いつものことだ。
けれどその頭の上。そこがおかしい。
レレの頭から見慣れたとんがり帽子が消えていた。
よほど気に入っているのか、戦闘中、セヴェンの風で帽子が飛ばされそうになると、片手でしっかりと押さえて脱げないように気を遣っているし、宿に泊まる時も部屋着に着替えた後に帽子だけはきっちりと被っているのを知っている。
そのレレが、帽子を脱いでいる。おかしい。違和感がひどい。
よくよく見れば脱いだ帽子は両手にで胸に抱えていて、機嫌の良さそうな顔でぐりぐりとアルドに頭を擦りつけていた。
そして、見慣れぬ姿にセヴェンが戸惑ううち。
「アルドくん、レレ、いっぱいいっぱい頑張ったの!」
「そうか、お疲れさま、レレ」
「えへへ、だからね、アルドくん! いっぱいレレのこと、褒めてほしいの!」
「はは、分かった分かった。えらいぞーレレ、よくやったな!」
「うふふふふ」
ぴょんぴょんとアルドの腕を掴んで飛び上がったレレが褒めてほしいとねだると、笑って頷いたアルドがよしよしと帽子を脱いだレレの頭を撫でる。途端にぴたりと動きを止めたレレは、擽ったそうに笑いながらもっともっととねだるようにアルドの手に頭を押し付けた。
一体何を見せられてるんだオレは、と突如始まった光景にフリーズしていたセヴェンだったが、「セヴェンもお疲れさま。みんなどうだった? 怪我はしてないか?」とアルドに話しかけられたので、狼狽えつつも聞かれたことに答えてゆく。その間も、アルドの手はレレの頭の上を行ったり来たりしっぱなしだった。
やがて報告を終え、「ちょっとみんなの様子も見てくるな」と言い残してアルドが部屋を出てゆき、レレと二人、会議室に残されたセヴェンは、ついつい胡乱な視線をレレに向けてしまった。
アルドが出てゆくとほぼ同時、きっちりと帽子を被り直したレレは、そんなセヴェンの視線に気づくとにっこりと笑って、あのね、と弾んだ声で今しがたの光景について語り始めた。
「アルドくんはね、頭を撫でるのが上手なの! 柔らかくって、優しくって、ふわーっとして、とっても気持ちがいいの」
にこにこと続けたレレの話によれば、それはどうにもアルドの癖のようなもので、フィーネと同じかそれより低い位置にある頭を時々、無意識のうちに撫でてしまうらしい。フィーネのみならず、村の小さな子供たちの兄代わりも務めていたせいで、気を抜いているとうっかりと出てしまうようだ。その手のひらの感触を、レレはいたく気に入っているという。
帽子を被っていると撫でてもらえない。だから最近レレはアルドに近づく時は必ず帽子を脱ぐようにしていて、それでも撫でてもらえない時は自分からおねだりするのだと、ふわふわと機嫌の良さそうな顔で笑って説明した。
ふうん、とその時は曖昧に頷いて納得した素振りを見せたセヴェンだったが、なんとなく気になってそれから、いつもよりアルドとその周りをよく観察するようになった。
すると思っていた以上に、アルドの癖について知っていると思しき仲間が多い。別にアルドについて何もかも知りたいだなんて思ってはいないけれど、気づいている仲間がいる一方で自分は気づいていなかった事が少し面白くなくって、憂さ晴らしがてらセヴェンはより一層力を入れてアルドの観察を続けた。
そうすると、アルドの癖に気づいている仲間のうち、反応がいくつかに分かれている事に気がつく。
一つ目は、レレのように積極的に撫でて撫でてとねだりに行くグループ。
よく見かけるのはレレとシエルとアカネで、レレは初めに目撃した通り。しょっちゅう帽子を脱いでアルドにくっついて回っている。
シエルはレレほどあからさまに催促はしないものの、「あのね、お兄ちゃん」と頬を赤らめてもじもじしたあと、そっとアルドの服の裾を引いて上目遣いで催促する。勿論帽子はきちんと脱いでから。
そんなシエルの姿を見るたび、あいつの性別って何だっけと疑問が湧くのを止められない。前にフォランとエリナがシエルの女子力の高さについて話していたのを耳にしたことがあって、なるほどこれが女子力、と思わず納得してしまったのが少し悔しい。
そんなシエルの行動にも顔色一つ変えず、当たり前のようにそれを受け止めるアルドはやっぱりすごい。知ってたけど。
アカネはそんな二人とは少し事情が違っていて、撫でてください! としょっちゅう突撃してくるくせに、その実本当の狙いはアルドではないようで、ひとしきりアルドに撫でてもらったあと、なぜだか必ず近くにいるシオンに「兄上もこのように! さあ!」と目を輝かせて頭を突き出している。
シオンがアカネに言われるまま撫でてやる事はあまりなく、難しい顔でアルドにあまり迷惑をかけないようアカネに小言を言って聞かせる場合が多い。それでもアカネは嬉しそうにはい! はい! と聞いているから、本人的にはそれでも満足なのだろう。たまに小言のあと、ため息をついたシオンが頭を撫でてやる事もあるから、いくら叱られてもアカネはめげる様子がない。シオンのいるタイミングを見計らって、もしくはシオンを引き連れてアルドの元に何度もやってくる。
ある意味では巻き込まれたとも言えるアルドは、特に嫌な顔をすることもなく全て分かっているように笑って、そんな二人を見守っている。
よく見かけるのがこの三人というだけで、他にもちらほらと姿を見かけるやつらはいる。
シュゼットは「特別にわたくしの頭を撫でさせてさしあげますわ!」と小さな帽子をきちんと外してアルドに迫るも、いざ撫でられると高飛車な態度は形を潜め、「えへへ」とふにゃふにゃに溶けた顔で笑っている。アルドが途中で止めると「えっ……もう終わり?」と寂しそうにしゅんと肩を落とすから、結局シュゼットが満足するまでアルドが付き合わされている。
アザミもシュゼットと同様、「撫でてもいいんでござるよ!」と強気にねだるくせに、いざ撫でられればひあああ! と奇声を上げて真っ赤に頬を染め、アルドの姿が見えなくなった途端に壁にガンガンと頭を打ち付けて「婿……結婚……」とぶつぶつと呟いていた。ちょっと怖かった。
意外だったのはイスカだ。
「試しに撫でてみてくれるかい?」とこちらも自らアルドに頭を差し出し、「……悪くないものだね」と少し面映ゆそうに目を細めていた。それからも時々、アルドに頭を寄せる姿を見かけるようになったから、どうやら気に入ったらしい。
他にも、ナギは普段はちっとも興味のなさそうな顔をしているくせごくごくたまにアルドの膝を占拠してイカと言い張るタコの上から頭を撫でられながらおやつを食べていたし、ビヴェットはルミロと頭を並べ、両方撫でてと催促していた。リィカは頭を差し出したあとに必ず「データの収集のためデス、ノデ!」と胸を張っていて、定期的なデータ収集が必要だと主張していたが、一体何に必要なデータの事なのかは分からない。多分、ただの口実だと思うものの、ポム辺りにに渡せばしっかり活用出来てしまいそうなので、微妙に警戒している。
ちょっと変わっているのはトゥーヴァで、なぜだか自分ではなく骨を撫でるよう頼んでいた。骨に囲まれたアルドがおずおずと頭蓋骨に手を乗せる様は怪しい儀式をしているようにしか見えなかったけれど、トゥーヴァ本人は満足気に目を細めてそんなアルド達を見守っていた。
また、直接アルドに撫でてほしいとねだりに行く訳ではないが、誰かの頭を撫でているアルドの姿を見て、自分もと身近な相手に頼むパターンもある。アカネと似たような感じだ。
よく見るのはシーラとチヨ、アナベルとディアドラの組み合わせで、前者は笠を外してそわそわちらちら、アルドとシーラを交互に見やり挙動不審になるチヨの様子を見かねたシーラが、仕方ないわねと苦笑いでわしゃわしゃと豪快に撫でてやっていて、後者はまるで敵に相対してるかのような真剣な顔つきの二人が互いの頭をそろそろとぎこちなく撫であったあと、照れくさそうに顔を見合わせて笑っていた。
そのあと、シーラとアナベル、ディアドラの三人がバラバラに、アルドに頭の撫で方を習いに来ていたから、それぞれ思うところがあったのだろう。三人とも至極真面目な様子だったから、頭の撫で方にコツなんてあるのか、だなんて身も蓋もない疑問は口にせずに胸の内に秘めておいた。
以後何度か見かけるうち、シーラの手つきはだんだんと柔らかくなっていてチヨだけでなくナギの頭にも自然に伸びるようになり、アナベルとディアドラも笑顔を浮かべて互いの頭に手を伸ばすようになっていたから、ある程度コツのようなものは存在していたのかもしれない。
次はさりげなくアピールしているグループ。
はっきりと言葉にして撫でてくれとは言わない。けれどアルドに近づく時には帽子や飾りをとって、必要も無いのに引っ張ってきた椅子に腰掛けアルドより頭を低い位置に置いている。明らかにアルドの癖を知っていて、狙っているように見える。
傍目にも分かりやすかったのはロキドで、椅子に座って大きな身体を小さく小さく縮めていた。更にはそわそわと落ち着かなく尻尾を揺らして、ちらちらと視線を向けていたからさすがにアルドも言われずとも気づいたみたいで、わしゃわしゃと両手で撫で回してから櫛で丁寧に毛を梳いてやっていた。
あとで聞いた話によれば、アルドと知り合うまで母親以外の相手からそんな風に触れられたことがなくって、その母親に触れられたのも随分と昔のことだったから、どんな感じなのか気になって少し羨ましくなってしまったのだと照れていたという。
アルドは勿論のこと、仲間のやつらも大概お人好しで、そんな話を聞いて放っておけないやつらは沢山いる。以来アルドでなくとも気づいたら誰かがロキドに引っ付いて、毛を繕ったりぺたぺたと撫で回している場面をよく見るようになった。
マリエルがぼふんと背中に垂れた毛の房に顔を埋めて「ふあぁ! 至福です!」と興奮気味に繰り返しているのを見た時は、さすがに鬱陶しくないのだろうかと思ったけれど、ロキドが嫌がる素振りはなかったので案外満更でもないらしい。本人がそんな様子で、かつ、確かにあの毛並みは手触りが良かったので、セヴェンもたまに触らせてもらっている。
ノマルは最初はおそらく意図してなかったのだろうけれど、兜を脱いだところを撫でられて「アルド兄ちゃん」と口走りかけていた。慌てて「アルド先輩!」と言い直していたけれど、おそらく以前はノマルもアルドが兄代わりの村の子供の一人だったのだろう。それから兜を脱いだノマルを見かける頻度が、格段に上がった。ロキドほどわかりやすくはないものの、こちらも多分狙っているとセヴェンは睨んでいる。
フォランはそんな仲間たちの動向を「みんな結構子供っぽいんだね」と言って笑って見てたくせに、アルドの傍に立つ際、ほんの少し膝をかがめて頭の位置を調整している場面を偶然にも目撃してしまった。そんなセヴェンの視線に気づいたフォランは珍しく慌てた様子で弁解をしたあと、「だってみんながあんなに寄ってくから、どんな感じか気になったんだもん!」と最後には顔を真っ赤にしながらばしばしとセヴェンの背中を叩いてきた。結構痛かったので、決定的瞬間を写真に撮っておいてやれば良かったと少しだけ思った。
他には、一つ目のグループのやつらがこっちに入る事もある。
特に多いのはシュゼットとアザミで、おおよそ半々の割合で一つ目と二つ目を行ったり来たりしている。無言の催促にアルドが気付かずスルーしているとしゅんと肩を落としたり、むすっと唇を尖らせて拗ね始めるので、そういう場面に運悪くかち合ったらそれとなくアルドを誘導してやるようにしている。不本意ではあるものの、暗い空気を撒き散らされると鬱陶しいので面倒でも仕方ない。
そもそもの要因でもあるフィーネは、そんなアルドと仲間たちの様子を基本的には微笑ましそうににこにこと見守っているけれど、たまに寂しくなるらしい。そういう時は何も言わず、ぴたりとアルドの横に並ぶ。アルドもそんなフィーネの行動には慣れているのか、すぐに気づいてよしよしと頭を撫でてやっている。
他のやつらの頭を撫でている時のアルドも大概穏やかな顔をしているが、フィーネの時はその表情が一層柔らかくなる。
きっとあれこそが、まさしくアルドの兄としての顔なんだろうな、と寄り添う兄妹を見ながらぼんやりとそんな事を思った。
そんな風に撫でてほしそうにしている一群がいる一方、当然アルドのそれを嫌がるやつらもいた。
激しく拒絶の態度を示したのはメリナで、「子供扱いしたら潰すって言ったわよね」とジト目でアルドを睨みつけ、その背後では巨大な右手が拳をつくり、ぱしんぱしんと開いた左の手のひらに打ち付けていた。さすがにあれに殴られればアルドもただではすまないと、こっそり手元で呪文を編んで間に入るタイミングを伺っていたが、発動に至ることはなかった。なにがどうしてそうなったかは分からないが、なぜだか連れてこられたプライがアルドに頭を撫でられることで落ち着いたからだ。
困惑を顔に浮かべたプライと、神妙な顔つきで頭を撫でるアルドと、心なしか満足気な顔をしてそんな二人を見ているメリナの三者三様の違いが印象的だった。
なお、帽子を脱いだプライの頭を見て、髪、ちゃんとあるんだな、とセヴェンがこっそり思ったことは秘密である。一時期フォランやシエルたちの間で、プライの帽子の下は禿げているかふさふさかの激論が交わされていたのを思い出したせいなので、セヴェンに悪意はない。悪いのは言い出したやつらだ。
その後アルドの横に並ぶ時は、水色の大きな手に抱えられてアルドよりも目線を上に保つメリナの姿を度々目撃したので、よほど子供扱いされるのが嫌らしい。そうやってムキになっているのは逆に子供っぽいんじゃないかと思ったけれど、勿論本人には言わなかった。怒りの矛先がこちらち向くのを警戒したのもあったけれど、元々、見た目の幼さの割に随分と大人びていたメリナの、そんな珍しい様子を見た周りの年嵩の仲間たちがほっとした顔をしていたのを知っていたからだ。
他にも宿でフードをとった際に急襲を受けたレイヴンはものすごく嫌そうな顔で宿の廊下に高らかに鳴り響く舌打ちをしていたし、ロベーラは何とも言い難い妙な表情をした後、煙草の火を逆につけていた。
ベネディトは触れられる前に反射的にアルドの手を捻りあげていて、ジェイドは肩を大きく跳ねさせて顔色を悪くしていた。この二人についてはどうにも撫でられる行為というより頭に触れられる事そのものが苦手らしく、アルドも彼らに対しては癖が出てしまわないよう注意を払うようになった。
そしてあとはそれ以外の、特に気にしないグループ。
殊更撫でてほしそうにもしないし、激しく拒絶もしない。
たまたまアルドの癖が発動したら、びっくりはしてもさほど気に留めた様子もなく笑って受け流す。
人数でいえば、ここに属するやつらが一番多いと思う。
セヴェンもおそらく、分類すればここに入る。
おそらく、と言うのは、セヴェンはまだ一度もアルドに撫でられた事がないからだ。原因は常に帽子を被っているせいだと思う。かけているゴーグルが大きいのも関係してるかもしれない。
だから、たぶん。
もしもアルドの手が伸びてきたら、さらりと笑って流せると思う。思いたい。
しかしながら。
もしかして、もしかして。
実は二つ目のグループに入りかけているのかもしれない、としばらくアルドとその周りを観察し続け、大体の傾向を把握したセヴェンは苦悩していた。
「最近のセヴェン、アルドに張り付きすぎじゃない?」「しょっちゅう傍にいるよね、背後霊っぽい」「むしろアルドの背景」「わかる」と一部で囁かれるくらいには、可能な限りくっついて回ってアルドの癖の発動の一部始終を見守り続けた結果。
その手のひらの感触が気になって仕方がなくなってしまったのだ。
なにせリピーターが何人もいる。そいつらは揃いも揃って撫でられてる間は気持ちよさそうに目を細め、撫でられ終われば幸せそうに微笑んでいるのだ。
何がそんなに気持ちいいのか。試しに自分で自分の頭を撫でてみたものの、いまいち良さが分からない。
恥を忍んでこっそりとレレに聞いてみたが、こちらもさっぱりだった。
「ふわふわして、ほこほこして、うきうきなの!」
「あ、分かります! ほわあ、ってなって、さらさらーって感じですよね!」
「はい、はわわあ、ふわあってなりますよね!」
密かに始めた話だったはずなのに、いつの間にかちゃっかり混じっていたマリエルとユナと共に、抽象的すぎる言葉で通じあっていたが、何も伝わってこない。せめてこちらが分かる言葉で話して欲しかった。
もっと詳しく、と注文をつけてみたら、「ほぉわあ! って感じじゃないですか?」「うーん、ほっふぅ、みたいな」「ほわんほわんなの!」とますますセヴェンの理解出来ない次元に突入してしまったので、彼女らから情報を得ることは諦めた。
となれば、やはり実際アルドに撫でてもらって体験するより他ない。
散々見てきたから、どうすればいいから分かっている。
ストレートに頼むか、遠回しに撫でられ待ちをするかだ。
(べべべ、別に、どうしても撫でてもらいたいとかそういうんじゃねえし! ただ、ちょっと気になるだけで……うん、そうだ、フォランも気になるって言ってたしな……)
前者はハードルが高すぎた。そんなの、アルドにものすごく撫でられたがっているみたいで恥ずかしい。そんなに子供じみてはいない、つもりだ。
だけどやっぱり、気になるものは気になってしまうから。
どうにか周りにはそれとバレずに、うまく帽子をとってアルドの癖が発動するのを待つ必要がある。
それにはどうすればいいか。
難しい顔のままセヴェンは小一時間悩み続け、ようやく、一つの作戦を思いつく。
それから、次元戦艦や宿屋にて。
「あー、暑い、今日はあついなー」と大根役者も真っ青な棒読みの台詞を誰にともなく吐き出すと共に、帽子をを脱ぐのが習慣になったセヴェンの姿が見られるようになった。
全てを悟った周りの目がひどく生暖かい事に、彼は気付いていない。