夢を見た。

随分と長い夢だったような気もするし、一瞬で過ぎ去った気もする。中身はまるで覚えてはいないのにその名残だけがずっしりと体に残っていて、目覚めたばかりなのに妙に疲れて仕方ない。重い荷物を背中にいっぺんに、ずしりと乗せられたようだ。
いつもよりもすっきりとしない朝、けれどダルニスは布団の中で微睡むことなく勢いよく上体を起こし、頭を振って夢の残滓を振り払う。だらだらとしている場合ではない。なぜなら今日は、アルドとの約束があるのだ。
まだ朝日は昇っていない。アルドとの約束は、太陽がペカリの樹に差し掛かる頃合に、村の外れの井戸の前で。約束まで随分と時間はあったが、ダルニスはさっさと起き出して支度を始める。アルドと会う前に、ヌアル平原に仕掛けた罠を確認しておきたい。
さて今日は、アルドはちゃんと時間通りにやってくるだろうか。準備をしながらダルニスは考える。朝にひどく弱いアルドは、午前中の約束には二割くらいの確率で遅れてくる。今日はどうだろうか。
そこまで考えたダルニスの中に、ちかりと閃くものがあった。今日のアルドは、絶対に遅れてくる。なぜだか、確信があった。身支度もそこそこに、寝ぐせのついた頭のままついさっき起きたばかりという素振りを隠しもせず、全力で待ち合わせの場所まで走ってくる。その様がありありと目に浮かぶようで、予想が外れる気がまるでしない。あまりに己がアルドが遅れてくると断言するせいで、いやいやあいつだって最近は寝坊癖はちょっとはましになったんだぞ、庇ってやりたい気にすらなった。それでもダルニスの中に生まれた確信が揺らぐことはない。絶対に、遅れてやってくる。間違いない。
けれどそう思ったからといって、ダルニスまで遅れてゆくつもりはない。きっちり時間通りに待ち合わせの場所に行って、アルドがどれくらい遅れてくるか、数えながら待つことにしよう。あんまりに遅かったならば、今度酒場で何か奢らせよう、そんなことを考えながら身支度を終えたダルニスは家を出る。

――今度こそは。

不意に。頭の中、声が聞こえた気がした。自分の声のようで、まるで違うような声。咄嗟に周囲に視線をやったけれど、当然、部屋の中にダルニス以外の姿は存在しない。
気のせいか、すぐに判断して村の外へ向けて歩を進めるダルニスの、無意識の奥底。けして取り出されることなく、ただ積み重なってゆくだけの、いつかの記憶。終わってしまった世界の残滓の中。
過去の、現在の、未来のダルニスたちが、祈るように握った手を額に当てて、今度こそは、口々に囁いていた。


――そして青年は、××××××回目の夢を見る。