お願いアルド
「え、と。じゃあ、触るぞ」
「うん、お願い」
次元戦艦の一室、アルドへと割り当てられた部屋。鍵のかかった扉の内側には、アルドとマイティの二人だけ。
一人用の幅の狭いベッドの上、向かい合う二人の間に漂う空気は、いつもより幾分強ばっている。
アルドもマイティも上半身には何も身につけておらず、肌を剥き出した状態だ。
そんな傍から見たら少し間の抜けた格好のまま、至極真面目な顔つきをしたアルドは、確認の言葉と共にゆっくりとマイティへと手を伸ばした。
きっかけは、マイティの方から。
珍しく思い詰めた表情で、相談したいことがあるんだ、なんて言われれば、アルドに聞かない選択肢はない。他の人には聞かれたくないとの希望に、次元戦艦のアルドの部屋に招いて、ゆっくりと話を聞くことにした。
一体何があったんだろう、マイティから相談を持ちかけてくるなんて余程のことだ。普段は焦れったくなるくらい頼ってくれないマイティからの言葉に、心配になると共に、少し浮かれる気持ちがあったのも否定はしない。相談相手にアルドを選んでくれたことが嬉しくて、何が何でも力になろうと意気込んでいた。
「え? ち、乳首……?」
「うん……僕の形、ちょっと変なんだ……」
そうして辿り着いた部屋にて。
ベッドに並んで腰掛けて話を促せば、しばしの逡巡の後、おずおずとマイティが切り出したのは、アルドが全く予想もしていなかったもの。
てっきり、マイティの仕事絡みの話か、マイティだけでは手に負えない事件でも起こったのかと思っていたけれど、俯いたマイティが言いにくそうにぽつぽつと話し出したのは、まさかの乳首の話。
予想外の話にアルドが混乱しているうちに、相談は続いてゆく。
乳首の形が、普通とはちょっと違って、陥没乳首という肉の中に埋まった形になっていること。それが気になっていて、みんなと風呂に入るのが苦手なこと。マッサージをして刺激を与えれば顔を出すので、改善のために自分でしようとしたけれど、うまくいかないこと。
「人にしてもらう方が、うまく行くらしいんだよね。だから、アルドに手伝ってもらいたいんだ」
「えっ? えっと……」
相談の内容をうまく咀嚼できないまま、ちょっぴり混乱しているところに、手伝って欲しいと言われて、アルドはすぐさま返事は出来なかった。だって何を手伝えばいいのかすら、さっぱりと分からない。
「こんなこと、アルドにしか頼めないし……だめかな?」
「だ、だめじゃないよ! オレに出来ることなら協力するよ」
けれど、しゅんと肩を落としたマイティを見てしまえば、無理だなんて言えなかった。何をすればいいかはちっとも分からないままだったけれど、頼られた以上は応えてやりたい。アルドにしか頼めないなんて言われれば、尚のこと。何が出来るか分からないけれど、出来ることは何でもしてやりたい。
かくしてアルドは、マイティの乳首マッサージに協力することになったのだった。
服を脱いでベッドの上に座ったアルドは、まじまじとマイティの乳首を観察する。
そもそもアルドは、一般的にどんな形の乳首が普通だと言えるのか、よく分かっていない。村で過ごしてきた中で、同性の身体ならそれなりに見慣れているつもりだけれど、かといってじっくりと乳首を観察したことなんてなかった。改めてどんなものか思い浮かべようとしたってぼんやりとしたなんとなくの輪郭しか浮かんでこないし、自分の乳首がどんな形をしているのかすらさして気にした事はなかった。日々の中で乳首について気にするのはせいぜい、寒い朝に着替える時や風呂に入った時たまに勃っているなと思うくらいで、それ以外の時は存在すら忘れているように思う。
しかしそんなアルドからしても、マイティの乳首は少し変わっているように見えた。
平べったい胸の左右の中心が、淡く色づいている。それはアルドが知っているものと、多分同じだ。けれどその色からして既に、見知ったものとは違う。
一度マイティの乳首から視線を外し、自分の乳首を確認する。アルドまで服を脱ぐ必要はなかったのに脱いでいるのは、マイティが一人だけ脱ぐのは恥ずかしいと言ったからだったけれど、おかげですぐに自分のものを確認が出来るのは都合が良かった。
視線を向けたそこにあるのは、薄い茶色がかった色で、中心に行くにつれて濃くなってゆく。村で見たことのある筈の記憶の中の乳首も、大体は似たような色で、違いは濃いか薄いか、それくらいしかなかったように思う。
けれど視線を戻した先、マイティの胸の中心を彩るものは、茶色ではなかった。
(ピンクだ)
ほんのりと明るい、桃色に近い色をしている。肌の白いマイティに、花のような色はよく似合っているのに、なんだか見慣れなくって見てはいけないもののような気もして、どこか気まずくて落ち着かなくって仕方ない。
しかも違うのは色だけではない。中心から広がるように丸く色づいた部分が、ぷくりと盛り上がっている。
その真ん中には、マイティの言っていた通り突起が存在していない。代わりにあるのはすっと入った切れ込みで、隙間から僅かに乳首の先端が覗いていた。
アルドの乳首はそんな風になってはいないし、そんな乳首を見るのは初めてだったから、余計にどぎまぎと理由の分からない焦燥がそわそわと胸の中をくすぐった。
「やっぱり、アルドのとも違うね……」
「い、いや、うん」
マイティの言葉にぎくりと肩を跳ねさせたアルドは、ふう、と一度息を吐き出す。予想していたより随分と熱く湿った息を追い出して部屋の空気を取り込めば少しだけ、騒ぎかけていた心臓が落ち着きを取り戻した気がする。
(そうだよな、マイティ、悩んでるって言ってたんだ。オレが変な態度だと、余計に気になっちゃうよな)
アルドにしか頼めないと言ったマイティの、心做しか萎れた表情を思い出せば、自然と雑念が取り払われなんとかしてやりたいとの気持ちが大きくなる。まだ僅かに緊張はしていたものの、気を引き締めて厳粛な心持ちで、その胸へと手を伸ばした。
ふにり。
しかしながら、落ち着いた筈の熱はすぐさま、あっさりと蒸し返される。
ぷくりと膨れたピンク色の部分に指で触れると、想像以上に柔らかな感触があって、指先がふわんと肉にめり込んだ。
(や、柔らかい……なんだこれ、すごく気持ちいいぞ……)
ふに、ふに、真顔のまま何度もつついてみても、感触は変わらない。アルドの指先の皮よりも随分と柔らかくてふわふわしていて、いつまでも触っていたくなる心地良さだ。
「アルド……」
「あっ、ごめん! えっと、刺激すればいいんだっけ?」
切り上げ時が見つからず、ひたすらつんつんとついていれば、躊躇いがちにマイティに声をかけられ、はっと表情を引き締める。そうだ、こんなことをしている場合ではなかった。
目的を思い出して改めて刺激をしようとするも、具体的なやり方はよく分からない。けれど乳首を引っ張り出せばいいのだから、押し出せばいいのだろうと判断して、中心をせり上げるように盛り上がったピンク色の部分を親指と人差し指でぎゅっと摘んだ。
「んっ!」
「ご、ごめん、痛かったか?」
「ううん、ちょっとびっくりしただけ」
途端に、マイティがびくりと身体を震わせて、短い声を上げたからアルドは慌ててぱっと指を離す。それほど力を込めたつもりはなかったけれど、強すぎたのかもしれない。マイティの表情を伺いつつ、今度は先程よりも力を抜いて、そうっと二本の指で乳首の周りに触れる。
くにくにと指を動かして、優しく揉むように指を動かす。相変わらず指先から伝わる感触は気持ちがよくって、クセになりそうだ。何度か揉むうちに、アルドの指先の汗が移ったのか、それともマイティの胸がじわりと汗をかいたのか、しっとりと湿って指先にぴたりと吸い付き始め、ますます離しがたい触り心地へと変化してゆく。
マイティは目を瞑って、何かに耐えるようにきゅっと唇を引き結んでいた。もしかして痛いのを我慢しているのだろうかと、揉み込む強さを変えながら、大丈夫かと声をかければ、マイティの唇が僅かに開いた。
「んっ、ふ、大丈夫、だから……」
「わ、分かった……」
隙間から零れたのは、途切れ途切れの言葉に差し込まれる息の音。ふ、ふ、とやけに大きく響く息にぐわりと体温が上がった気がして、アルドは気まずさを誤魔化すように胸を弄る指先に意識を集中させる。
しばらく刺激を与えていれば、徐々に胸の中心、切れ込みの隙間が広がったように見えたけれど、依然として顔を出すまでには達しない。覗く突起の先端は、もう少し、きっかけがあれば飛び出てきそうなのにな、と指先の感触をちゃっかりと楽しみつつ思案したアルドは、そうだ、と思いついて早速それを実行に移した。
「あっ! あ、ん、アルドぉ……」
多少強引にでも、吸い出してやればいいのではないか。そんな思考に基づき、マイティの胸にじゅっと吸い付けば、頭の上から上擦ってしっとりと濡れた声が降ってくる。耳から入ってきたその声に、ぞわりと胸の内側を撫でられて腰が熱くなったけれど、気づかないふりでちゅうちゅうと吸い付く力を強くした。
舌先で隙間を広げるようにちろちろと舐めて、空気が逃げないようにぴたりと唇で挟んできゅうっと吸い上げる。ふくふくと盛り上がった周囲の肉は、指先で触れた時以上にぴたりと沿ってきて、唇に当たるふにふにとした感触が心地よくてたまらない。
やがて何度目か、強く吸ったタイミングで、ぴこんと固いものが飛びだす感覚があった。
ようやく顔を出してくれたそれに感動にも似た気持ちを抱きつつ、アルドは胸に吸い付いたまま離れない。
だってすぐにやめてしまえば、また引っ込んでしまうかもしれない。ちゃんと飛び出たまんまになるように、もう少し吸い出しておいた方がいいだろう。
と、言うのは、咄嗟にアルドが胸のうちに並べ立てた、建前の言い訳だった。
本当のところは、もっとこの感触を味わっていたいだけだった。
唇に当たる柔らかな肉とは対照的に、舌先に当たるこりこりとした固い感触がやけに気持ちがよくって、口の中で転がすのが楽しくて仕方ない。その小さな粒を舐め上げるようにべろりと周りから先端に向けて舌を動かせば、ふるん、と口の中で揺れるのが面白くってきゅっと胸が締め付けられる。真ん中とその周りを、交互に舌で押し込めば、沈み込むような柔らかさと芯のあるほどよい固さ、二つの異なるものが舌を刺激して、じんと頭が痺れたようになってゆき、ぶわりと多幸感が体中に広がってゆく。アルドの舌の動きに沿ってぐにぐにと向きを変え、戯れに舌先で押し込んで離せば、勢いよくぽこんと跳ね上がってくる凝りが、いじらしくて可愛くてたまらない。
気持ちがよくって、妙に口馴染みがよくって、どれだけ口の中で転がしても飽きることがなく、ずっと吸っていたい。ちゅうちゅうと吸い付いているうちに、中心がますます固さを増してゆく気がして、つられるように気分が高揚していった。
いつの間にか、後頭部には添えられた手の感触があった。アルドの髪を掴むそれは、頭を引き剥がそうとするのではなく、まるでもっとと強請るように控えめな力でアルドの頭を胸に押し付けていた。よくよく耳をすませば、ちゅばっちゅばっとアルドの唇から盛れる湿った水音の隙間に、ふ、ふ、と上がり切った息の音が混じっている。それが自分のものでなく、頭の上、マイティの口から漏れている事に気づけば、止められる筈もなかった。
「ん、あっ、アルド、うぅん、ふあああっ」
じゅっじゅっと吸い付いて舌先で小さな粒を舐め上げる度に、マイティの声が漏れる。気持ちよさそうなそれは、アルドが舌を動かすたび、吸い付く力を強めるたび、律儀にぴくぴくと身体を震わせて部屋に響いた。アルドの行為が、マイティからそんな声を引き出しているのだと、こうも分かりやすくあからさまに示されてしまえば、もっともっと、いろんな声で啼かせたくなってしまう。
固く芯を持った中心の根元、かりりと軽く歯を立ててやれば、一際大きくびくびくと身体が跳ねる。ひ、と旋毛に吹きかけられた音には、微かな恐怖と隠しきれない熱が入り交じっていて、胸に爪を立てて掻きむしられたように内側が荒れ狂い、煽られて興奮が深まってゆく。
盛り上がった周りの肉にかり、と歯を立ててから舌でなぞれば、アルドの歯の形にへこんだ溝が刻まれていた。それを一つ一つ舌先で確認して執拗に舐めるうち、腹の底から喉元までせり上がってきた興奮で、息を止めた時みたいに頭に血が巡りすぎ、苦しくてたまらない。
ぱ、と離れたのは、けして満足したからじゃない。叶うならばずっと口に含んでいたかったけれど、ぐっと重くなった腰、ズボンの中で張り詰めたものが、ずきずきと存在を主張しはじめたから。歯型を残すたび、もっとめちゃくちゃに噛み付いて、いっそ噛みちぎってしまいたいなんて、ぐらりと煮えた脳裏に過ぎる不穏な願望に、ようやく遅い警告がちかちかと頭の片隅に灯ったから。
そして何よりも。けして消えないくらいに、深く深くその柔らかな肉に歯をめり込ませて痕をつける事を想像した瞬間、それだけで果ててしまいそうになったから。
興奮と共にまずい、と自身に危機感を抱いて、反射的にマイティから距離をとる。自身の欲求とマイティの安全を天秤にかけて、後者を選ぶ程度には辛うじて理性は残っていた。
「ご、めん……っ、やりすぎ、た……」
すっかりと上がり切った息、はあはあと吐き出しながら、どうにか謝罪の言葉を口にしたアルドは、マイティの姿を見てひゅっと息を呑む。
散々舐めてしゃぶって吸い上げて噛み付いた胸の中心は、ついさっきまでは白猫の肉球のような可愛らしいピンク色だったそこは、今やその名残もないほどに真っ赤に腫れ上がっている。歯型はくっきりと残ったまま、元々ふくりと盛り上がっていた周りは、ますます膨らみを増していて、中心にぴこりと勃ちあがった先端は、視覚だけでも固く凝っているのが分かってしまう。
対比のように反対側の胸は、未だ慎ましく芯を隠したまま、控えめに色づいていたから、余計に赤く染まり切って、濡れててらてらと光るそれが淫猥に見えて仕方ない。
理由が分からない、なんて言葉では最早、逃げようがないくらい、アルドは興奮しきっていた。自身がマイティに対してはっきりとした欲を抱いていることをしっかりと自覚してしまったアルドは、興奮を残したまま罪悪感で青ざめる。
だってマイティは、アルドの事を信用して相談してくれたのに。アルドにしか頼めないと言って、アルドならと信頼を向けてくれたのに。
それがこの体たらくだ。本来の目的も忘れて夢中で胸を舐めしゃぶって、挙句の果てに勃起までしている。未だ痛いくらい布を突き上げているそこは、隠しようがないくらいあからさまで、傍目にも分かりやすく勃っていることが分かるだろう。きっと、マイティも気づいてしまっている筈だ。
今、マイティはどんな顔をしているのだろう。
軽蔑しているだろうか、それとも怯えているだろうか。
恐ろしくて、マイティから離れてから顔を上げられなかった。誤魔化すように胸ばかりを見つめて、それでまた煽られているのだからどうしようもない。
しかしいつまでも逃げている訳にはいかない。悪いのはアルドだ。たとえ嫌悪の視線を向けられていようと受け止めて、許されずとも謝罪をしなければいけない。
そう、アルドが腹を括り、意を決して視線を上げれば、そこにあったものは、想像していたものと全く違った。
熱に浮かされたようにほんのりと赤く染まった頬、瞳はしっとりと濡れているのに、そこに宿る色は怒りでも軽蔑でもなく、ちろちろと揺れる情欲の光。細められた眼差しはとろりと溶けるようにアルドを見ていて、かちりと視線があった瞬間、半開きに濡れた唇が、嬉しそうな微笑みの形にふわりと綻んだ。
はふはふと隙間から漏れる息はまだ荒いまま、落ち着くどころかアルドと視線を交わらせるうち、再び吐き出される間隔が短くなってゆき、艶やかに濡れて篭る熱量がゆく。
「ね、アルド……こっちも、して……?」
つん、と指先で自身の胸、まだ手のつけられていないそこをつついてみせたマイティの、眼差しに期待の色が宿っているのを読み取ったのは、けしてアルドの勘違いなんかじゃない。逡巡する素振りをみせたアルドの手をとったマイティが、焦れったそうに胸まで運び、つん、と指先が触れた瞬間、きゅっと眉を寄せてふぅん、と鼻から心地よさそうな吐息を漏らしたから。
一瞬、視線を下にやったのは、意識してのことではない。けれど視界の中、アルドと同じように、ズボンの前を張り詰めさせたマイティの状態を見た瞬間、なされるがままに触れた状態だった指先に力を入れて、きゅっと柔らかな肉を潰すようにきつく捻りあげる。
「ひぁっ、は、あぅ、っ」
上がった悲鳴は、痛みではなく歓喜の色を宿している。指に力を込めれば、マイティの腰がゆらゆらと切なげに揺れたのを見たアルドは、たまらず性急にその胸にむしゃぶりついた。
そうして、右も左も、元の影も形もなく真っ赤に腫れ上がり、二人分の荒い息が支配する部屋の中。アルドのズボンの中はべちょべちょに湿っていて、マイティのそこも布がじわりと濡れて湿っているのが分かる。
べたべたに濡れたのはそこだけじゃなく、胸も、唇も、指も、ぐしゅぐしゅに濡れそぼっていた。
それを拭う素振りもなく、口の端をどちらともわからない唾で湿らせたマイティが、未だ熱の引かない声で、甘えるようにくぅんと鼻を鳴らす。
「アルド……ね、また、付き合ってくれる……?」
言葉で答える代わり、濡れた唇の端ごと噛み付いて口の中に閉じ込めて、息も出来ないほど深く深く口付ける。
それが、アルドの答えだった。
噛み付く直前。マイティの唇が、満足そうな笑みの形を作ったような気がした。