※スパンキングです。♡喘ぎという程でもない気持ち程度の♡があります。

それが欲しい


違う。
ぱぁんと響く乾いた音、手のひらに走る鋭い痛み、赤く変色した肌。ずきり、叩いた手よりも心臓の方が痛くって苦しくって、泥のように粘った罪悪感が胃液と共に腹の底からせりあがってきそうだった。
違う、違う、違う。
頭の中、何度も何度も繰り返されるのは否定の言葉。本当はこんなことしたくない、こんなこと望んじゃいない、こんなの、オレじゃない。違う、違う、違う。
けれど、どくどくと騒ぐ胸の鼓動に追いつかなくなった呼吸、取り戻すように短い周期で空気を取り込めば必然的に荒くなってゆく息の音、ぜえぜえと濁って部屋に響く呼気には少なくない熱が混じっていて、そして。
痛いくらいに張り詰めたままの陰茎、萎える素振りがまるでない屹立、乾いた音が鼓膜を震わせた途端、そこに巡る血が一段と増した気がした。違う、必死で叫んで打ち消して否定しようとしても、何よりも己自身の体がそれを裏切っているせいで、叫びは言い訳めいた空々しさに包まれていた。
違う、違う、違うのに。
猛った陰茎を包むのは、熱くてぬめった柔らかな肉。ぱしんと手を振り下ろした瞬間、きゅうううときつく竿に絡みついてひくひくと小刻みに蠕動した内壁は、たまらなく気持ちがよくって痺れるような快感を与えてくれるけれど、ぐ、と期待で陰茎の付け根が痛いくらいに引き攣れた瞬間が、そこではなかった事を己自身が一番よく知っていた。
手を、振り上げた瞬間。それを振り下ろし生まれた痛みで彼の中がきゅんと疼く手前。そこで既にもう、腰は甘い痺れに支配されていた。
違う、こんなの、望んでいなかったのに。
どれほど否定したってそれは、紛れもなく。アルドがこの行為そのものに興奮している事実を、無情にも示していた。


恥ずかしさを滲ませたマイティから、おずおずと言い出されたそれに、最初は間違いなく乗り気じゃなかった。
あのね、ちょっと、痛いことしてほしいんだ。
そんなことを言い出したマイティに、痛いこと? とアルドが聞き返せば、もじもじと口篭りつつも、抓ったり、叩いたり、と頬を赤くした恋人から具体的な例を挙げられて、分かった、とすぐには頷く事は出来なかった。
殆ど毎日のように剣を振るう日々を送ってはいるけれど、積極的に何かを傷つけたいと思っている訳じゃない。話し合いで済めばそれが一番だと考えているし、話の通じない魔物相手でも、殺してしまうことなく威嚇して追い払って済ませる事だって多い。幼い頃はダルニスと取っ組み合いの喧嘩をした事も何度かあったけれど、成長して力がつくに従って振り上げた自身の拳が相手を傷つける可能性がある事を把握して自覚するにつれ、喧嘩をするにしても口論か手合わせで決着をつける事が増えてゆき、手が出ることはまずなくなっていった。
たまに、仲間があまりにも理不尽な言いがかりをつけられて貶められる場に居合わせれば、ぶん殴ってやりたいと思うことはあるけれど、握った拳を感情のままに振り上げはしない。悔しくて腹が立って仕方がないものの、本当に殴ってしまえば仲間の立場がますます悪くなってしまうかもしれないから、他の方法で仲間の尊厳を守るために動く事を選びとる。
腹の立つ相手にすらそうであるから、当然、誰かを一方的に嬲りたい願望なんてこれっぽっちも抱いてはいない。基本的に誰にでも優しくありたいし、仲間であれば尚のこと。
けれど渋い顔で返答を控えるアルドに対して、マイティが珍しく粘る様子を見せたから。あまりアルドに対して何かをねだることの少ないマイティが、ねえ、お願い、何度も何度も頼んできたから。
そんな姿を見せられてしまえば突っぱねて断ることも出来ず、最後には、上手く出来るか分からないけど、と消極的な言葉と共に受け入れてしまった。

それでも最初の数回はやっぱり、マイティに告げた通りちっとも上手くはやれなかった。極力加減した手をぱちり、その肌に当てるだけでひやりと心臓が冷たくなる。罪悪感と後ろめたさで胸が締め付けられて、悲しい気持ちでずんと心が沈んでしまう。
そうして感情に引っ張られてしまった結果、途中でしゅんと陰茎萎えてしまう事もあって、それが数度続いたあと。
再び巡ってきた二人きりの夜。ちゅっちゅと軽く啄むようなキスをしながら服を脱がせ合ったあと、舌を絡めてたっぷりと長く触れ合わせた唇、その息継ぎの合間。マイティが、ねえ、アルド、と意味ありげな視線と共にすりすりと手のひらに頬ずりをしてきたから、それを求められていることを悟ったアルドは一旦マイティから離れて、神妙な顔つきでかしこまる。そうして改めて、こういうのやっぱりオレにはあんまり向いてないみたいだ、もうやめにしたいと申し出た。以前のように渋った顔を見せるだけでなく、きちんと詳細な理由、正直な気持ちも添えて。痛いことをするよりも、優しくしたいと何度も告げて。
だけど、マイティはそっか、分かったよと頷いてはくれなかった。アルドの知るマイティは、人に無理を強要するような性格ではないし、仕事を除いては一つの事に強く執着するタイプでもない。だからやっぱり出来ないその理由まできちんと告げれば、じゃあしょうがないね、と多少残念そうな顔をしつつも諦めてくれると思ったのに、そんなアルドの予想を裏切ってマイティはまるで諦める様子がない。

「だからだよ、アルド」

諦める代わりにマイティは、うっとりと目を細めるとどこか陶然とした眼差しで、小さく笑った。

だってアルドは、誰にでも優しいでしょ。家族や仲間にはもちろん優しいし、知らない人にだって優しいよね~。困ってるとこを助けたり、話を聞いてあげたり、それだけじゃなくって、背中を摩ってあげたり、肩を叩いたり、頭を撫でたり、抱えて運んであげたり。うん、いいんだよそれは。ほんとのこと言っちゃうと、ちょっと妬いちゃう事もあるけど、でも、僕、アルドのそういうとこ、好きなんだー。だからそれはいいんだ。そういうアルドは、僕だけじゃなくってみんなのアルドだって思ってるから。そういうアルドのこと、好きになっちゃだんだから。みんなのアルドのこと、独り占めしたいとは……ちょっとは、思うけど、でも、ほんとにするつもりはないんだ。うん、今のまま、誰にでも優しいアルドのまんまでいてほしいと思ってる。

「だけどアルド、こういうことは絶対、誰にもしないよね」

両手でアルドの手を掴んで、えい、ぺちりと軽く頬に当てたマイティは、ふふふ、楽しげに唇の端を吊り上げる。

「怒っても、腹が立っても、喧嘩しても。絶対に、アルドは自分から理不尽に手をあげたりなんてしない。アルドも自分で、そう思ってるんだよね」

間違ってはいない。それこそまさに、マイティにだって痛いことをしたくない理由がそこにあって、ついさっきも説明したばかり。その、アルドが告げた理由を繰り返して、マイティは囁く。

「だからだよ、アルド」

じっとアルドを見つめる瞳は甘くとろんと蕩けていて、楽しそうで嬉しそうで陶然としていて、けれどその光の奥には、切実に訴えかける痛々しい程の渇望がちらついていた。

「優しいみんなのアルドは絶対にしない、痛くて気持ちいいこと。理由もなく、ぶって、叩いて、抓って、そういうの、全部。僕にだけ、僕だけに、いっぱいちょうだい?」

それでも、断ることは出来た筈だ。どうしても無理だと突っぱねれば、もしかしてマイティも根負けして諦めてくれたかもしれない。
でもそうしたら、甘い声の下にマイティが隠していた苦しさを孕んだ希求を、アルドへと向けられた心を傷つけてしまう気がしたから。誰にでも優しいところが好きだと言ってくれたマイティが、本当は妬けるのだと軽く冗談めかしてさらりと告げられたそれに、ちくりと罪悪感に似た気持ちも抱いてしまったから。

アルドっていいやつだけど絶対に付き合いたくない、との言葉を言われたことは一度や二度では済まなかったし、告げてきた相手も一人や二人でもない。村の少女たちや仲間たちから、まるで示し合わせたかのようなそっくり同じ台詞を言われ、暗にお人好しすぎると呆れられる事は今までに何度もあった。誰にでも優しくあるというのは、人としては好ましくても恋人としてはあまり好ましい事ではないと思う人間は案外と多いらしい。
実際そう聞かされても、らしい、としか言えないのは、その辺の心の機微がアルドにはいまいちよく理解が出来ていなかったからだ。だって好きな人がみんなに優しかったら、嬉しい気持ちになってますます好きになるものなんじゃないかな、と首を傾げてみせれば、これだからアルドは全然分かってない、本当に鈍感なんだから、とますます呆れの色を濃く宿した大きなため息をつかれた。
マイティと付き合うようになっても、それがきちんと理解出来たかと言えば微妙なところだ。マイティが毎夜人のために夢魔と戦っているのを知って、その身が心配で仕方なくなっても、その優しさが夢魔に苦しめられる様々な人に向けられているのを知れば、嬉しくって誇らしくって、以前思った通りにより一層マイティの事が好きになるばかり。それが好ましくないとも、止めて欲しいともちっとも思えない。
けれど、時々、たまに。仲間と楽しげに笑い合うマイティを見た時、微笑ましさと共にちくりと胸が痛くなる事があって、自分だけを見て欲しい欲求が湧き上がることはある。頼りにしてるよと背を叩かれるマイティの姿を誇らしく思うと同時に、ムッとするような寂しいような、上手く説明の出来ないもやもやがちらりと一瞬、心の隅から顔を出す。他の仲間には感じない、独占欲に似た気持ちが自分の中にあったことを、マイティと恋人として過ごす時間が積み重なってゆくにつれ、徐々に自覚し始めている。

だから、何もかも全てを理解は出来ていないけれど、ほんの少しだけ、分かるようになった部分もあったから。
マイティがアルドに向ける視線の中に、それと同じ色を見つけてしまった以上、見なかったふりで斬り捨てることがどうしても出来なかった。
そんな思いをさせていることが申し訳ないような、でもどこかでは嬉しいような、だけど生き方を変えることは出来ないからせめて、マイティの望むことは何でも叶えてやりたいような。
たとえそれが自分の苦手な事であったとして、マイティの希望を優先させてやりたいと思う程度には、アルドはマイティの事が好きだったから。

そうは言っても、すぐに上手くやれる訳では無い。どうしたって痛みを与えるような行為は好きになれないし、叩いた手のひらがじんと痛むたびに、同じかそれ以上にマイティも痛いのだと思うと、氷の塊を飲み込んだように体の真ん中が冷たくなってしまう。
けれど以前と同じことの繰り返しにならなかったのは、マイティがまるでアルドの戸惑いを全て見透かしたような声で、囁くようになったから。

「ね、アルド、僕を見て」

顔を付き合わせて抱き合う対面の形、促された通りにきゅっと色の薄い小さな乳首を強く捻ると同時、摘まれたのが自分ではないのに与えた痛みを想像してしまい、ぐっと寄ってしまったアルドの眉間の皺を撫でながら、マイティは言う。

「僕が、どんな顔、してるか。ちゃんと、みて」

言葉は、荒い息で短く刻まれていて、しっとりと湿った音はじりじりと炙られたように熱を孕んでいる。
見ていなかった訳じゃない。なのにマイティの声に導かれるように合わせた視線、ぐらぐらと煮えた瞳には痛みではなく快楽が滲んでいて、目尻は赤く染まっている。

「ね、もっかい」

そうして請われるまま、もう一度。ぺちり、乳首を揃えた人差し指と中指で叩いた瞬間、びくん、マイティの体が震えて、「あぅっ」上擦った声が薄く開いた唇から零れ落ち、甘さを湛えた眼差しがどろりと溶けた。ゆらゆらと瞳の表面にたゆたっていた快感の色が、叩いたと同時にぱちんと弾けて輪郭を滲ませる。揺れた眼差しは一層甘さを色濃く抱えこみ、目尻の赤は鮮やかさを増した。
その一部始終を至近距離で見つめたアルドは、ごくり、思わず飲み込んだ。
だって、それは、まさしく。

「ふふ、ね、僕、ちゃんと、きもちいー、んだよ……」

追い討ちのようにかけられる、マイティの声。温度の足された熱で浮かされたように、少し舌っ足らずになった言葉で、きもちいい、と告げられた瞬間。
ぞわりと総毛立って、冷えていた体の真ん中がぼっと一気に燃え上がった。

だってマイティが、気持ちいいって言ったから。気持ちよくってたまらないって顔で、とろんと表情を蕩けさせたから。気持ちよくって仕方ないって声で、甘ったるく喘いでみせたから。
痛いことをするのは気がすすまなかったけれど、アルドの手で快感を感じてくれるのは嬉しくって、アルドが振り上げた手がマイティに与えるのは痛みではなく、快感なのだと視覚でも聴覚でも捉えて理解してしまったから。まるでアルドに教え込むように、まざまざと見せつけられてしまったから。
だから、マイティが望むから。マイティが気持ちよくなってくれるから。マイティが好きだって言うから。マイティが喜んでくれるから。
罪悪感を包んで宥める言い訳たちが、少しずつ少しずつ、アルドの感覚を狂わせてゆく。


いつもより乱雑な動作で奥まで突き上げた陰茎を包む柔肉の締め付けがとびきりきつくって、そのままべしり、尻臀を叩いてやれば、「はぅん」心底心地良さげに鼻を鳴らしながらふるりと背筋を震わせ、もっともっととねだるようにいやらしく腰を振る。
全身で快感を伝えられ、せりあがった興奮のまま強く腰を掴んで、もう一度ぱんと勢いよく腰を打ち付けた。既にその腰、アルドよりも色の薄い肌には、赤い手形がいくつも刻まれている。
アルドの手、アルドの指の形、それを綺麗に写し取った痕。腰を掴む位置をずらしてその上に手を重ねてみれば、ぴたりと一致してしまった。紛れもなく、アルドがつけたものだと示す何よりの証拠。
肌を染める赤が指で全て覆い隠された瞬間、息も出来ないほどの興奮が胸を突き上げて呼吸を乱し、重ねた指の形のままにもう一度強く腰を掴むと、ごつん、骨の当たる鈍い音がするほどに激しく楔を打ち込んだ。
違う、違う、違う。
こんなことしたい訳じゃないのに。背中に刻まれた痕は一つではなく肩にまで指の形が残っていて、そのうちのいくつかは赤を越えて赤黒く変色していた。尻臀は元の色が分からないほどに隙間なく赤くなっていて、うっすらと熱を持ち始めている。
違う、違う、違う。
ぼろぼろと外れてゆく箍、剥がれ落ちてゆく自制。最初はその肌が微かに赤く染まるだけで胸が痛かった筈なのに、それが精一杯だったのに、傷つけたくなかったのに。加減を間違えて想定をはみ出して強い力を加えた時、マイティの声に混じる甘さが粘度を増して、どろどろ溶けだした熱が耳からひたひたと侵入して頭の中を掻き乱した。その度、少しずつ、少しずつ、ここまで、これ以上は、決めていた筈の境界線が書き換えられてゆく。じりじりと拡がったそれの、始まりがどこにあったかなんて、もう断片すらも見えない場所まで来てしまっている。
違う、違う、違う。
だってマイティが気持ちいいっていうから、今だって気持ちよさそうにぴくぴく体を震わせていて、ほら、またイッちゃったから。だから、マイティが気持ちよくなるから、マイティが望むから、その筈だったのに。
違う、違う、違ったのに。
ひくんひくん、小刻みに腰を跳ねさせて腹の奥で迎えた絶頂を繰り返すマイティに、ぐっと腰を押し付けて、もう一度振り上げた手のひら。腫れた尻臀を叩いてマイティが更に絶頂を深くする直前。奥にはまりこんだ切っ先は、白濁を吐き出していた。
違う、違う、違った筈なのに。
いつの間にか。痛いことをされて、気持ちよくなっているマイティと同じだけ。痛いことをして、気持ちよくなってしまっている自分がいることに、アルドは気づいてしまっている。

それでも、吐精して少しだけ冷えた頭で、改めてマイティを見てしまえば、まず一番にせりあがってくるのは興奮でなく軋むほどの罪悪感だ。赤と黒の混じる背の惨状を見れば自分の所業に吐き気がして、すぐにでも回復薬を飲ませてやりたくなる。これ以上もう、酷いことなんてしたくない。
そんな自身の反応に僅かに安堵しながら、慌てて陰茎を引き抜き、手当てをするべく動き出そうとしたアルドに。まって、小さな声がかけられる。
アルドを止めたマイティは、びくびくとまだ快楽の波の引かない様子のまま、のろのろと手を動かして自らの尻臀を割り開いてみせた。まるでアルドに見せつけるように。
曝け出されたのは、つい先程まで陰茎を咥えこんでいたのが明白な締まりきらない穴、縁はぷくりと膨れて盛り上がっていて赤みを帯びている。そして呼吸と共にマイティの背が上下するのに合わせて、まるでそこでも息をしているかのように、ひくりひくりと収縮を繰り返していた。
そして何度目か、穴がくぱりと開いた時。たらり、内側から白い液体が零れ出してきた。肌を伝う汗よりも遅い速度、粘度を持ってどろりと尻のあわいを下って太ももに流れてゆくそれは、紛れもなくアルドが興奮した証だった。
違う、違う、違う!
はやく、マイティの手当をしなくちゃ。頭ではそう思っている筈なのに、まるで縫い止められたように視線は肌を流れる白を追ってしまう。
開いた目が乾いて痛くなるほど、目を見開いてその様を見つめていれば、きゅ、と尻臀を掴む手に力が入って、心なしか縦に広がっていた穴の形が、上から押しつぶされたようにひしゃげて横に伸びた楕円の形に変形する。

「あ、るど……ここ、も……めっ、て、して……♡」

まだまだ熱の引かないマイティの声、顔を見なくても分かる、うっとりと蕩けきった目でねだるここが指す場所は、考えるまでもなく明白だった。
違う、違う、違ったけれど。
回復薬を取りにベッドを下りる代わりに、ぎしり、軋む木板の音を響かせながら、アルドはマイティとの距離を詰める。
違う、だめだ、そうじゃない。
いっそ悲痛といっていいほど、必死で止める胸の中の理性を、ごくり、飲み込んだ唾と一緒に胃に収めてしまって。
ゆっくりと振り上げた手のひら、気配を察して期待するように大きくひくついた穴の隙間、ぷくり、新たに盛り上がった白くて丸い滴。
まるで今この瞬間だけ時間が遅くなったよう、自身の手が振り下ろされる様をひどくゆっくりと流れる視界に捉えながらアルドは、境界線がまた一つ、望まぬ方へ、あるいは望む方へと、書き換えられる音を聞いた。