クセになっちゃう


「待っ、まって、アルドっ! 止めて、やめて……で、出ちゃう、からぁ……っ」
「いいよ、全部出して」
「ちが、ちがぁっ!」

まだ昼を少し過ぎたばかり、窓から差し込む陽の光は明るい。
そんな真昼間からマイティの部屋、汗を垂らし抱き合う最中。
ベッドの上、仰向けに寝そべり両足ともをアルドの肩に引っ掛けて脱力し、ぐちゅりぐちゅり、腹の内に迎え入れたアルドの動きを、うっとりと目を細めて気持ちよさそうに受け入れていたマイティの声が、ふいに張り詰めたものに変わった。

既にお互い一度ずつ出したあとで、休憩もそこそこに二回戦に突入していた。
マイティの学校と仕事の兼ね合いでなかなか抱き合う機会が巡っては来なくて、久しぶりの情交。だからとそれが言い訳にはならないけれど、一度目は前戯もそこそこに夢中で貪り自身の快感を優先してしまった。
それを反省した二度目、激しい動きは自粛してゆるゆると腰を動かし狙ってよさそうなところばかりを突いていれば、くふんくふんと可愛らしく喘いでいたマイティが、突如カッと目を見開いて慌てたように制止の言葉を紡ぎ出す。
アルドはその言葉を絶頂の合図だと受け止めて、真正面、ぱちりと合った瞳ににこりと笑いかけて、掲げられた膝の裏をがっしりと掴み、ぱちんぱちん、打ち付ける腰の動きを一層強くした。

まだ身体を繋ぐことに慣れなかった頃、いやだ、やめて、とマイティが口にした言葉を全て間に受けてその度に行為を中断し、ごめんな、大丈夫だったか、と確認していた。するとそのうち、言いにくそうに口ごもるマイティに、あのね、と諭されたのだ。

「こういう時のいやっていうのは、ほんとに嫌な訳じゃなくって……その、止めなくていいからさ。いちいち聞き直されて確認される方が、すごく恥ずかしい……」

もじもじと指先をつつき合わせながら、耳まで赤く染めたマイティにつられて顔を赤くしたアルドは、「わ、分かった」と頷いてそれ以来、睦言につっこむような野暮な真似は自重するようになった。

頻繁、とはいえないけれどそれなりに回数を重ねるうち、大体の塩梅は分かるようになってきたし、独りよがりでなく二人で気持ちよくなる方法も覚えていった、と思う。思いたい。
慣れていったのはアルドだけではなくマイティの方も同じで、最初は中を突いて擦るだけじゃ達する事は出来なかったのに、今は前に触れなくても射精するし、出さなくてもひくひくと腹の奥を痙攣させて心地良さげに身を震わせるようになっている。最近では精液とは違う、薄い塩水のような潮を吹き出す事すら身についていた。

だから、出る、と言うのが精液か潮の事だと受け止めたアルドは、我慢しなくていいよと囁いて、出しやすいようにぐりぐりと弱い場所を集中的に抉って押し潰すように、腰の動きに捻りつけながら徐々に出し入れを速めていった。

「やめ、やめて、ねえ、アルド、まって、ねえ!」
「我慢しなくていいぞ。ほら、出してみせて、ぜんぶ」

確かにいつもとは少し違った。ぎゅうっと自身の手で陰茎の根元と先っぽを握って、堪えるようにいやいやと首を振る姿は初めて見たもので、躊躇いが生まれなかった訳ではない。
けれど火照った頬、潤んだ瞳に宿る熱はぎらぎらと光っていて、きゅうきゅうと締め付ける内壁はいつもに増して心地良さげに蕩けていた。ぴくぴくと時折痙攣する薄い腹は、果てる予兆であると知っていたし、やめて、繰り返す言葉の合間にも、ひゃん、ふぁん、艶めかしい吐息が混じる。身じろぐように手の中、掴んだ足は多少バタバタと揺れ動いていたけれど、本気で拘束から抜け出すにつもりにしては随分と弱々しい。
強ばった拒絶の言葉とは裏腹に、全身で示される反応の何もかもが、気持ちいいと訴えているようにしか見えなかったから。
大丈夫だよ、と囁きながら促すように一際強く、浅い部分を押し潰して擦り上げながら、奥まで一気に突きこんだ。

「だめ、だめだって! やっ、あっ……あああぁ、ああ……」

すると。
ぎゅう、と握りしめたマイティの指の間から、ちょろりと漏れ出したのは白でも透明でもなく、薄い黄色の液体。思わずぴたりと動きを止めて見つめれば、勢いがついたかしょろしょろと漏れる量が増えていって、ほこほこと湯気をたてながらマイティの腹の上に水たまりを作り、その一部がぼたぼたと脇に零れてシーツをぐしょりと濡らしてゆく。つん、と鼻をついた独特の匂いは馴染みのあるもので、じょぼぼ、といよいよ勢いがついて、跳ねた雫がぴちゃぴちゃとアルドの腹にまで数滴飛んできた。
出るってそういうことか、と妙に冷静になった頭で納得していれば、やがて流れ出す液体の勢いが弱まり、代わりにひくりひくりとしゃくり上げる音が聞こえる。
慌てて視線を上にやれば、くしゃりと顔を歪めて目尻からボロボロと涙を流すマイティを見つけて、ようやくアルドは行動を始めた。

「やめっ、やめてって、いった、のにぃ!」
「ごめんな、オレが悪かった」
「やだって、やだ、見ないで、みないでぇ」

旅の間は勿論のこと、ベッドの上でだって涙を流すマイティの姿なんて滅多に見た事がない。気持ちがいいと瞳を潤ませる事はあったし、度がすぎればほろり、一粒二粒雫を零して喘ぐことはあった。けれどこんな風に子供のように泣きじゃくるマイティを見るのは初めてだった。
時にアルドより余程大人びて見えるマイティの、稚い姿にすっかり動揺してしまって、おろおろと宥めつつも片手ではしっかりと近くにあったタオルを掴み、濡れてしまったマイティの身体を拭いてやる。幸いと言っていいのか微妙なところだったけれど、村の小さな子供たちの面倒を見ることも多かったから、この手の類の粗相には慣れていた。
拭き清める最中、マイティの中に挿入したままだったことにようやく気づいてそっと抜き取れば、ぐずぐずと鼻を啜るマイティが「んぅ」と呻いた声が色めいていて、やけにどきどきとしてごくりと唾を呑む。けれど泣く子供を放っておく事が出来る筈もなかったから、素知らぬふりで胸の滾りをやり過ごしたアルドは、きりりと表情を引き締めてマイティをあやすことに専念する。

ようやく落ち着いたのは、風呂場に連れて行って身体を洗ってやり、張った湯船に浸からせてからしばらくして。鼻を啜る音が小さくなり、ぼたりぼたりと目尻から零れ落ちる涙の勢いが減ってゆき、ひくひくと引きつっていた喉仏の動きが鈍くなってゆく。アルドは浴槽の外側、洗い場のタイルに膝をついて、マイティの頭を撫でたり指先で涙を掬いながら、嫌がってるのに気づかなくてごめんな、オレが全部悪かったよ、と声をかけ続けた。
やがて掬う涙の雫が途切れ、幾分掠れた声のマイティに、アルドも中に入りなよと促される。さほど広くない浴槽の中、マイティが開けてくれた背中の隙間に滑り込み、後ろから抱え込む格好で落ち着いた。
ざばぁん、と勢いよく溢れ出した湯の勢いに無意識のうち息を呑めば、抱え込んだマイティが小さく笑う気配があったから、アルドは少しだけほっとして身体の力を抜く。
もぞりもぞり、うまく身体が収まる位置を探して体勢を変えても、揺れる水面がバスタブの縁から溢れ出さなくなった頃。
やけに落ち着いたマイティの声が、静かに浴室に響いた。

「あのね、ほんとにダメな時もあるんだよ、アルド」
「うん、本当にごめん」

諭すような物言いに不機嫌は滲んでいなくて、まるで先程までの幼子のような振る舞いは幻だったかのようにいつも通りを取り戻していた。けれどタイルに跳ね返って反響した声が聞き慣れたものより低かったから、むずむずと胸の奥が擽られたように落ち着かなくて、アルドは殊勝に頷いてこつり、顎先をマイティの後頭部に当てる。

「もう、絶対しないから」

湿った髪に唇をつけて神妙な声で囁けば、ふふふと笑ったマイティがそうしてね、と頷いてくれて、それで、やっと。二人の間に生まれた緊張の最後の糸が、綺麗に解れた心持ちになった。





(絶対にしないって、約束、したはず、だったんだけどなあ……)

湯気で曇った浴室の中、つるりとした壁に手をついたマイティの突き出した腰を掴み、ぐぷり、思い切り奥まで肉茎を叩きつけたアルドはふと、半年前、同じ場所で誓った言葉を思い出してふっと苦笑いを漏らした。

「はぁ、あ、あぅっ、やっ、やあっ……でる、でちゃうぅ……っ!」

ぱちゅん、ぱちゅん、激しく腰を打ち付けて水気の混じった音を高らかに響かせれば、くふんくふんと鼻を鳴らしたマイティが、半年前と同じような言葉を口にした。
いつもなら。最近のいつも通りに則るなら、止めるのではなく続けるのが正解だと知っていたけれど。
思い出した約束をなぞる様にアルドが、ぴたり、腰の動きを止めてやれば、不服そうに唸って顔だけで振り返ったマイティが、自分からぐいぐいと腰を押し付けてくる。それでもアルドが動きを再開しないと知れば、もどかしそうに低く唸ってから、へこへことぎこちなく動かし始めた。
けれど既に壁についた手の位置は最初より随分と下の方へと移動しており、アルドが腰に添えた手の支えでどうにか立っている状況。そんなおぼつかない体勢のまま、震える足で動いても思うような刺激は得られなかったらしい。
とうとう自分で腰を振るのをやめて、ぐっと後ろに突き出しながら、「もっとちょうだい」とどろりと蕩けきった声でねだり始めたマイティの言葉を、アルドはすっとぼけて躱す。

「だって、出すのは嫌なんだろ? ダメな事は、絶対にしない。約束、したもんな」
「やっ、やだ、やじゃない、違う、ちがう……! 出す、だすぅっ、だしたい、だしたいよぉ……!」

なんで、どうして、なかなか動かないアルドに焦れたようにきゅんきゅんと喉を震わせる様に、半年前の約束を引っ張り出して答えれば、どうやらマイティの方もそれを思い出したらしい。
ちがう、ちがう、首を横に振って、半年前とは真逆の言葉を何度も何度も吐き出した。そのうち甘え声がじとじとと滲んで濡れ始めたのに気づいたアルドは、腰を掴む手に力をいれて中断していた抽送を再開する。

「いじわるしてごめんな。いいよ、ぜんぶ、出して」
「あ……でる、出る、あっ、あ、はぁ……はぅう」

ぐっぽぐっぽ、突き込むと同時に巻き込んで一緒に送り込んだ空気の塊が、腹の奥で潰れてぱちぱち弾けふしゅりと隙間から吹き出す音を聴きながら、いよいよ腰の動きを速めてやる。するとずるり、壁についた手を滑らせたマイティの先端から、薄い黄色の放物線が飛び出した。
一番最初の半年前は、あんなに嫌がって抵抗して、泣いてどうしようもなかったのに、今は。
アルドの手に体重を預け、しゃああ、と終わらない放出を続けるマイティの声は、羞恥の欠片もなくただただ快楽に染まっていた。

「きもち、いいか?」
「うん、きもちい、きもちぃ、よお……」
「そっか、なら、いっぱい出さないとな」

マイティの耳に囁けば、どろどろに溶けた声が返ってきて、くすくすと笑ったアルドが緩やかに中を擦ってやれば、突く動きに合わせてしょろりしょろり、飛び出す液体の勢いが変わる。その度にひどく心地良さそうな喘ぎ声が浴室いっぱいに反響して、内側の肉が熱くうねうねと絡みついてくる。

半年前のあの日から、しばらくしてマイティから。
ベッドじゃなくて、浴室でしようと誘われる事が多くなって、してる間もちらちらともの言いたげな視線を寄越されるようになった。
どうしたんだと聞いてもなかなか答えてはくれなかったから、辛抱強く尋ねて、何を聞いても絶対に嫌いになることなんてありえない、と言い聞かせてやっと聞き出せたのは、あの日の事が忘れられないとのマイティの言葉。
恥ずかしくて情けなくて逃げ出したくて居たたまれなかったのに、すごく気持ちよくってどうしようもなかったこと。もよおす度にあの時の事を思い出して、落ち着かない気持ちになってしまうこと。けれどあの時はマイティ自身混乱していたから、自分の感情を勘違いしているだけかもしれないこと。
もう一度。あの時の再現をすればもしかして、案外それほどでもなくて落ち着くかもしれないこと。
全てを聞き出したアルドは、二つ返事で了承した。
マイティがしたい事ならなんでもいいよ、笑いかけたら強ばっていた頬の作り笑いが、解れてへにゃりと安堵を示すものになったから、アルドも笑って和やかな雰囲気のまま、あの日の再現に取り掛かった。

結果。
勘違いの思い違いどころか、すっかりとクセになってしまったらしい。
一度吹っ切ってしまえば頼み事を切り出す抵抗も減ったようで、もう一回、もう一回、ねだる言葉に応えるうち、今ではベッドでする前に一度、浴室で身体を洗うついで、挿入しながらそれを出すのがお決まりになりつつある。

おおよそ全て出し切ったか、ぱんぱんと腰を打ち付けてもちょろりと雫が漏れるだけになった頃合を見計らい、伸ばした手で捻ったコック、シャワーから吹き出した湯を身体に浴びせてやる。それだけでまた、アルドを呑み込んだ内側がきゅうっと締まった。
そのまましばらく身体を洗ってやりながら、ゆるゆると中の締めつけを楽しんでいると、突如くすくすと笑い出したマイティが上半身を捻って振り返り、両腕をアルドの首に巻き付けて耳たぶにかぷりと噛み付いた。
そしてぺろりと耳の穴に舌先を差し込んでから、婀娜めいてうっとりと囁く。

「アルド、ね、あのね、僕ね、もう」

おしりに太いの挿れないと、おしっこ、できなくなっちゃったんだあ。
だからね、アルドがいない時は、玩具、いれてするんだよ。

聞かされたとんでもない告白にはさすがに驚いたけれど、それよりも先にずくん、身体の芯を快感が突き抜ける。
申し訳なさを抱くより先に、じわじわと腹の底が熱くなって、今すぐめちゃくちゃに腰を打ち付けてやりたくなる。
だってそんなの、まるで。アルドによって全てが作り替えられてしまったと、告白されてるみたいだから。
マイティの声には後悔ではなく喜色が滲んでいて、まるで褒めてほしそうな口ぶりにさえ聞こえてしまったから。

「ぜんぶ、アルドのせいだ」

らしくなく責めるような物言いすらも、甘えているようにしか聞こえなくて。
衝動のまま赤い唇を吸い上げたアルドは、一層きゅんと蠢いた柔肉に誘われてそのまま、射精する。

「……うん、ぜんぶ、オレのせいだ。オレのせいに、して」

荒い息のまま鸚鵡返しに繰り返した言葉は、マイティのものと同じくらい、どろどろに蕩けきっていた。