一緒にあそぼ


ヌアル平原の奥の方、月影の森の入口の手前。
十体近いゴブリンの群れの中心、後ろ手に蔦で縛られ座り込む少年の姿があった。

「離せよっ!」
「だめゴブー。今日はゴブたちの勝ちゴブ! 黒いのは捕虜ゴブ」
「観念するゴブ」

ゴブリンたちに取り囲まれても気丈に振る舞う少年、アルドはきっと眦を吊り上げて周りを睨みつけたものの、どのゴブリンもへらへらと笑うだけでちっとも怯んだ様子はない。

「それで、捕まえたはいいけどどうするゴブ?」
「考えてなかったゴブ」
「あんまり遅くなると村のやつらが探しに来るゴブ。その前に帰さなきゃいけないゴブ」

しかし一見して一触即発の構図、というのにアルドを取り囲むゴブリンたちの会話はどこか緩く、対するアルドも離せ離せと騒いでいるものの、その顔に恐怖の色は微塵も浮かんではいなかった。
それもその筈、アルドとこのゴブリンたちは友達、とまではいかなくともある意味では喧嘩相手のような間柄で、鉢合わせると対立はしても命のやり取りにまでは発展せず、ちょっと喧嘩をして遊べばそれで終わり。ゴブリンたちの中では、アルドが黒いの、として認識されるくらいには、よくよく知った間柄だった。
彼らはアルドを始めとした村の子供たちが月影の森に入ろうとすれば慌てて止めに来るくらいには、それなりに穏やかな気質をしている。月影の森を拠点にするゴブリンたちはもう少し人に対して攻撃的だけれど、ヌアル平原に住むゴブリンたちはバルオキーの人間と互いの領分を守りつつ、共生することを受け入れている個体が多かった。
だからこれも、いつもの喧嘩、言ってしまえば遊びの延長線上だと双方理解していたから、緊張感は初めから存在していない。

(ちえっ、失敗しちゃった)

どうしようか話し合うゴブリンたちの真ん中、不貞腐れたアルドはぷくりと頬を膨らませる。いつもならヌアル平原に来る時は大抵はダルニスたちと一緒で、みんなと一緒ならゴブリンたちに負けたりなんてしなかったのに。
けれど今日はみんなそれぞれ家の用事があって遊べなくて、アルドもヌアル平原の浅い部分で花をいくつか摘んだらすぐに帰るつもりだった。
そうしたら、ちょうど目当ての花が群生していた場所の手前。踏み込んだところで、ゴブリンたちの仕掛けた落とし穴にまんまと引っかかり、穴の周りで歓声を上げるゴブリンたちにおめおめと捕まえられる羽目になってしまったのだ。

一体何をされるのだろう、不貞腐れつつもアルドは難しい顔で考え込む。捕虜ごっこを始めたのはアルドたちの方だったので、自分だけ何もされない訳にはいかない。アルドたちがゴブリンを捕虜にした時は、みんなで囲んでとっておきの怖い話を聞かせた。特にノマルの怖い話にはゴブリンだけじゃなくアルドたちも震え上がり、最後、解放した時には捕虜ゴブリンが涙目で「覚えてろゴブー!」と捨て台詞を吐き捨てて去っていった記憶がある。
こちらが仕掛けた事がある以上、アルドも同じように何かされるのが道理だと拗ねながらも理解して受け入れていた。
怖い話は実はあんまり得意じゃないから、違うのがいいなあと考えながらアルドは取り囲むゴブリンたちを見つめる。あれがいい、これはどうだと話す彼らのアルドの処遇についての話し合いは、平行線のままなかなか決着が見えない。
このまま時間切れがきて、何事もなく解放されないかなあ、とアルドが淡い希望を抱いたところで、一体のゴブリンが口を開いた。

「人間の世界にはゴブたちとえっちな事して遊ぶ習慣があるって聞いたことあるゴブ。それはどうゴブ?」
「それは……悪くないゴブ」
「待つゴブ、黒いのはオスじゃなかったゴブ?」
「オスでも穴はあるゴブ。いけるゴブ」
「ゴブも一度人間とやってみたかったゴブ」
「なら決まりゴブね。おい黒いの! ゴブたちは今からお前にえっちな事をするゴブ! 覚悟するゴブ!」

それまではめいめい好き勝手に喋っていたのに、えっちな事、という言葉が出るとそれまでの平行線が嘘みたいに、あっさりと話が纏まってしまう。
えっちな事をされる、と宣言されたアルドは、ぎりりとゴブリンたちを睨みつけつつ、ちょっぴり安心もしていた。
えっちな事というのは、はっきりとは分からずともなんとなくは理解しているアルドの中では、裸を見ることと同意だった。つまり裸になったらそれで終わりだと理解して、そんなに難しいことじゃなくて良かったと思ったのだ。

アルドの予想は、途中までは当たっていた。
手を縛ったままだと服が脱げないからと、蔦を解いてもらって取り囲むゴブリンたちの中心、自ら服を脱いでゆく。逃げ出そうかなとちらりとは思ったけれど、捕虜ゴブリンに怖い話を聞かせた経験がある以上、何もせず逃げるのは躊躇われた。
ならばさっさと終わらせてしまおうと、脱いだ服をぽいぽいと周りに放り投げてゆく。取り囲むゴブリンのうち一体は、脱いだ服を拾い上げてきちんと畳んでくれた。ヌアル平原のゴブリンたちはみんなそういう妙に気のいい所があるので、アルドはちっとも危機感を抱いてはいなかった。

雲行きが怪しくなったのは、全て脱ぎ終え素っ裸になってから。
さあこれでどうだと腰に手を当て胸を反らしたアルドの中では、えっちな事はこれで終わりの筈だったのに、ゴブリンたちは畳んだ服を返してはくれなかった。
まだ何かあるのかな、と首を傾げたアルドに一体のゴブリンが近づいてくる。ちょうどアルドの胸と同じくらいの背丈のそのゴブリンは真正面に立つと、おもむろにべろりと舌でアルドの腹から胸にかけて舐めあげた。

「けっこういけるゴブ」
「ゴブも舐めてみたいゴブ」
「人間にもちんこついてるゴブね」
「ゴブは後ろ舐めるゴブ」

予想もしてなかったゴブリンの行動にアルドがぴきりと固まっていれば、ゴブゴブブとゴブリンたちが言葉を交わしながら一歩また一歩とアルドの方へと近づいてくる。
そんなゴブリンたちに囲まれたアルドは、ひどく混乱していた。
だって裸になれば終わる筈だったのに、全然そんな雰囲気じゃなくて、舐められたし、他のゴブリンたちも舐めると言っていて。
今から一体何をされるんだろう、固まった身体はそのまま、必死で頭を働かせたアルドが導きだした答えは一つ。
舐めたってことは味見で、味見をしたってことはつまり。

「やだー! 食べちゃやだーっ! うわあぁぁぁん!」

食べられてしまう。
辿り着いた結論に一気に恐怖が膨れ上がったアルドは、大声でわんわんと泣きだした。喧嘩仲間、そこそこ気安い相手だと思っていたゴブリンたちが何か得体のしれないものに変わってしまったようで、怖くて怖くて怖くて、裏切られた気もして少し悲しかった。

しかしながらまたしてもアルドの予想は外れることとなった。

「くくく食わないゴブ! 食わないから泣くのをやめるゴブ!」
「そうゴブ。ゴブたちそこまで悪いゴブじゃないゴブ」
「ちょっと痛いくらい……あああっ、違うゴブ! 痛くもしないゴブ! 黒いのもちゃんと気持ちよくするゴブ!」
「よーしよしよし、泣きやめゴブ」

てっきり食べられてしまうのだと思ったのに、アルドの泣き声を聞いた途端ゴブリンたちはおろおろと慌て始めた。
宥めるようにぽんぽんと背中を叩かれ、困ったように顔を覗き込まれ、何度も何度も食べないと繰り返し言い聞かされる。初めのうちは嘘だ嘘だとゴブリンたちの言葉をちっとも信じてはいなかったけれど、アルドが一層大仰に泣き始めると、ゴブリンたちの慌てっぷりもますます加速してゆく。「ほらほら、ばぁっ! 面白い顔ゴブ! ……おかしいゴブ、幼ゴブには鉄板の変顔なのにウケないゴブ……」「ほらこの木の実食べるゴブ。うまいゴブ」なんて具合に、どうにかアルドを泣き止ませるべくゴブリンたちが試行錯誤をしているのを肌で感じるうち、段々と気持ちが落ち着いてゆき、本当に食べられはしないのかも、とゴブリンたちの言い分を信じる気持ちが大きくなっていった。

「ほ、ほんとにっ、食べないぃい?」
「食べないゴブ。日が暮れる前にはちゃんと帰してやるゴブ」
「痛いの、やだぁ……」
「痛くもしないゴブ! ゴブたちに任せるゴブ!」
「ううう、うん、わかった……まかせる……」
「いい子だゴブ。じゃあ四つん這いになってほしいゴブ」

ぐすんぐすんと鼻を啜りながら念を押せば、取り囲むゴブリンたちがうんうんと一斉に頷いた。ついでに先ほどちらりと聞こえた言葉にも触れれば、そちらについても痛くしないと約束してくれたので、アルドは少し考えてからゴブリンたちを信じる事にした。
指示された通りおずおずと四つん這いになれば、えらいゴブとアルドの前に立ったゴブリンによしよしと頭を撫でられる。ゴブリンの表情はよく分からないけれど、多分微笑んでいる気がしたので、アルドも少し笑ってふっと体の力を抜いた。

「ゴブたちの指だと爪が引っかかるかもしれないゴブ」
「でもこのまま突っ込んだら多分痛いゴブ……痛くしないって約束したゴブ……」
「どうすればいいゴブ……?」
「ここはゴブに任せるゴブ!」

一方、四つん這いになったアルドの後ろに集まったゴブリンたちは、しばらくゴブゴブと唸りながら何事か話し合っていた。つい先程の恐怖もすっかりと忘れて、早く終わらないかなと呑気に考えていたアルドだったけれど、突然べろりと尻を舐められてさっと顔を青くする。やっぱり食べられる? と小声で呟けば、すぐさま目の前のゴブリンから食べない食べないと何度も告げられたから、不安ではあったけれど泣きはしなかった。
べろんべろんと数度尻たぶを舐めたゴブリンは、器用に尻の割れ目に舌を差し込んでその真ん中、穴をぺろぺろと執拗に舐め始めた。普段触れられることのないそこに当たる生暖かい感触がくすぐったくて、もぞもぞとアルドが身体を揺らせば、つぷり、と舌先が穴の中へと潜り込んでくる。
ひぇ、と思わず小さく悲鳴を上げれば、すかさず目の前のゴブリンにわしゃわしゃと頭を撫で回され、安心するゴブと言い聞かされる。この短時間のうち、目の前のゴブリンに何度もあやされて比較的信頼を向けつつあったアルドは、ぐっと唇を噛んで続く悲鳴を飲み込み、こくこくと頷いた。
ちゅるりちゅるり、アルドの内側に入った舌はじわじわと尻の穴を広げながら奥へと進んでいった。ゴブリンたちが約束したように、痛くはなかったけれど気持ちよくもない。ざらざらしてぬめった舌が穴の縁をくすぐるたび、お腹の奥がひやりと冷たくなってぞわぞわと鳥肌が立つ。

「うえぇ、ぬるぬるして気持ち悪い……」
「もうちょっとの辛抱だゴブ。きっともうすぐ気持ちよくなるゴブ」
「……ほんとうに?」
「……た、多分?」

我慢出来ないほどではなかったけれど、それでもけして良いものではなかったからつい顔をしかめてぼやけば、すかさず目の前のゴブリンに慰められる。しかし重ねて問えば、ちろりとゴブリンの視線が明後日の方向に外されて、いよいよアルドの表情が胡乱げなものに変化した、刹那。

「ふわぁっ!」
「どどどどうしたゴブ?」
「今、お尻の奥がじわってしたぁ……」
「そこゴブ! その辺重点的に頼むゴブ!」

中に潜り込んだ舌がある一点を掠めると、気持ち悪さとは別のじわりとした何かが腹の奥に広がった。目をぱちぱちさせて驚くアルドの言葉にすぐさま反応した眼前のゴブリンが、後ろのゴブリンたちに向けて大きな声で指示を飛ばす。
するとしばらく同じ場所をもぞもぞと探っていた舌が再び先程の場所を掠めて、その度にアルドがびくりと身体を震わせればだんだんと狙いが狭められてゆき、とうとうそこばかりを舐められるようになった。

「あっ、あっ、なんで、っおしり、じんじんするぅっ」
「気持ちいいゴブね」
「これが、きもち、いい……? あ、んんんっ、きもちい、きもちいいよぅ……!」

熱くて、むず痒くて、ぞわぞわと身体の中を鳥の羽根の先で擽られたような感触の名前が分からなくて、開いた口から零れるままに短い音を吐き出していれば、ゴブリンからそれが気持ちいいのだと言葉で教えられる。その言葉に従って、今まで経験したことのなかったそれを、疑問混じりに気持ちよさの枠に当てはめてみれば、変化は劇的だった。
気持ちいい、とつぶやく度に、未知の感覚がぱちぱちと心地良さと結びついてゆく。きもちいい、と繰り返す度に、身体を巡る感触がふつふつと体温を上げてゆく。
きもちいい、きもちいい、口にする度、どんどんと気持ちよさの度合いが大きくなっていって、一番じんじんと痺れる場所以外を舌が掠めてもじわんと微かな心地良さが生じて、ぐずぐずと穴の縁をぬめったものが出入りするたびに、とろんと太ももの付け根が甘く疼くようになった。ぐにぐにと穴を広げるように舌が横に動き、ぱつぱつに穴が広がって圧迫感を感じるようになっても、苦しさは一向に襲ってこず、種類の違う刺激がまた新たな気持ちよさとなってアルドの身体を襲う。

「ね、ねえっ、ちんちん、痛いぃ……あっ、何か出るよぉっ」
「大丈夫ゴブ。出せばいいゴブ」
「あっ、んう、んーっ!」

ぐるりぐるりと身体の中を巡った熱は下半身に集まって、排尿を我慢した時のように腹の下、陰茎の付け根がつきつきと痛んだ。くっと腹に力を入れて堪えようとしたアルドだったけれど、ぐっと舌先で中の肉をつつかれると、まるで押し出されたようにびゅっと陰茎の先端から白い何かが飛び出して、強い刺激に目の前が真っ白になりかくんと身体の力が抜けて地面に崩れ落ちた。
いつの間にか息がすっかりと上がっていて、はあはあと忙しなく呼吸をしてもまだまだ苦しい。地面に頬をくっつけたまま、半開きの口から舌を出して必死に空気を取り込んでいれば、いつの間に手にしていたのか、目の前のゴブリンから木筒に入った水を口に添えられたから、流し込まれるまま夢中でごくごくと喉を動かして取り込んだ。

手にも足にも力が入らなくって、四つん這いの体勢を維持することは出来なかったものの、尻はゴブリンたちの手で抱えられ高く掲げさせられたままだった。依然として這い回る舌が与える刺激は心地よかったけれど、少し疲れてしまったアルドはびくびくと身体を震わせながら、「まだ、やるのぉ?」とどこかとろとろとした声で目の前のゴブリンに尋ねる。特に動いてもいないのに全力で走り回ったあとのような疲労感があって、このまま地面と仲良くしていればそのうちうとうとと眠りに誘われてしまいそうだった。
アルドの言葉にちょっぴり焦った様子を見せたゴブリンは「巻きで行くゴブ!」と背後のゴブリンたちに声をかける。するとそれが合図になったか、最後、べろんとたっぷりと尻の中を舐めた舌が、ちゅぽん、と湿った音を立てて一気に引き抜かれた。
やっと終わった、とほっとしたアルドは、もぞもぞと太ももを擦り合わせて身じろぐ。早く終わってほしいと思っていた筈なのに、長く中にあった舌の存在がいざなくなってしまえば、なんだかすうすうとして物足りなくて、少しだけ寂しいような気がした。

(どうしよう、もう一回してってお願いしようかな)

どろりと溶けた思考の中、アルドがぼんやりと考えていれば、尻を抱え直されぴとりと穴の縁に何かが当たる気配があった。舌よりもぬめってはいなくて、でも熱くて硬いそれがちゅっと穴に添えられると、きゅうきゅうと知らず知らずのうちに穴が締まって、何かの先っぽをほんの少しだけ内側へと導くように咥え込む。

「じゃあゴブからいくゴブ。痛かったらちゃんと言うゴブ」
「な、にす、……わああっ!」

それが何なのか、アルドが確認するよりも先。
背後から声をかけられ、まともに返事をする前にずん、と鈍い衝撃があって、めりめりと尻の穴が一気に広がる感覚にアルドは目を白黒させた。

「あっ、んっ、なに、ふああ、んうっ、きもちいいぃ……」

痛みはなかった。
それどころか、舌よりも硬くて太いもので広げられた穴の縁をごしごしと擦られるのがたまらなく気持ちがよくって、ずるりと中に入った先っぽが舌で執拗に舐められた場所を掠めると、頭がぴりぴりと痺れてふわりと腰が浮いたような心地になる。きもちいい、きもちいいと教えられた言葉を何度も繰り返せば、抜き差しされる棒の速さがますます速くなって、じゅわんじゅわんと腹の奥に甘い疼きが重なってゆく。

「気持ちよすぎるゴブ……! もう出るゴブっ……ゴブぅ」
「……はやくね?」
「はははははやくないゴブ! お前もやってみれば分かるゴブ……めっちゃ気持ちいいゴブ……」

けれど、もっと擦ればもっと気持ちよくなる、と確信した手前で、急にぴたりと棒の動きが止まってしまった。じわりと生暖かな何かが腹の内を湿らせた途端、しゅうんと棒が小さく縮んでつぽんと引き抜かれてしまう。

「うっ、これはめちゃくちゃ気持ちいいゴブ……持たないゴブ……ゴブぅ」
「うっ、……ゴブぅ」
「ご、ゴブぅ」

それからは、同じことの繰り返し。
硬い棒が差し込まれて、数度動いたら生ぬるい液体が出て、しゅんと縮んでしまう。多くても十回も行かず、速いと二度ほどで終わってしまう。
気持ちのいい場所を擦られるのはたまらなく心地よいけれど、もっと気持ちよくなる前に終わってしまって、物足りなさが募ってゆく。ぐるぐると熱は燻ってゆくのに、さきほどのように頭が焼けるほどの強いものにはまとまらなくて、焦れったさが身体のあちこちを鈍く炙ってゆく。

「もっとちゃんといっぱいごしごししてぇ……!」

ついには我慢ができなくなって、何度目かのそれが引き抜かれたあと、尻をふりふりとふってもっととねだれば、こぷこぷと穴から吐き出された液体が零れ落ちる感触があって、アルドはうっとりと目を瞑りその感覚に浸る。中を掻き回されるほどの強い心地良さはなかったけれど、つつつと温い何かが滴ってゆく度に穴が引き攣れたようにひくひくと蠢くのが、ひどく気持ちがよかった。

「……ゴブたち、早漏って言われてね?」
「確かに早すぎたのは認めるゴブ……」
「黒いの、えぐいとこついてくるゴブ……」

そんなアルドの言葉に何故か、ゴブリンたちがぴしりと固まった気配があった。そしてぼそぼそと小さな声で囁き交わす言葉はどことなく気落ちした風があったから、尻からぼたぼたと液体を垂れ流しながらアルドは首を捻る。

「ねえ、もっとぉ……」
「わわわわかったゴブ! 次は負けないゴブ!」
「う、ん? まける……? よく、わかんないけど、ね、次、はやくぅ」
「ゴブは早漏じゃないゴブー! ……ゴブぅ」
「……やっぱりはやいゴブ」

何か問題でもあったのだろうか、ちらりと思いはしたけれどそれはすぐ、抱え込んだ焦れったさにかき消されてしまった。
もっと、と重ねてねだればゴブリンたちも再び動き出し、また硬くて熱い棒を尻の穴に差し込んでごしごしと擦ってくれる。さっきよりも多少回数は増えたものの、アルドが十分に満足するまで気持ちよくなる前に萎んでしまうのは相変わらずだった。

けれどアルドの方も、だんだんとコツが分かり始めていた。
抜き差しされる棒のタイミングに合わせて、きゅっきゅと尻の穴に力を入れてお腹を締め付けると、擦れる度合いが大きくなってより気持ちがいい。その事に気がついてからは、積極的にアルドの方からも力の強弱をつけるようになった。
時々意志とは裏腹に勝手に腹がひくつき中の肉が痙攣することもある。不定期に訪れるそれは、予測してない分、一等心地よく身体を震わせた。
意識的に、無意識に、両方の反応を使い分けて与えられる刺激に浸るうち、頭が真っ白になる事も何度もあった。背筋がびくんと反り返り、爪先までじんじんと痺れるそれに何もかも明け渡して委ねる感覚は、重ねれば重ねるほど深く芯まで溶かしてくれた。
アルドの腰の先、先っぽから飛び出した白い液体は地面に小さな水たまりを作っている。ついには何も出なくなってからは、ふわふわと飛び切り気持ちがいい時間が長く続くようになって、もっともっととどろどろに蕩けた頭で何度も何度もうわ言のようにくり返した。

気づいた時には、アルドの周りにゴブリンたちが屍のようにひっくり返って寝転んでいた。皆揃って息を荒げ、ひゅーっひゅーっと息が喉に引っかかったらしき高い音が、あちこちで鳴り響いている。
もっと、とアルドが呟けば、「勘弁してほしいゴブ……」と切れ切れに呻くゴブリンの声がした。あまりにも疲労が声に滲んでいたから、アルドは仕方なく催促を諦め、身体を包む甘い余韻にうっとりと身を浸す。きゅっと腹の下に力を入れれば、じわんと柔らかな痺れが渦を巻き、意識して腹の中に溜まった液体をこぽりこぽりと漏らせば、ぱくりと開いた尻の穴をひんやりと冷たい空気が撫でてゆき、火照った身体を寒さだけでない震えがぞわりと走る。

(きもち、よかったぁ)

ふ、とゆっくり息を吐いて、うっとりと狂宴の余韻を振り返る。だんだんと引いてゆく熱が残念で、もう一度吐き出したため息には隠しきれない名残惜しさが滲んでいた。
その時、寝転がった地面の向こう。同じように寝転がるゴブリンとぱちりと目が合ったアルドは、そうだ、と思いついて微笑みかけた。

「また、これしてあそぼ?」

もっとしていたいけれど、みんな疲れてしまったようだし、そろそろ家に帰らなくちゃ心配されるかもしれない。だったら、別の日に同じことをすればまた気持ちよくなれる、と気がついたアルドは、己の思いつきにいたく満足して寝転がったままうんうんと何度も頷く。

「……ゴブたちはとんでもねぇものを目覚めさせてしまったのかもしれないゴブ……」
「黒いの、やっべえゴブ……」
「今度はもっと仲間つれてこないと無理ゴブ……」

しかしゴブリンたちはアルドの言葉に頷く代わり、ひえっと悲鳴を上げると、悲痛な声でぼそぼそと囁き交わし始めた。
アルドはすごく気持ちが良かったし、ゴブリンたちも最後には疲れ果ててしまったようだけれど、それまではみんな口々に気持ちいいと言っていたから、てっきりすぐに了承してくれると思ったのに。
予想と違ってあまり反応のよくないゴブリンたちに、アルドはしょんぼりと眉を下げた。

「だめ……?」
「喜んでお付き合いさせてもらうゴブー!」
「次はもっとひんひん言わせてやるゴブー!」
「正直めちゃくちゃ気持ちよかったゴブー!」

けれどどうしても諦めきれなくって、往生際悪く粘ってみれば、転がるゴブリンたちがやけくそ気味に声を張り上げてそれぞれに了承の意を告げてくる。

良かった、と曇った表情を和らげたアルドは、ゆるりと目尻を下げながら、腹に力を込めてこぷん、と内に溜まった液体を吐き出した。もう随分と量は少なくなっていて、滴る水気の感覚が些か物足りない。

(でも、また次があるって言ったから)

今すぐにでも、と言いたい気持ちを堪えて、アルドはぺろりと唇を舐め、約束だよ、と改めてゴブリンたちに囁きかける。
次の遊びの誘いを無邪気に告げるその小さな唇は、艶やかな弧を描いていた。