アルドくん頑張る


「おいやめろ、アルド!」

珍しく慌てたように声を荒げるロベーラの手を引いて強引にベッドに座らせたアルドは、その足の間に陣取ってズボンのゴムに手をかけた。
既に陽は落ちて、窓から覗く外は暗がりに沈んでいる。日中身体を包む装甲を取り払って、宿に用意された寝巻きを身につけたロベーラは、そんなアルドの行動に抵抗する素振りをみせつつも強引に引き剥がそうとはしなかった。
渋い顔をして諌めるような事を口にしても、おおよそにおいてロベーラはアルドに甘い事を知っている。アルド自身がその事に気づくぐらいには、とても甘い。
だから結局、頑としてアルドが引かない様子を見せれば、ため息と共にそっと腰を浮かせてズボンを脱がすのに協力してくれる。ほうら、やっぱり甘い。

下に履いた衣服のみならず下着までずり下ろし、ぼろりと顔を出したロベーラの陰茎がゆるく勃ちかけているのを確認したアルドは、よし、と頷いて気合いを入れた。
今日はアルドがこれを、一方的に可愛がって気持ちよくしてやるのだと決めている。ロベーラには最後まで手を出させるつもりはない。
だっていつもいつも、アルドばかりがよくなってしまう。身体を丁寧に拓かれて優しく追い上げられて頭が真っ白になって、訳が分からなくなるくらい良くなっても、快感の隙間から覗くロベーラはいつだって冷静さを保ったまま。少なくとも、アルドに較べればよほど落ち着いているように見えていた。
経験の違いといえばそれまでだけれど、されるがままなのはちょっと、いいや、かなり悔しいし、アルドだってロベーラによくなってもらいたい。それこそ、気持ちよくて何も考えられなくなるくらいに。
そんな思惑自体はもっと早くから抱いていたものの、しかしいざ抱き合えば終始ロベーラに主導権を握られてしまうばかり。
キスだけで頭がじんと痺れるからもうダメだ。指でそっと腰を撫でられればあっという間に背中からとろとろと蕩けていって、ロベーラを気持ちよくするどころではなくなってしまう。

何度目かの失敗を経て、アルドは悟った。
触れられてしまえば、ダメだ。いずれは自然な流れでお互いに気持ちよくなりたいと思っているけれど、最初からそれを目指すには圧倒的にアルドの方に経験値が足りていない。
だからまずは、自分にも出来ることから。
そうしてアルドは始めの一歩として、時折ロベーラがしてくれる中でも飛びぬけて気持ちのいい行為、口に含んで舐めてしゃぶってやる事を選んだのだった。

始める前にもう一度、けしてロベーラからは手を出してはいけないと念を押してから、間を置かずに目の前にそそり立つ肉茎をぱくりと口に含んだ。途端にふわりと口の中に広がった味は汗よりもちょっとしょっぱくて、つんと鼻をくぐった匂いは少し生臭い。けれどちっとも嫌悪感はなくて、これならいけそうだと俄然張り切ったアルドはそのまま、勢いをつけて根元までくわえ込もうとした。
しかし、思ったように上手くコトは進まなかった。
「こら、この馬鹿!」と焦りの滲んだロベーラの声が降ってくるのと、ずぶりと思いきり喉奥をついた異物による反射的な嘔吐感によってひくんと胃が痙攣し、ぐぷりと腹から食道に向けて何かが這い上がってくるのは、殆ど同時だった。
さすがにそのまま続ける事は出来なくって、げほげほと咳き込みながら一旦口を離す。せり上がって喉に引っかかった胃液のせいか、続く咳はなかなか切れてはくれない。
身を屈めたロベーラの手で緩やかに背中を摩られ、反対側の手で差し出された水差しの水を数度嚥下してようやく、口の中の違和感が落ち着く。
そのまましばらくの間、大人しくぽんぽんと背中を叩かれていたけれど。

「無理をするな。ほら、もういいだろう」

ごくごく自然な動作で背中から肩に移動した手がやんわりと、しかし明確な意図をもってアルドの肩を押して遠ざけようとしている事に気付き、急いでがっちりと目の前の竿を掴む。そのままぐいと顔を上げ、ロベーラをじっと見据えた。
初っ端から思い切り失敗はしてしまったものの、ここで止めるつもりなんてない。

「アルド」
「嫌だ」
「……アルド」
「いやだ」

見上げた先、難しい顔をしたロベーラに窘めるように名前を呼ばれても、当然聞き分けることなく首を横に振る。ひたりと見つめた視線は、一度も外してはやらなかった。
しばしの睨み合いのあと、観念したように肩を落としたのはやはりロベーラの方だった。やっぱりアルドには甘い。
そっと目を逸らし深いため息をついたロベーラは、どこか気まずげな様子で口を開く。
?
「……分かった。分かったからもう少し手の力を緩めてくれ……その、正直かなり痛い」
「うわっ、ごめん!」

睨み合ううちいつの間にか、竿を握った手に随分と力が入っていたらしい。慌ててぱっと手を開いたけれど、中から現れたそれは先に比べて随分と力を失いくてりと萎れてしまっている。
ロベーラ本人に謝ったあと、目の前のそれにもごめんなと囁いてよしよしと撫でてやりながらから、アルドはしばし考え込む。
一応続けてよしとの許可は強引にもぎ取ったけれど、さっきみたいな失敗を繰り返せばいくらロベーラがアルドに甘いとはいえ、さすがに止められてしまうだろう。それは困る。
いつもはロベーラがいとも簡単にぱくりと口の中に含み、丹念に舌でつついてずぼずぼと唇で挟んで刺激してくれるから、それにそっくり倣おうとしていたものの、どうにもアルドが同じ方法を実践するのは難しそうだ。その事実が全く悔しくないと言えば嘘になるけれど、元よりロベーラの方がアルドより大きいのだからそこは仕方ない。
どうしよう、とぐっと目の前の陰茎を睨みつけてぐるぐると悩んでいれば頭の上、小さく笑ったロベーラがアルドの頭に触れて、無理をするなと再び言い出しそうな空気を察知したので。
思考を中断したアルドは、慌ててちゅう、と柔らかな肉に唇を寄せて吸い付いた。

そのままちゅっ、ちゅっ、と位置を変えながら、ちょんちょんと短く唇をあててゆく。果たしてこんなのが気持ちいいのかと疑問はあったけれど、口をつけるたび少しずつ手の中の陰茎がぐぐっと硬くなってゆく感覚に、すぐに不安は払拭された。
試しにちろりと舌を出してぺろりと舐めてみれば、びくびくっと震えて跳ねた竿が勢いよく手の中から飛び出して、ぺちんとアルドの頬を叩く。
一際大きな反応に思わず視線だけでロベーラを見上げれば、片手で目元が覆われていたせいで表情までは見えない。けれど隠れきってない肌の色が幾分、赤く色づいているような気がしたから、すっかり嬉しくなったアルドは目を細めてより大胆に舌を伸ばしてゆく。
べろり、と反り返った竿の根元から先端まで一気に舐め上げて、はむはむと柔らかく唇で食みながら根元まで戻って、また舌で先端まで。何度か往復したあと、ぷくりと浮き出た血管の形をなぞるように舌先を伸ばし、同時に鼻先ですりすりと優しく刺激を与える。添えた手で根元と袋の境あたりをやわやわとなぞれば、びくんと引きつったようにロベーラの腰が震えたから、気を良くして触れる範囲を広げていった。
袋はぱんぱんに張っていて、指でつつけばぐうぅ、と苦しげな呻き声が頭の上から聞こえてきた。もしかして痛かっただろうか、と心配になったけれど、すぐさま太ももの筋肉がぴくぴくと痙攣して、舌先にあたる竿が一層硬くなった気がしたから、力を入れないようそうっと優しく指の腹で袋を撫でてやる。勿論、口は動かし続けたまま。
そうして指と舌で刺激を与えるうち、先端からぽたぽたと滲む先走りの量が増えてきた。ちゅう、と先っぽに吸い付けば、口の中にしょっぱい味が広がる。剥き出しになった先の、もちもちとした竿の部分とはまた違ったつるりとした感触が、ちょっぴり面白い。括れた部分に唇を合わせてふにふにと強弱をつけて締め付ければ、小さな穴から湧き出る先走りの量が若干増えた気がする。
しばらくそのままぺろぺろと溢れる液体を舐めとっていたアルドは、えい、と勢いをつけて口の中程までそれをくわえてみた。
また失敗したら困るから、慎重に、少しずつ。含んだ肉茎を奥へと進めていって、ぐっと喉がつまりそうになる直前で引き返す。全てをくわえるのは難しそうだったものの、半分と少しならいけそうだ。
何度かゆるゆると口の中で竿を扱きながら、問題のない範囲を確認してからアルドは、かぷんとギリギリまでくわえこんで、内側に広がった肉茎を丹念に舐めしゃぶった。

「んっ」「はっ」と詰めたような低い声が、頻繁に聞こえるようになったのはこの辺りから。
動きはそのままにちろりと上目でロベーラの様子を窺うと、変わらず目元は手で隠されていたけれど、気のせいでなく明らかに頬は赤く染まっていて、薄く開いた唇からは舌が覗いていた。肩は大きく上下していて、ふっふと短く吐き出される息の音はじっとりと湿っている。
願望の滲んだ欲目を差し引いたって、ひどく気持ちよさそうにみえた。

そんなロベーラの姿を確認して、ようし、とますます気合いを入れたアルドは、くわえた部分をたっぷりと満遍なく唾液でべたべた湿らせてから、唇を窄めて頭を前後に揺すり始めた。含みきれなかった根元には、垂れた唾液を指ですくって撫でつけて絡めて、するりと輪っかを作って口と同じ速度でしごいてやる。
ぐちゅんぐちゅんと音を立てつつ次第に速度を上げてゆけば、はあはあと部屋に響くアルドのものでない息の音もどんどんと荒くなってゆく。口の中、唾と先走りが混じってかさを増し、水音がじゅぷりじゅぷりと粘りけのあるものに変化してゆく。
そして、とうとう。

「……っ、離せっ、出る……っ!」

切羽詰まったロベーラの声が聞こえると同時に、強引に肩を押されて引き剥がされた。それを不満に思う前に、大きな手のひらでがばりと目元を覆われる。
次の瞬間、びしゃりと口元に生暖かい液体が叩きつけられた。反射的に舌を伸ばして舐めてみたら、やたらと濃くて苦い味がした。

「……変な味だ」
「っ、こら、舐めるんじゃ、ないっ」

自分にも馴染みのあるものとはいえ、さすがに舐めたことはない。慣れない味にうええと思わず眉を顰めたけれど、目元を覆っていたロベーラの手が離れ、明るくなった視界でその甲に白い雫がかかっているのを見つけたから、改めてそれをぺろりと舌ですくってみる。やっぱり濃くて苦くて何とも言えない味がしたから、正直な感想を口にしたら、ぜえぜえと荒い息を吐き出すロベーラががくりと肩を落とした。気を悪くしたかと慌てて、変な味だけど嫌じゃないよ、と続けたら無言のままロベーラに、どこからか取り出した布でぐいぐいと口元を拭われた。
大人しくされるがままになっていたアルドは、俯いたロベーラの顔をまじまじと見上げる。さっきまで顔を覆っていた手は取り払われて、ようやく隠れていた目元がみえるようになっていた。
眉間に皺は寄っていたけれど、未だ目尻をほんのりと赤く染めたままのロベーラの表情は、ぞくりとするほど色っぽい。

「気持ちよかった?」
「……ああ」
「はは、なら良かったよ」

その顔を見ただけで、どうだったかなんて聞かずとも分かったけれど、口元を拭う布が離れていったタイミングで。あえて尋ねたのはロベーラの口から直接言って欲しかったから。
返ってきた答えは短かったものの、吐息混じりの声にはしみじみと実感がこもっていて、それがアルドの気のせいではないと教えてくれた。
自分から聞いたくせに、肯定された途端急に気恥しさを覚えたアルドは、へへへ、と口元を緩めて笑い、照れ隠しにすりすりとロベーラの膝に額を擦りつける。

と、その時になって初めて。
アルドは自身の下半身が、硬く張り詰めていることに気がついた。
ロベーラをよくすることに夢中になっていたけれどいつの間にか、アルドも随分興奮していたらしい。
ロベーラの膝に頭を預けながら、気づかれないようそっと膝を合わせ、どうしよう、と考え込む。今日はアルドが全部すると言った手前、今更触ってほしいとは言い出しにくい。けれど放っておいても収まりそうな気がしない。
仕方ないからあとでこっそり、風呂かトイレで抜いてこようと決めた途端。

「うわっ!?」

すっと脇の下に差し入れられた手に身体を持ち上げられ、そのままぽすんとベッドの上に放られ寝転がされる。
驚いて起き上がろうとすれば、とんと胸に置かれた手に阻まれてそして。

「次はこっちの番だな」

にやり、笑って手早く上着を脱いだロベーラの、ぎらりと光った瞳にぴたりと縫い止められてしまったアルドは。
ごくん、と唾を飲み込んで、閉じた太ももをもぞもぞと擦り合わせてから、はあっと熱い息を吐き出して。
目を伏せて少しはにかんでから、うん、と微かに頷いた。