結婚しました


何もかも全て、ロベーラの手落ちの結果だ。分かっている。

過度に裏の仕事に関わらせたくはないが、放っておけばいつの間にか巻き込まれている事も少なくはない。密かに手を回していた仕事の最中、現場に現れたアルドを見て肝を冷やした回数は、既に両手の指の数を超えている。
だったら最初から巻き込んでしまった方が効率がいい。突然乱入してきたイレギュラーに予定を崩されるよりは、お人好しの動きを計算に入れてプランを考えた方が楽なのだ。仕事を素早くこなすという点でも、ロベーラの心情においてという意味でも。

今回の案件は、それほど難しいものではなかった。新種のドラッグの取引を潰して関係者を締め上げるだけ。適当に騒ぎを起こして護衛のサーチビットたちの目を逸らし、アルドに陽動を任せる間に売人たちの始末をつける。殺してはいない。まとめて縛ってその辺に転がしておいて、あとは匿名でEGPDに連絡を入れておけばそれで終わり。

けれど誤算が一つ。
関係者を纏めて縛り上げ、アルドの元へと駆けつけたロベーラが見たのは、機能を停止して転がるサーチビットの残骸と、その中心で蹲るアルドの姿。
事前調査で護衛につくサーチビットはさほど強力な個体でないことが分かっていて、アルド一人で十分に対応が可能な数だった。地に落ちたサーチビットの残骸の数を数えても、調査した数と一体もずれていない。この程度、アルドだったら問題がなかった。その筈だったのに。
予想もしていなかった姿に慌てて駆け寄れば、はあはあと荒い息を繰り返すアルドが、切れ切れに訴える。

「ろべ、ら……からだ、あつい……っ」

赤く染まった顔、潤んだ瞳に小刻みに吐き出される浅い息、そして、傍から見てもわかりやすく膨らんで持ち上げられた股間の布地。
一目見ておおよそを悟ったロベーラは、アルドに返事をする前に周囲の大気の成分分析を開始する。原因はすぐに見つかった。一体のサーチビットと、アルドに纏わりついていた同じ成分の何か。それを更に詳しく検索にかければ、一件のドラッグと一致する。

少し前に一瞬だけ流通したものの、すぐに廃れてしまったドラッグは所謂媚薬の一種だった。ナノマシンを利用したそれは、摂取すれば強制的に発情状態となり女なら膣内に、男なら直腸に精液を注がれなければ解除されない、そんなプログラムが組まれていたらしい。何でも数百年前のエロ本を参考にして作られたというその媚薬は一部では話題になっていて、情報収集の最中にロベーラも何度か目にして妙な事を思いつくやつもいるもんだなと呆れた記憶がある。
しかしそれがドラッグとして定着することはなかった。ナノマシンを利用したのが良くなかったのだ。天空都市に住むものは、基本的に皆体内に健康維持用の数種類のナノマシンを常駐させていて、ウイルスや未承認のナノマシンの類が侵入して来た場合は自動的に駆除するシステムが構築されている。故に件のドラッグを利用するには、まずは体内ナノマシンにそれを登録せねばならない。一応合法の範囲には留まる物だったようだが、ナノマシンの登録の手続きにはそれなりに手間がかかる。しかも登録の際にはどういう用途のナノマシンであるのかまで、きちんと申告しなければならない。
使用までの手間の面倒さと、ある意味では性癖を公的機関に登録しなければならないというハードルの高さ。後者については抜け道もあるものの、そちらも手間がかかる事には変わりない。わざわざそこまでの労力を割かずとも他にもっと手軽なものがあるため、件のドラッグは流行ることなく廃れていった。

しかしながら、それはあくまでこの時代に生きる者の場合である。今よりも昔、800年前に生きているアルドの体内には、健康維持用のナノマシンなど存在してはいない。つまりわざわざ申請して認可を受けずとも、体内に侵入してきたナノマシンは排除されることなく定められた挙動を開始する。
現場に残った成分からアルドが摂取したドラッグに当たりをつけてすぐさま、そこまで考えたロベーラはごくりと唾を飲み込んで、はっはっと短く息を吐き出すアルドを見つめた。

強制的に発情状態にさせるプログラム。解除方法は、男なら直腸に精液を注ぎ込むこと。そうすればナノマシンは機能を停止して、排泄の際にまとめて体外に排出される。後遺症もないタイプの、比較的クリーンな合法ドラッグ。
どうしてそれがサーチビットに搭載されていたのかは分からない。しかし現実として、それは噴霧されてアルドの内部に侵入した。それが事実だ。

対処法は、ある。長く裏の仕事をするうちに、こういった案件に関わった事も何度もあって、いくつかの抜け道は把握している。案外人間と言うものは似たような事を考えるらしく、精液を注入すること、が解除条件となっているドラッグは他にもいくつかあった。
その場合、本当に精液を注入しなくても構わない。精液と酷似した成分の液体を注入すれば、それできちんと解除される。大っぴらには売られてはいないが、そういった応急処置のための擬似精液は存在している。
当然、手持ちはない。しかしそれを手に入れる心当たりはいくつかあった。片っ端から連絡をつければ、一時間以内には手配することが可能だろう。
けれど。

「ロベっ、ろべーらぁ……あっ、んんんっ、おれ、へ、んっ……なに、これぇ……っ」

蹲ったアルドが、己の体をかき抱いてぎゅっと丸まり、びくんびくんと体を震わせる。助けを求めるようにロベーラを見上げた顔、目尻は赤く染まっていて、浅い呼吸を繰り返す唇は半開きのまま、熱を逃がすように舌がぺろりと突き出していた。

頭の中では心当たりに連絡をつける算段をつけている。
金を積んで急かせば一時間と言わず三十分で用意出来るだろう。それが一番の方法だと理解している。そう、理解はしていた。

「……すぐに、楽にしてやる」

しかし現実のロベーラは、どこかへと連絡をする代わり、丸まったアルドを抱き上げる。火照る体に機械の冷たさが心地よいのか、抱き上げた瞬間、すりすりと胸に頬を擦り付けてはあ、と大きな息を吐き出しふるりと体を震わせたアルドの反応に、躊躇いは綺麗に流されてしまった。
あやすようにぽんと叩いた背中、たったそれだけで腕の中、身を捩らせて眉を寄せくんくんと切なげに鼻を鳴らすアルドの様子にふっと唇を歪ませ、つかつかと大股で歩いてゆく。スコープの中に展開されるのは、心当たりへの連絡先ではなく、一番近くのホテルまでの道のりだった。



半ば小走りで駆け込んだホテルの部屋、扉を閉めてすぐに性急なキスを仕掛ける。半開きの唇の間から舌を差し込めば、咥内は唾液までひどく熱い。じゅっと強めに舌を吸い上げた瞬間、アルドの背中がびくびくと二度震えた。
息継ぎがてら唇を離し、アルドをベッドの上に下ろしてやれば、ごくり、唾を飲み込んで微笑む気配があった。

「にがい」

ふうふうと息はすっかりと上がったまま、ぽつりと呟いた言葉に僅かにロベーラの頭に罪悪感が掠める。日常的に煙草を吸っているせいで、舌に味が染み付いているのだろう。
けれどアルドの言葉は、それを嫌がる意味のものではなかったらしい。
ロベーラが離れようとすれば肩を掴んで引き止め、自ら唇を寄せると今度はアルドの方から舌を差し入れてきて、ぺろぺろと拙い動きでロベーラの咥内を舐める。

「ふは、ロベーラのあじ……」

そしてひとしきり舐めまわしてから、ぺろり、自身の唇を舐めて唾を飲み込み、ふわりと笑った言葉に理性が焼き切れる音がした。

しつこく何度も唇を吸いながら、アルドの服を脱がし自らの装甲も剥がして放り投げてゆく。既にアルドのズボンはじとりと湿っていて、数度果てた名残があったのに芯は硬さを失わず腹につきそうなほどに反り返っていた。
このままでは苦しいだろう、握って扱いてやろうとすればアルドに止められる。

「も、そっち、くるし……こっち、おなか、奥、……さ、わって……!」

湿った息に遮られながら、潤んだ目でふるふると首を振り、誘うように自ら足を開いて蕾を指し示した。
本当ならもっと、丁寧に愛撫を施してやりたかった。しかし今のアルドには焦らすのは逆に拷問に等しいものだと、何もしていないのに弛んで湿ったそこを見てロベーラは理解する。
指を添えればぱくぱくと小さな穴がひくついて、慎ましく窄まって見えるのにすぐに指を三本飲み込んでも切れる素振りもなく柔軟に指の形に広がってみせる。どうやら件のドラッグには弛緩効果もあるらしい。少しの苛立ちを乗せてぐりぐりと突き立てた指で中を擦ってやれば、あ、あ、と短い音を発してその背中が反るように大きく跳ねた。

早く、楽にしてやりたい。
その一心で、ロベーラはさほど中を弄らないうちに指を引き抜き、アルドの体をひっくり返そうとする。正常位でするよりも、後背位の方が負担が少ないだろうと思ったからだ。
けれど半分ほどひっくり返しかけたところで、アルドが激しくいやいやと首を横に振った。

「まえ、前から…… 顔、みたい……っ」

もう殆ど意識は飛びかけているくせに、顔が見たいと必死て主張するアルドのおねだりを無視出来るほど、機械的に事を進めるなんてとても出来なかった。せめて、と腰の下にクッションを差し込んでやってから、改めて穴に己のものの先端を宛てがう。まだ腰を進めていないのにちゅっちゅと吸い付いて先をしゃぶる穴の動きがいやらしくて、それだけで軽くイきそうになった。

「……入れるぞ」

一声かければ、こくこくとアルドが頷いてじっとロベーラを見つめる。欲情しきった視線に貫かれて煽られたロベーラは、加減も忘れて一気に奥まで腰を打ち付けた。

「あああ゛っ! ……んあっ、はあ、きもちい、もっと……ん、あっ」

ぱちん、皮膚と皮膚がぶつかる音が響くと同時、悲鳴のような絶叫がその喉から迸ったけれど、すぐにそれは喘ぎ声へと変わり、ゆさゆさと自分から腰を振ってもっともっとと強請り始める。
そんなアルドの姿に目眩がしそうな程に興奮して、同じくらい罪悪感が沸いて仕方がない。いつものアルドとはまるで違う媚びるような腰つきは、ロベーラが油断さえしなければけして覚える事がなかっただろうものの筈なのに。もっと、もっと、うわ言のように繰り返して切なげに腰を揺らすアルドの頭の中には、ロベーラに犯される事しか存在していない。
そんなアルドが憐れで、可哀想で、可愛くて仕方がなくて。ロベーラは無心で激しく腰を振る。

限界は、すぐにやって来た。
ただでさえドラッグでとろとろに蕩けて柔らかくなったアルドの中は恐ろしいほどに具合がよく、少し腰を動かすだけで脳が焼けそうなくらい気持ちがいい。
けれど、それだけではなく。
ドラッグに侵されて、発情して、ロベーラに犯されて喘ぐ彼は、ロベーラの――。

せり上がる射精の気配に、ぐっと奥に亀頭を押し付けて僅かもしないうち、それは放たれる。

「……っ、好きだっ」

打ち付けた白濁と共に、こぼれ落ちたのは抱えた気持ちの一端。けして告げるつもりのなかったもの。ずっと秘密にしておくつもりだったもの。
どくどくと上がりきった心臓と共に乱れた呼吸を良いことに、殊更に大仰に空気を吸い込みぜえぜえと喉を鳴らし息の音に混ぜて、漏れ出たそれを誤魔化そうとする。
しかしアルドにはしっかりと伝わってしまったらしい。

「ろべーら、おれのこと、すき?」

とろり、まだ蕩けたまんまの瞳で、アルドが問う。
誤魔化すことは出来た筈だ。嘘には慣れている。ベッドの上でのただのリップサービス、そう言って笑えば良かっただろう。

「……ああ、好きだ」

けれどロベーラの口は、嘘の代わりに真実を吐き出していた。濡れたアルドの瞳はどろどろに溶けているのに、ロベーラを見つめる光は、いつものアルドと同じ色をしていたから。射精して冷静さは取り戻しても、まだ興奮の余韻の残る頭は取り繕えるほどに余裕がなく、そんな状態で真っ直ぐなそれに見つめられてしまえば、嘘で逃げる事が出来なかった。

ロベーラの答えを聞いたアルドは、ぱちりと瞬きをしてから、とろん、うっとりと目を細めた。
そして。

「へへ、おれも。おれも、だーいすきぃ……」

もう、これ以上する必要はない。プログラムの解除条件は満たした。やがてアルドの体を苛む熱も引いてゆく事だろう。
けれど至近距離、どろりと蕩けた目で見つめられ、もつれた舌でだいすき、だなんて告げられてこれで終わりになんて出来るだろうか。無理だ、出来ない。
たとえそれが幼い好意であろうと、仲間としての好きであろうと、男を煽るには十分すぎた。
熱い肉に埋め込んだ楔がむくむくと硬度を取り戻す過程、どこかよい所を刺激したのか、「あっ」とアルドが短く喘いだのを良いことに、ゆっくりと舐るように抽挿を再開する。
好きだ、吐き出した息に乗って零れてしまいそうな気持ちを噛み締めた唇で押し留め、その代わりに丹念に柔らかいままの肉を削るように抉る。
仰け反った喉に軽く噛み付いて、甘い嬌声を吐き出す唇をキスで塞いでから。
好きだ、熱い粘膜に触れた舌の先に乗せて、喉の奥に直接それを送り込むよう、ぐるりと低い唸り声を注ぐ。
音の波がアルドの喉奥を震わせると同時。体内を穿つ楔を包む柔肉がひきつれたように蠢いて、後ろだけで絶頂に達した気配があった。
それだけで、何もかも満足してしまえるほど。
十分すぎるほどに、十分だった。



やってしまった。
短い眠りから覚めたロベーラがまず一番にしたのは、大きなため息を吐き出すこと。
隣で眠るアルドの寝顔は穏やかで、まるでついさっきまでの情事なんてなかったようにあどけない。けれどほんのりと腫れた目の下、吸いすぎて赤く染まった唇が、それがけしてロベーラの妄想ではなく現実にあったことなのだと無情にも突きつける。

こんなつもりではなかった。アルドの寝顔を見つめながら、片手で顔を覆って再度ため息をつく。
アルドの事は好きだった。もう随分と前から、好きで仕方がなかった。その笑顔を見る度に年甲斐もなく胸を高鳴らせ、機会があれば抱いてしまいたいと思っていたくらいには。
けれどロベーラは、アルドの事が好きで、大事だった。けして触れてはならないと己に何度も言い聞かせ、伸ばしかけた手を握りしめるくらいには。
生きる時代の違う青年、未だ少年の名残すらある彼に、一時の激情に流されて手を出してしまえないほどには歳をとりすぎていて、ずるい大人の顔で戯れを仕掛けられないほどには、すっかりと心を持っていかれてしまっていた。
いずれ旅が終われば800年前へと帰ってしまうであろう彼へ、気持ちの欠片すら悟らせるつもりはなかった。アルドがロベーラの事を仲間以上に思っていなくても、ロベーラがそれを抱いている事を悟らせてしまえば、いらぬ心労を抱えさせてしまうかもしれないと危惧したから。たとえ一瞬、僅かなりともアルドの枷にはなりたくなかった。それがせめて、アルドを想うロベーラに出来る唯一の事だと信じていた。

その筈だったのに、これである。
手を出さないでいるには、あまりにも理由と建前が揃いすぎていた。それが一番手っ取り早くて、アルドを楽にしてやれる方法だったから。放っておく時間が長ければ長いほど、アルドに降りかかる甘い責苦はその体を苛むと知っていたから。掲げられた理由は、あまりにも甘美すぎた。

けれどこのままにしておく訳にもいかない。
眠るアルドの腫れた瞼を、そっと指で撫でてロベーラは思案する。
これは何もかもロベーラの手落ちの結果だ。本来ならアルドは、こんな目に合う筈ではなかった。合うべきではなかった。
全てなかった事には出来なくても、忘れさせてやる事は出来る。合法非合法を問わなければ、記憶を消す手立てはいくつか存在している。今日一日の記憶を全て消してやれば、アルドは何事もなかったまま生きてゆけるだろう。
ただロベーラが、覚えていることだけは許して欲しい。これが最後の恋、いい歳をして柄にもなく抱いてしまった気持ち、一晩だけの交わり、甘い想い出として生涯抱えてゆくことだけは許してもらいたい。

「ん、んんんん」

いつの間にか伸ばした指は瞼から離れ、無意識のうちに頬をくすぐるように撫でていれば、眠るアルドが唸り声をあげたからそっと手を引く。ううん、と唸りながら忙しなく何度か寝返りを打ったあと、ゆっくりと目が開いた。
いくつか反応は想定していた。慌てるか、青ざめるか。きっとアルドのこと、責めるような真似はしないだろう。付け込んで散々弄んだロベーラに仕方ないことだったと困ったように笑うかもしれない。それは責められるよりもある意味、ロベーラにとっては厳しいものだったけれど、どんな反応があっても全て受け止めるつもりだった。

しかし、目覚めたアルドの反応は、予想したどれとも違っていた。
ゆるりと目を開き、まだ夢を見ているようなぽやんとした目つきでしげしげとロベーラを見つめると、ふにゃりと笑ったのだ。とても幸せそうな顔で。

「へへへっ、ロベーラとけっこん、しちゃった」
「……うん?」

そしてくすぐったそうに笑って、アルドが口にした言葉にぴたりとロベーラは固まった。

(けっこん、結婚? ……血痕? いいや、おそらく、結婚だろう……どういうことだ……)

確かに。ロベーラはアルドを抱いたし、好きだとも告げた。けれどそこから一足飛びに結婚に繋がる理由が分からない。
もしかしてバルオキーでは、セックスイコール結婚だとでも言うのだろうか。ロベーラの常識とアルドの常識がそもそも大きく違っている可能性に思い至り、焦りが募ってゆく。まずい、このままでは。

「ふへへ、ちょっと照れるな。……ええと、よろしくな」

しかし混乱した思考は、新たなアルドの言葉で強制的に止められた。照れくさそうにはにかみながら、ゆるゆると伸ばした手でロベーラの小指に自身の小指を絡め、きゅっと握ってまたふにゃりと笑う。

「ああ……よろしく、頼む」

気づけばロベーラは、そう答えていた。
だってアルドがあまりにも可愛くて、いじらしくてたまらなかったから。動揺一つしてみせず、嬉しそうに笑って結婚しちゃった、だなんて口にする想い人を目の前にして、冷静でいられる訳が無い。だって可愛い。とんでもなく可愛い。

(こうなったら、結婚するしかない。籍も入れる。絶対にだ)

直前まで考えていた事は全て吹っ飛んで、早急に籍を入れる手配を算段し始める。ゲストとはいえシチズンナンバーを与えられているなら、無理ではないだろう。
アルドの枷にはなりたくないと綺麗事を並べて結局は、アルドに少しでも厭われたくなかっただけだ。その胸に憂いを抱かせたくなかっただけ。
そんな相手から、心底嬉しそうな顔で結婚だなんて言われてもみろ。舞い上がらない方がおかしい。もう、行くところまで行くしかないんじゃないか。

物分かりのいい大人の顔で押し込めたものが、アルドの言葉でころっと顔色を変えて一気に噴き出してゆく。
浮かれた気持ちのまま、ちゅっとアルドの唇にキスをすれば、ますます喜色を滲ませたアルドが、ロベーラの首に手を回してぐっと引き寄せ、ちゅっちゅっと何度もキスをしてくる。そしてキスの合間、へへへと目尻を下げて機嫌よく笑って、またちゅっちゅとキスを再開する。可愛い。結婚するしかない。
別れ? その時はその時、まあ、何とかなるんじゃないか。だってこのアルドにやっぱり結婚はなしだなんて言えば、そちらの方がよほど悲しませる事になるだろう。ほらやっぱり結婚するしかない。

思い悩んでいた筈のロベーラは、急速に開き直りつつあった。