※某ドキュメンタリー風パロ。タイトルが全て。えろくないけどほぼ下ネタの悪ふざけしかないです。
ちんこ職人の朝は早い
――ちんこ職人の朝は早い。
早朝、陽が昇る前から活動を開始した職人は、工房の入ったビルの屋上で、乾かしていたちんこを型から抜き取り一本一本丁寧に検分してゆく。その眼光は鋭く、僅かな瑕疵も見逃すことはない。
今も一本のちんこが、乱雑に廃棄の箱へと投げ込まれたばかり。スタッフも手にとってみたが、その柔らかさといい色ツヤといい、立派なちんこにしか見えずどこに問題があるのか分からない。けれど職人はそんな我々の言葉に、笑って首を振る。
「表面に少しシワが寄ってしまいましたから、ほら、ここですここ。こういうシワはね、勃起した時に具合がよくないんです。ええ、はい、自然乾燥ですから。思い通りに乾いてくれないこともよくあるんですよ」
ならば部屋の中で管理をすればいいんじゃないかとの我々の更なる疑問にも、彼はやはり同意はしない。
「外じゃなきゃダメなんです。月の光に晒すとほんの少し肌の弾力がよくなるんですね。些細な違いですけどね、そこで妥協してしまってはいいちんこは出来ません」
そう語る職人の目からは、強い信念と並々ならぬ拘りが窺えた。
この日彼のお眼鏡にかなったちんこは、二十本のうちたったの五本。日によってはは一本も使い物にならない事もあるらしく、これでも多い方なのだと職人は笑う。
ちんこを回収して工房に戻った職人と我々を出迎えたのは、人間ではなかった。驚く事に、職人の工房では数体の合成人間が働いているのだ。さすがにスタッフもこれには戸惑いを隠すことが出来ず、大丈夫なのかと職人に尋ねれば、彼は力強く頷いた。
「心配する気持ちは分かりますが、彼らは大丈夫です。実は彼ら、普段はある飛空戦艦で働いているんですけどね。廃棄予定のちんこが戦艦のエネルギーになるらしくって。こちらとしても廃棄の手間が省けますし、彼らに引き取って貰えたらありがたいばかりなんですけど、それだけじゃ悪いからって回収の時に作業を手伝っていってくれるんですよ」
その言葉を裏付けるように、職人から廃棄ちんこの入った合成人間は、数を確認して機械的に頷いたあと、手馴れた様子で工房の中を動き始める。俄に緊張感が走る我々を気にすることなく、様々な作業に従事する合成人間たちはしばらく眺めていても、不意討ちの敵対行動をとることもない。
「以前は月に数本のちんこを仕上げるのが限界だったんですが、彼らのおかげで今は二十本にまで増やす事が出来ました。本当に助かってます」
そんな彼らを見て満足気に頷く彼の口ぶりには、深い信頼が滲んでいた。
我々が取材をしていると、一人の来客が職人の元を訪れた。
オーダーメイドで顧客に合ったちんこを作ることに情熱を注ぐ職人は、出来上がるまでに何度も客に足を運んでもらって細かな微調整を繰り返すのだという。
対面での打ち合わせ、それが老若男女問わず誰からの注文も受ける職人の唯一提示する条件だ。
我々はやって来た職人の顧客に事情を説明し、顔と声を隠す事を条件に取材協力への同意を取り付け、打ち合わせの場に同席させてもらえることになった。
Rさん(仮名)が職人を訪れるのは、本日で五度目。既におおよその形は出来上がっていて、試作品の仮ちんこの試用も済ませている。そんなRさんから詳しく仮ちんこの使用感を聞き出した職人は、Rさんから預かった仮ちんこと合成人間に持ってこさせた荒削りのちんこをじっと見比べると、猛然と荒削りのちんこに手を加え始めた。これはどういった作業なのか、スタッフが問いかけても返事はない。職人の目には最早、ちんこしか写っていなかった。
職人の手の中、粘土のようにこねられ彫刻のように削られゆく荒削りのちんこが、試作品の仮ちんこと寸分たがわぬ形に仕上がってゆく。けれと形を揃えただけでは、完成とは言えないようだ。
鋭い目付きでちんこを見つめながら、職人は繊細な手つきで細かな微調整を重ねてゆく。僅かに皮を伸ばしてはまた元に戻し、また伸ばしては元に戻してを繰り返す職人の額には、大粒の汗が浮かんでいた。
こうなると当分終わらず、声も届かないらしい。Rさんとスタッフにお茶を持ってきてくれた合成人間にしばらくはこのままだと聞いた我々は、職人を待つ間Rさんから話を聞くことにした。
――なぜ、ちんこを作ろうと?
「俺の体を見ればわかるだろうが、あちこち壊しちまってな。こっちも、使い物にならん」
スタッフの不躾な質問にも、Rさんは顔色ひとつ変えず淡々と答えてくれる。身体に関わるデリケートな部分に無遠慮に踏み込みすぎたかと謝罪をすれば、Rさんはふっと笑って首を横に振った。
「別にいい。もう随分前のことだ、この体との付き合いも長い。まあ、そんなに悪いものでもないさ」
――なら、ちんこを作るのは今回が初めて?
「ああ……なきゃないで、別に構わんと思ってたんだがな。今はVRで代用がきくしな」
――ええ、そうですね。むしろ生身よりバーチャルの方がいいと感じる人も少なくないそうですよ。だからこそ、なぜ今、ちんこを作ろうと思ったのか。差し支えなければ、理由を教えて頂けませんか。
「…………この歳になって、かわいい年下の恋人が出来ちまったんだよ。まあ、そういうこった」
元は軍関係の仕事に就いていたというRさんは、口ぶりこそ穏やかだったが、その立ち居振る舞いには隙がなく、若いスタッフなどは緊張の色が隠せてはいなかった。しかし、恋人が出来た、と呟いたRさんの照れくさそうな顔に、自然と場の空気が緩む。
そのまま茶を飲みながらRさんの恋人の話を聞いた。残念ながら詳しい内容は、Rさんのプライバシーに関わるため、スタッフの胸の内だけに留めておきたい。そのどこか厳つい印象のある外見によらず、Rさんは非常にロマンチストである、と言っておこう。
そして我々が和やかに談笑していると、ようやく職人に動きがあった。
「Rさん、これ、握って貰えますか」
そう言って職人が差し出したのは、一本のちんこ。軽く頷いたRさんがやわやわとちんこを握ると、手のひらへの馴染み具合いや握った太さに違和感がないか、細々とした点を尋ねてゆく。そしてRさんの答えを受けて更に微調整を繰り返すうち、いよいよちんこは完成に近づいていった。
何度目か、ちんこを握ったRさんが、これだ、と言わんばかりに力強く頷くと、職人はその険しい表情をようやく緩めて唇に笑みを浮かべる。それはやり切った男の顔をしていた。
これで完成か、と思いきや、しかし職人は笑みを浮かべたままRさんにオプション機能を提案し始めた。
「実は先日、亀頭にバイブレーション機能をつけることに成功したんです。動力源は精液なので、半永久的に動きます。亀頭を二十秒間強く押さえつけると振動が開始して、同じく二十秒強く押さえると振動が停止するんです。……本当は十秒にしようかと思ったんですが、普通のちんことしても問題なく使用するには十秒じゃ少し短くって。あっ、もちろん感度に影響はありません」
「ほう……」
初めのうちは興味がなさそうにしていたRさんも、熱く語る職人の言葉に心動かされるものがあったようだ。他には何かあるのか、と尋ねるRさんに、職人は勢い込んで別のオプションについて喋り始めた。既に職人の頭から、我々の存在は抜け落ちているに違いない。次々とオプションつきちんこを取り出してRさんに披露する職人の顔には、ちんこへの愛だけが浮かんでいた。
「本物以上のちんこを作りたいんです」
ちんこ職人は、語る。
「バーチャルよりやっぱり生身が最高だよなって、誰にでも言って貰えるような、そんなちんこを作りたいんです」
ちんこの需要は、バーチャルに押されて年々減少傾向にある。しかし職人は、そんな現状を変えたいのだと未来の夢を語る。
「洋服を着替えるように、今日はこのちんこにしようって気軽にちんこを選ぶような、そんな時代がいつか来るといいなと思ってて。僕はそんなちんこの未来のために、ちんこ職人として何が出来るか、日々考えている最中なんですよ」
そう言って明るく笑った職人の瞳に、我々は確かに未来のちんこの希望を見たのだった。
―――
――
―
とあるラブホテルのベッドの上。
一人の男が頭を抱えていた。
新種のドラッグの売買にラブホテル専用チャンネルが利用されているらしいとのタレコミにより、各地のラブホテルへと潜入して専用チャンネルのチェックに励んでいたCOAの捜査員の一人である男は、画面から流れるいやに気合いの入った曲をバックに深く深くため息をついた。
一言にラブホテル専用チャンネルといっても、セックス動画だけを流しているわけではないらしい。ちょっとえっちなバラエティや悪ふざけのノリで作られたような番組も多く、『ちんこ職人の朝は早い』なんてふざけた台詞から始まったこれも、そういう類のものだと思って流し見ていた。
そしたら、とんでもない爆弾を落とされた。
番組の中で出てきたRさんと呼ばれた客が、どう見ても男の、セティーの知っている相手だったのだ。何度も目を擦っても、残念ながら視界に映る男の姿は変わらない。
どこからどう見てもそれは、セティーのよく知る男、ロベーラ本人に間違いなかった。
思わず飲んでいた水を取り落とし、おかげでベッドも下半身もびしょ濡れになってしまったが気にしている余裕もなかった。
(すこしぐらい、しごと、えらべよ……)
常々、金さえ積めば仕事の種類は問わないと公言しているロベーラだが、さすがにこれはどうかと思う。少しは選べよ、と顔は隠しているくせに、その特徴的な装甲は一切隠していないせいで本人特定が余裕すぎる画面の中のロベーラに舌打ちをしつつ、一応仕事でもあるので途中で画面の電源を落とすことも出来ず、セティーは渋々続きを観る。
そして落とされた爆弾は、一つではなかった。画面の中、恋人が出来た、と語るロベーラの言葉に、ギシリ、とセティーは固まってしまう。
なぜなら、勘違いでなければその、ロベーラの恋人とやらは、セティーのことを言っているとしか思えなかったから。作り物の台本の言葉ではなく、本当の事を言っているように聞こえてしまったから。
前々からロベーラからアプローチを受けていて、誰が受け入れるものかと躱し続け時にぶん殴って退けてはいたものの、段々と絆さ……しつこさに根負けして、今では一応、恋人という関係に落ち着いている。
どうせフィクション、作り物の番組だと思っていたのに、ロベーラの言葉のせいで段々と妙な気分になってくる。まさかこの、ちんこ職人とやらは本当に実在するのではないか、なんてそんな疑念がむくむくと沸いてきてしまう。
根拠は、ロベーラの言葉以外にもあった。
付き合う前はあれほど熱心に口説いてきたくせに、いざ恋人になってみればちっとも手を出そうとはしてこない。セティーから手を出そうとしても、するりと避けられて誤魔化される。もしやこいつ、口説くだけ口説いてこっちが落ちたら飽きて用済みだなんて、そんな事言わないだろうな。ちょっぴり荒んだ目でロベーラを睨んだセティーは、事によったらその金属製のボディーにレトロを十体ほど叩き込んでやるつもりだった。
けれどそろそろ実行すらも視野に入れかけた頃、今まで避けに避けていたのは一体なんだったのかというほど、あっさりと手を出してきた。もう飽きたんだろうなんて冗談でも言えないほど、ねちっこく執拗に責められて抱き潰されかけた。ふざけるなと思いはしたが、まあ、悪くはなかった。
その、諸々の時期が、やけに番組のあれこれと符合する。画面に映るいくつかの物から窺える撮影時期、そこから予想ができるロベーラがちんこを作りに行っていた期間、そしてセティーとロベーラが付き合い始めた日と初めてセックスをした日、その全てがやけにぴったりと噛み合ってしまう。
(まさか、そんな筈は……)
馬鹿馬鹿しい、と思いながらも、抱いた疑念を払拭することが出来ない。
少し考えてから、セティーは端末を取り出して素早くメッセージを打つ。宛先はロベーラ。内容は、次に会える日について。余計なものは打ち込まない。全ては会ってからだ、とさっさと送信したセティーは、それをきっかけに頭からちんこ職人の事を追い出して再び画面に目を向ける。
今はちんこ職人ではなく、売人の痕跡を見つけねばならない。少しでも気を抜けばちんこ職人のことについて延々と考えてしまいそうで、食い入るように画面を見つめるセティーの目は僅かに血走っていた。
そんな気合いが作用したかは定かではないが、その日のうちにドラッグの売人への連絡方法は発見され、無事逮捕にまで至ることが出来た。
いわばちんこ職人のおかげ……なんてことは、絶対にない。絶対だ。
全てが終わったあと、端末を確認すればロベーラからの返事があった。送った候補の日に会えるとのメッセージに、セティーは不敵に笑う。
その日こそ、ちんこ職人の命日だ。覚悟しておけ。
再び脳内に出現したちんこ職人に意気揚々と宣戦布告を告げたセティーは、多分、結構疲れていた。
そして、後日。
「……震える……伸びる……ちんこ職人は、実在した……」
どこか遠い目をしてぽそりと呟くセティーの姿が、見られたとか見られなかったとか。