もうすこしがんばりましょう
「んっ、ぐっ……!」
ずぶずぶと内側の肉を掻き分けて侵入してくる自分のものではない体温に、ようやく少しだけ慣れてきたところだ。
まだ違和感は消えないままで、ぐっと内臓を押し潰されるような圧迫感はけして気持ちのいいものではない。だけど痛みは初めの頃に比べれば随分とマシになった、気がする。全然痛くないと言えば嘘になるけれど、反射的に悲鳴を上げてしまわない程度には和らいでいる。
「ア、ルド、へいきか? いたく、ない?」
ふーっふーっと大きく肩を上下させて荒い息を吐き出しながらも、たどたどしい口調で訊ねたセヴェンの声にこくこくと何度も首を縦に振って、膝裏に差し入れた手のひらにきゅっと力を入れる。
仰向けになって自身の膝を持ち上げている格好に気恥ずかしさはあったし、けして楽な体勢でもない。
内側からぎゅっぎゅと押し広げるものに加えて、折り曲げた自身の足で外側からも腹の下辺りが押さえつけられる形になってしまう。さほど広くはないはずの中がそれで余計に狭まって、肉を抉って掻き分ける陰茎を隙間なく締めつけてしまうのが苦しかった。少しだけ息もしにくい。
本当は、後ろから挿れてもらう方が楽だ。変に締め付けないからちょっと動かれるだけでごりごりと内側を削られるような感覚にならないし、多少の余裕がある分楽なように腰を揺らして誘導しやすい。
けれどセヴェンが、顔が見えないと嫌だと拗ねた声で言ったので。顔を見てしたいと甘えた声で喉を鳴らしたので。
自身の事情を天秤にかけて悩むまでもなく、セヴェンがそうしたいなら、とアルドはあっさりと頷いて受け入れた。
セヴェンにねだられたのが一番の理由ではあったけれど、アルドだって顔が見たくない訳ではない。
なにしろ最中のセヴェンの表情は、ことのほか可愛らしく蕩ける事を知っていたから。
根元まですっかりとアルドの中に埋め込んで、しばらくそのまま短い呼吸を繰り返し額にじわりと汗を滲ませたセヴェンが、そろそろと慎重に腰を引く。かと思えばすぐさま、また思い切り奥まで突きこんでぴたりと動きを止めて、ちろりと舌先を覗かせながらふうふうと湿度の高い息を吐き出す。
それが気持ちいいかと言われれば、とても微妙な所だった。
どうにか内側の異物感には慣れてきたけれど、それを快感に変換できるほどには熟れていない。慎重に抜き差しされる切っ先が掠めるとぴりりと快感に似た痺れが走る場所はあるけれど、触れるのが一瞬なせいで掴みかけた疼きはすぐに霧散してしまう。おそらくそこを重点的につつかれれば、気持ちよくなる予感があったけれど、それがどうにも難しい。
何も伝えず黙ってされるがままになっている訳ではない。
セヴェンも最初の数往復くらいは、アルドの様子を窺おうとしてくれていて、アルドもじわりと熱が灯る場所を掠めた際には、潰れた声を絞り出してそこが気持ちいい場所だと逐一伝えてはいる。
セヴェンにもちゃんとそれは聞こえてはいるようで、告げればちゃんとそこを狙って擦ろうともしてくれる。
そう、数往復の間だけは。
しかしながら、肉の中に埋め込んだ陰茎をうまく動かして、一点だけを狙ってつつくというのはそれなりに難しい芸当らしい。
数往復分はアルドの告げた場所を狙うように腰を動かしていても、なかなかうまくはいかない。たまに先っぽがうまく当たっても、ぐりぐりと押し付けるうちに狙いがずれていってしまう。不自由な体勢のせいで、アルドが動いてうまく導いてやることもできない。
そして苦しいぐらいにぴったりと密着した肉壁に挟まれ、ごしごしと竿を擦るうち次第に狙いの定まらない幅が広がってゆく。浅い部分に留まって小刻みに動いていた切っ先が、徐々に奥へと沈んでゆく。ひたとアルドを見つめる瞳がとろんと蕩けてゆき、じわじわと目尻が赤く染まり表面が潤み始める。
そうなればいよいよ、狙い通りの場所にそれが穿たれることはない。
アルドを気持ちよくさせようとしていたセヴェンの動きが、アルドの中で気持ちよくなるための動きに変化してゆく。
胸に寄せた膝を更に上からぐっと押され、増した苦しさに息をつく間もなく、高さの上がった尻たぶにぺちんぺちんと湿った皮膚が打ち付けられる音がした。
やがて音の響く感覚がどんどんと狭まってきて、ひゅっと高い音を鳴らして息を飲んだセヴェンが、縋るように頭を寄せてアルドの唇に吸い付いてくる。
「アルド、アルドぉっ、ごめっ、ちんこ止まんな、あ……っ! あっ、だめ、やっ、気持ちい、きもちいい……っ!」
舌を絡めることなく幼子のような拙さで、ちゅぱちゅぱと下唇と上唇を交互に吸って、紅潮した頬よりも艶やかに染まった声で、譫言のように気持ちいい気持ちいいと繰り返す。濡れそぼった赤い唇の隙間、突き出た舌先から、アルドの首筋にぽたぽたと垂れた数滴の雫が、透明な糸を引いているのに気づく様子もない。
「あ、んうう、いい、すごっ! いくっ、いっちゃうぅうっ!」
途中からきもちいいとすら言えなくなったセヴェンが、短い艷声を連ねてますます腰の動きを速めてゆく。
そして一際勢いよくべちん、と腰を打ち付けてぴたりと動きを止めたあと。
ぐりぐりと尻たぶに押し付けられる硬い腰骨、ふるりと小さく震えた身体、少し遅れてどろりと内を湿らせた感触。少し眉を寄せて射精の快感に身を浸すその表情は、赤く染まった目尻も濡れて光る唇も、垂れた唾液の作る筋も何もかもが壮絶に色っぽくて、同時にどこかあどけなく呆然と放心した瞳に宿った光が、なんともいとけなく可愛らしい。
達してからもしばらくの間は、はあはあと荒い息を吐き出して呼吸を整えようとしているセヴェンの表情を、じっくりと堪能しつつゆるりと目尻を下げたアルドもまた、ふっと詰めていた息を吐きだした。
「ごめ、アルド……また、オレばっか」
「そんなことないよ」
ようやく多少、呼吸が落ち着いてから。
おずおずと尻から萎えた陰茎を抜き取ったセヴェンが、まるで叱られる前の子供のような表情でへにょりと眉を下げ、アルドの顔を覗き込む。
そんなセヴェンの言葉に笑って緩く首を横に振ったアルドは、上半身を起こして膝を立てて座る。そのまま自身の陰茎を握って軽く擦れば、二度ほど往復したところですぐさま、向かい合ったセヴェンの腹目掛けてぴゅっと白濁が飛んだ。
ほらな、と悪戯めいて重ねて笑いかければ、己の腹とアルドの間に数度視線を往復させたセヴェンが、ようやく理解したようにほっと肩の力を抜いて照れくさげに微笑む。
尻の中を擦られるだけで達せてしまうほどには、まだ熟れてはいない。夢中で腰を振っていたセヴェンの動きが気持ちよかったといえば、それも厳密には嘘になってしまう。
けれど確かに気持ちよかった。それは嘘じゃなくて本当のこと。
アルドの中に入ってきもちいいきもちいいと口走って、頬を真っ赤にさせて舌をしまえないくらい夢中になって、うっとりと蕩けた表情を惜しげも無く晒すセヴェンを見ているだけで、恐ろしく興奮した。
身体が感じるのは苦しさが勝っていたのに、どんどんと余裕をなくしてゆくセヴェンの可愛い喘ぎ声を聞いているうち、胸の内側を直に撫でられたような心持ちになって、苦しいはずの腹の底がじわじわと熱くなった。
一緒に達することは出来なかったけれど、数度擦れば簡単に果ててしまうくらいには充分、昂っていた。
腹にかかった精液を指ですくい、ごくりと唾を飲んだセヴェンに目を細めてアルドは、汚れるのも構わずその身体を抱き寄せる。どうせあとで風呂で綺麗に流してしまうのだ。多少のことは気にしないと、濡れた腹も構わずぴたりと身体をくっつけて抱きしめれば、あわあわと手をさ迷わせていたセヴェンも察したように大人しくなって、そっとアルドの背に手を回してくれる。
「またしような」
近づいた耳元にそっと囁けば、抱きしめた身体がびくりと震えた。けれど抵抗して突き放すことなく、こくんと小さく頷いてアルドの肩にぽふんと顔が埋められる。
そして小さな声で、つぎはもっとがんばる、と呟くのが聞こえたから。アルドはささやかに喉を鳴らして笑った。
気持ちいいことばかりかといえばそうでもない。むしろそうでないことが大半だ。
中を広げられる際の痛みは少なくなったとはいえまだまだ苦しいし、慣れない事も多い。中で快感を拾えるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。
それだけじゃない。長く折り曲げていた膝は、固まって強ばっている。太ももの内側の付け根が、少しだけ痛かった。おそらくは明日、筋肉痛になると予想できた。中だけでなく外側も、もう少し柔らかく解していかなければ後々きつい。
そんな風に、不自由な部分は考えなくてもいくつもぽんぽんと浮かんでくるのに、それでも。
怯むことなく、懲りることなく、すぐさまこうして次の誘いをかけてしまうくらいには。
アルドはセヴェンと身体を重ねるこの行為を、気に入っていたりする。