A few years later


パパと息子ごっこが始まって数年。
最初は父性と言うのかも怪しい、何とも言い難い動機で始まった関係だったが、継続は力なり。
レオナルドの昔の思い出に割り込んでトレースするうち、それなりに何かは育ったらしい。
スティーブンはある時から、婚活を始めた。
といっても一番のきっかけは、クラウスに勧められたことではあるけれど、一応真面目には探しているらしい。

しかし。
今のところ、全戦全敗。
しかも理由が、全員何かしらのスパイやらハニートラップだったというから、笑えない。
表向きの伝手もライブラや牙狩り関係のものも手広く使っているのに、見事にそういう相手しか引っ掛けてこない。

「レオー、また駄目だったよ。彼女、またどっかのスパイだった……」
「またっすか。ほんとアンタ、私生活では人を見る目なさすぎますよね」
「何でだろう、何が悪いんだろう……」
「っつーか、無意識か意識的にか知りませんけど、相手選ぶ時、そういうのばっかわざと選んでますよね。そういうのが食いつきたくなるような餌うまいことちらつかせて」
「そんなことは……多少は、あるかもしれない……」
「あーヤダヤダ職業病。ワーカーホリック」
「仕方ないだろ……性分なんだ」
「そのくせどっかで、あっち裏切ってこっち来ないかなってあり得ない期待しちゃってるんですよね。そうなったらそうなったで信用出来ないくせに。マゾですか」
「息子が冷たい……」

今日もまた、いい感じになってた見合い相手が牙を剥いてきたんだと、酒を呑みつつレオナルドに愚痴る。
最初はレオナルドも、親身になって慰めていたけれど、こう何度も何度も同じパターンが続けば、さすがに運が悪かったでは済まされない。
ある程度は自業自得とは思っていて、きっとスティーブンもどこかでは理解してるくせして、毎回きっちり傷つくのだから本当に不器用で面倒くさい。

ああもう、本当にどうしようもないなあこの人、と思いつつ、レオナルドは酒で湿った口を開く。

「四十」
「え?」

唐突に告げた数字に、机と仲良くなっていたスティーブンは顔を上げて、きょとんとしてレオナルドを見つめる。
そういうの、本当にずるいなあ、とレオナルドは内心でため息をついた。

「アンタが四十になっても、まだ相手が見つかんなかったら」

だって、仕方ない。
パパと呼んでほしがるくせして、スティーブンが息子と呼ぶレオナルドに見せるのは、器用なくせに自分のこととなると不器用で、冷徹になりきれない優しい部分。
パパと呼んで安心して身を任せるより、スティーブンさんと呼んで抱きしめたくなるようなところばっかり。
子供の特権に甘えて我儘で振り回すより、大人になって大丈夫ですよと頭を撫でてやりたくなるところばかり。

だから、仕方ない。

「レオがパパのお嫁さんになってあげる」

どれだけ請われても滅多にしてみせなかった、小さな子みたいな一人称で。
恥ずかしくなるくらいとびきり甘えた声で。
パパが世界で一番大好きと告げる、無邪気な子供の真似をして。

ぽかん、と呆けたような顔をしたスティーブンに、あっさりと年相応の顔に戻ったレオナルドは、してやったりと悪い顔でくすくすと笑って、唇に指を一本当てる。

「それが嫌なら死にもの狂いで頑張ってくださいね、パパ」

おまけとばかりに、わざとらしくちゅっとリップ音を立てて、投げキッスを一つ。
似合わないのなんて分かっている。
普段なら、大笑いで流されただろう、それが。
こつん、とスティーブンの額に当たった瞬間、うっすらと頬を赤く染めた気がしたから。

思ったより反応は上々、と。
レオナルドは内側に掲げた天秤の片方に、ささやかながら期待値を、少しだけ上乗せした。


そして、更に数年後。
パパと息子がどうなったかといえば。
レオナルドとザップの間に長きに渡って存在していた見解の相違が、ダース単位のローションとゴムと共に、見事に解消された、とだけ言っておこう。