photograph
悪気があった訳じゃないことは、分かっていた。
主にリアルでの知り合い同士で繋がったSNSにアップした写真に、イマイチパッとしないよね、とコメントした友達は、はっきりした物言いをするけれどけして悪いやつじゃない。
それに同意するようなコメントが続いた事からして、みんな以前から薄々は思っていたのだろう。
もっとこういうやつみたいにしたらいいのに、と例として提示されたのは、有名な観光スポットを写した色鮮やかな写真。湖の青も山の緑もくっきりと浮き出んばかりに輝いていて、こんな風景を見られるならば是非行ってみたいなと思うようなもの。
曖昧な返事で濁したレオナルドも、きっと良くはなかった。
へえ綺麗だなあと、見せられた写真を褒めていれば、話に参加していたうちの一人が、画像ソフトを使ってレオナルドの写真に手を入れた。セピア調、グラデーションを強調したものに、モノクロ加工。ちょっとふざけて魚眼レンズで撮ったように歪めてみたり、知らない誰かの姿を合成したりなんてして。
絶対こっちの方がいいよ、と無邪気に話す彼らに、悪気はないことは分かっていた。だって確かに、なんにも手を加えていないただその辺の風景を切り取って写しただけの写真より、手を加えて色の対比を強調させた方がよほど目を惹くものに仕上がっている。タイムラインに時折流れてくる、みんなに人気のある写真の仲間入りをしたみたいだった。
一通り弄り終わったあと、最初に発言をしたやつと写真に手を加えたやつからはわざわざ個別にメッセージで謝罪をされた。余計なことしちゃったかな、と謝る彼らにレオナルドは、けして不快感を示すことはしなかった。あんな風に出来るなんてすごいなと告げて、でも俺にはちょっと難しいかも、と付け加えてもおいた。
まるきり嘘という訳ではなかった。
すごいなと思ったのは本当だし、綺麗だなと思ったのも本当。
けれど以来レオナルドは、不自然に思われないよう理由をつけては、SNSに写真を上げる頻度を少しずつ少しずつ減らしていった。
腹を立てた訳ではない。不愉快というのも、少し違う。
写真を撮る際に彩度や構成に気を遣って、実物以上に美しく見えるようにするのはテクニックの一つだと、レオナルドだってよく分かっている。どうせ見るなら、誰だってより綺麗なものの方がいいだろう。次第に悪ノリの度合いが強くなっていったのも、仲間内での遊びの一つだと分かっている。
けれど彼らの助言に従って写真に手を加えることを選ばなかったのは、きっと、少しだけ。
寂しかったのだと思う。
レオナルドが写真を撮るようになったのは、ミシェーラにいろんなものを見せてやりたいと思ったのがきっかけだ。
ミシェーラは家の中で大人しくしている性質ではないので、基本的にはどこにでも一緒に遊びに出かけてはいたけれど、車椅子ではなかなか入りにくい場所や、学校のイベントでレオナルドだけが行く所なんてものもたまには出てくる。
そういった時、特に気に入った風景を見つければどうしてもミシェーラに見せてやりたくなってしまうレオナルドは、いつしか自然とカメラを携帯するようになった。
初めは父のものを借りて。
手伝いをしてせっせとお小遣いを貯めて自分用のデジカメを買ってからは、それをお供にして。
ぱちりとシャッターを切って風景を切り取れば、それに手を加えることはしない。レオナルドが見たそのまんまを捕まえて、データとして閉じ込める。だってそれこそがミシェーラに見せてやりたいと思ったものだから、飾り立てる必要を感じなかった。ミシェーラだってレオナルドの写真が好きだと喜んでくれるから、それでいいとすっかり満足していた。
だからこそ、イマイチ、と評された事が。
まるで今までの自分の行動をまるごと否定された気持ちになって、悲しくなってしまったのだと思う。
きっとミシェーラは、レオナルドの中に生まれた屈託を知れば、何言ってるのと笑い飛ばしてくれるだろう。私はそのまんまのお兄ちゃんの写真が好きよと、本心から言ってくれるだろう。
そういう妹だからこそ、レオナルドは単に妹としてではなく、人としてもミシェーラの事を好ましく思っていて、尊敬もしている。
けれどミシェーラに何もかも白状してしまう気にはなれなかった。兄のプライドもあったろうけれど、それだけじゃない。
だってレオナルドは、自分のやり方を変えるつもりはなかった。ミシェーラは手を加えないままの写真を喜ぶ事を知っているし、レオナルドがそれを何より見せたいのはミシェーラだから、誰に何を言われてもそこを変えるつもりはない。わざわざミシェーラに背中を押してもらわずとも、端から譲るつもりなんてなかった。ある意味では、既に開き直っているともいえる。
だからこそ。たとえミシェーラに確認したとして、屈託が晴れることはないと知っていた。
だってそれはきっと、レオナルドの中の開き直りきれない部分だと気づいていたから。
ミシェーラさえ喜んでくれればいいと思う中に僅かに紛れ込んだ、自分たち以外の誰かに認めてほしいと願う、外側へと向かった気持ちだと薄々自覚していたから。
友人達が使っていない、写真が趣味の人たちが集まる写真投稿がメインのSNSにこっそりと登録したのは、そういう経緯があったからだった。もっと広いコミュニティの中でなら、もしかしてレオナルドに理解を示してくれる人が沢山いるかもしれないと思ったから。
しかしそう簡単にはいかなかった。
写真が趣味のユーザーがメインな事もあって、構図や彩りに気を遣った華やかな写真が秒刻みで新たに投稿されてゆく。そんな中にあってレオナルドの写真は、人の目を惹くには些か地味すぎた。
コメントのやり取りを通じて繋がった人も幾人もいたけれど、彼らは友人達以上にあけすけだった。きっと皆、写真が好きだからこそだろう。
もっとこうした方がいい写真になるよとアドバイスをくれて、光のバランスや構図の決め方に編集ソフト、値段の割に性能のいいカメラを勧めてくれる。
それでもレオナルドが自分なりのやり方を変えないと分かれば、拘りがあるなら仕方ないと受け入れられるか、疎遠になるかだった。
受け入れてくれれば、写真を投稿すれば好意的なコメントをくれるけれど、依然としてレオナルドの屈託は晴れない。だって彼らが認めたのはレオナルドの拘りで、写真そのものを本心から良い出来だと思ってはいないと知っているから。
そうして、SNSに登録してしばらく経った頃。
彼から、コメントを貰った。
ちょうど新しく繋がったユーザーからアドバイスを受けていた最中のことだった。
この構図もいいけれど次は左の樹をメインに据えてはどうか、なんて話が出ていたタイミングで。
『僕はこのままの方が好きだけどなあ』
リアルタイムで画面を見ていたレオナルドは、全く知らないユーザーから送られたコメントにとくりと胸を高鳴らせた。
別に君のアドバイスが悪いって言いたいんじゃないけれど、と他のユーザーに前置きしてから、再び彼がコメントをつける。
『ほっとするっていうか、懐かしいっていうか。具体的にどこがって言われたら困るけど、でも僕は好きだな、この写真。すごくいい写真だと思うよ』
通りすがりの、赤の他人。
どんな写真を撮る人かも知らないし、当然人となりだって分からない。
けれど、レオナルドはたったそれっぽっちの言葉で。
画面の向こうの誰かに心を掴まれてしまった。
それはもう、あっさりと。
Aと名乗るその人はこのSNSにしては珍しく、写真を一切投稿していないユーザーだった。何人かをフォローして、気まぐれにコメントを残すだけ。
撮るのは苦手だけど、見るのは好きなんだと言ったその人は、すぐさまレオナルドの心の中の特別な部分に腰を下ろした。
『ほら、観光パンフレットの写真あるだろ? あれで期待して見に行ったら、実物は思ったより良くなくってね。ガッカリって事が何度もあってから、綺麗すぎる写真ってあまり落ち着かないんだ』
二人だけの個人的なやり取りの中でそう漏らした彼は、だから君の写真が好きなんだと言ってくれた。
やり取りを続けるうちにレオナルドが写真を撮り始めたきっかけをぽろりと零せば、もしかしてそんな気持ちが滲んでいるから君の写真に心惹かれたのかもしれない、と言って、とても素敵な動機だねと何度も何度も繰り返し告げてくれる。
彼にそんな風に言ってもらえるだけで、レオナルドの中の何かが報われた気がして、抱えた小さな屈託が昇華されていった。
彼とのやり取りの頻度は、それほど高くない。
多くて週に二回、間があけば月に一回程度。
レオナルドが写真をアップすればコメントやメッセージをくれる事は多いけれど、彼自身は投稿を行っていないこともあって、バックグラウンドはいまいち想像しにくい。
分かるのはレオナルドよりずっと歳上の男性で、働いていることくらい。そこにレオナルドの想像を付け加えるなら、きっとものすごく優秀で忙しい人だと思う。
連続してやり取りをしている時も途中で用事が入って終わる事はよくあるし、送ったコメントの返事が半月後なんてのも珍しくない。
彼自身が言ったわけではないけれど、もしかしてレオナルドとのやり取りが負担になっていたら困るから、なるべくこちらからはアクションを起こさないようにしようと決めたこともある。けれどそういう時に限って彼は熱心にコメントをくれるから、ついついレオナルドも引き摺られてあれやこれやと話をしてしまう。
話の内容は写真の事が二割ほどで、あとはおおよそレオナルド自身の話。ミシェーラのことや、学校のこと、友人との話、そしてちょっとした悩み。
いつもいつも自分の事ばかり話してしまうから、次は彼の話を聞こうと思うのに、気づけば誘導されてまたレオナルドばかりが話している。そういう手際の鮮やかさも、彼が優秀な人だろうと判断した理由の一つだ。
さして面白い訳でもない一介の学生の話なんて大人にすればつまらないだろうにと思うのに、彼はちっとも嫌がる素振りをみせなかった。音声チャットは使わなかったから文字から伝わる雰囲気しか分からなかったけれど、お世辞ではなく本心からレオナルドの話を楽しみにしてくれている。けしてレオナルドの勘違いではない筈だ。
なぜなら、君くらいの歳の頃が懐かしくって、とか、楽しそうでいいなあ、とか。割と当たり障りなく返事をくれる彼が一度、ひどく狼狽えたことがあったから。
僕が君と同じ歳の頃、君みたいな友人が僕の隣にいてくれたらきっと、すごく楽しかっただろうな、と。
一見すれば社交辞令の延長線上のようなメッセージのあと、彼にしては珍しく慌てたように矢継ぎ早に連続でメッセージを寄越して、冗談だとか聞き流してほしいだとか、必死で言い募っていたから。そのあまりの剣幕が逆に、先の言葉が本心からのものだと証明しているように思えたから。
何が琴線に触れたかは分からないけれど、嘘ではなく本当に、レオナルドとのやり取りを楽しみにしてくれているようだった。
ネット上の歳の離れた友人、少なくともレオナルドの方は友人だと思っている相手のことを、知っているのはミシェーラだけで、学校の友人達には話したことがない。
わざわざ触れる理由がないということもあるけれど、あえて話に出さないように気をつけている部分もある。
ちょうど彼と知り合ってすぐの頃に、クラスメートの一人がネットを通じて知り合った人に嫌がらせをされているらしいと、ちょっとした話題になったのだ。
レオナルドは彼に嫌なことをされたことは一度もなかったけれど、仮に友人に彼の話をすればそのクラスメートの話と関連して、怪しいと言われてしまうかもしれないとの自覚はあった。実際、もしもレオナルドの立場にミシェーラがいて話を聞かされたならば、危ない相手かもしれないともっと警戒したことだろう。
客観的にどう見えるか分かっているから、ミシェーラ以外には言えなかった。たとえそれが心配からだったとして、彼の事を悪く言われるのは嫌だったから。
基本的にSNSにアップするのは、ミシェーラに見せたくて撮った写真の中でも、特に気に入っているものだけ。
だから必然的にミシェーラに見せたことのない風景が多くなって、レオナルドの日常的に点在する景色の数は極めて少ない。
けれど彼とやり取りをするようになって、カメラを持ったレオナルドに新たな欲求が芽生えた。
ミシェーラに見せたい景色は、山ほどある。
けれどそれだけじゃなく、彼にも。
レオナルドの写真が好きだって言ってくれる彼に、見せたいと思ってシャッターを切る事が増えた。
ミシェーラに見せるものに混じって少しずつ溜まってゆくデータを、すぐに彼に見せる事は出来なかった。いざ彼に見せようと切り取った景色を確認すると、なんだかいまいちな気がしてしまう。
それこそまるで、きっかけとなった友人の言葉みたいに。
これじゃ全然ダメだ、ぱっとしない。
もっと綺麗なものを撮らなくちゃ。
絶対に彼が気に入るだろう景色を。
一目見ただけで心が奪われてしまうようなものを。
そうやって次第に構図やら色合いを気にし始めたレオナルドの行動を諌めたのは、ミシェーラだった。
最近のお兄ちゃんの写真って、カッコつけててあんまり好きじゃないわ、と言われてようやく、初めに彼が好きだと褒めてくれたものと今の自分が手にしているものがかけ離れている事に気づく。
そりゃあ好きな人には少しでもカッコよく見られたいでしょうけど、と面白そうに続けて笑ったミシェーラの言葉に、別にそんなつもりじゃと反論はしたけれど、全くの的外れではなかったせいか言葉尻は弱々しく萎んでしまった。
そこにどんな意味が含まれるかは置いておくとして、確かにレオナルドは、彼のことがとても好きだったから。
ミシェーラに指摘されて改めて手元に残ったデータを確認すると、今までと違った風に見えてくる。より良く撮ろうとし始めた頃から、綺麗にはなっているけどありのままからはかけ離れていっていた。
初心にかえるため、どうして彼に見せたくてシャッターを切ったのかを思い出してゆく。
レオナルドが綺麗だなと思う瞬間を、気に入っている風景を、彼にも見てもらいたかったから。
それを目にした時に少し上向く気持ちを、彼も共有してくれれば嬉しいと思ったから。
そこまでは、ミシェーラに贈りたいものと同じもの。
それに付け加えて。
当たり前にありすぎて気づかなかったレオナルドの日常の風景を、話して聞かせる度に彼がいいなあと呟いて浮き上がらせてくれたから。
些細な日常のあれこれをこまめにすくい上げて、見てみたいなあとよく口にしていたから。
だからそれを彼に見せてもしも喜んでくれたなら、とても嬉しいと思ったから。
突き詰めてそもそもの動機にたどり着けば、自然と彼に見せたい写真も決まる。
随分と悩んだ末に選んだのは一番最初、彼に見せたくってシャッターを切ったもの。
もうすっかり見飽きた筈の、ミシェーラとよく出かける湖畔から見える景色。ミシェーラのお気に入りの場所という事で何度か話したその場所のことを、彼もまた気に入っているようだった。基本的にレオナルドの話を制限しない彼が時折、その話をあちらからやんわりと催促してくるくらいには。
写真を選んだあとは少し迷ってから、彼個人に宛てたメッセージに写真を添付して送ることにする。全体に公開してもよかったけれど、出来るならば彼に一番に見て欲しかった。
あなたに見せたくって撮りました、と一度は打った文章は、途中で思い直して消してしまった。素直に思いついたまま打ったけれど、よくよく読み返してみればなんだか告白の文句に見えて、気恥ずかしくなってしまったから。
しばらく頭を捻って考え込み、結局、『妹のお気に入りの場所の写真です』とだけ言葉を添えてメッセージを送る。
送ってからは、ちょっぴり不安になった。
彼の言葉の全てを真に受けて写真を送ってしまったけれど、さすがに迷惑だったんじゃないかと、しばらくの間そわそわと落ち着かなかった。
返事が来たのは、メッセージを送ってから一週間後のこと。
おそるおそる内容を確かめれば、いつもの彼らしくもなく、OMGとエクスクラメーションを何度も繰り返し、本当に嬉しいありがとう、大事にすると言ってくれている。
想像以上の反応にすっかり舞い上がったレオナルドは、それからも定期的に、彼に宛てて写真を送り続けた。
彼との交流は、おおよそ二年半近く続いた。
レオナルドとしては、あちらが飽きない限りはずっとこのやり取りを続けてゆきたいと思っていて、もしも終わりが来るとすればそれを提示するのは彼の方だと考えていた。
けれど結局、打ち切ったのはレオナルドの方。
得体の知れぬ化け物との邂逅が、レオナルドの考えていた未来をひっくり返し、自身の臆病さがミシェーラの光を奪ってしまったから。
突きつけられた最悪の状況に、しばらくはSNSを見る余裕なんてある筈もなく、現状を打破すべくHLに行く事を決めてからも、触れることは出来なかった。
ようやくそれを開いたのは、HLに出向く前夜。
しばらく顔を出していなかったから、繋がった幾人から心配するコメントがあって、そして彼からも。レオナルドを案じる短いメッセージが届けられていた。
目にした瞬間、縋ってしまいそうになる。
顔も知らない相手という事も手伝って、誰にも打ち明けにくい悩み事を彼に相談したことが、何度かあったから。いっそ全てをぶちまけてしまいたかった。
或いは素知らぬ顔で写真を送って何も知らない彼の喜ぶ姿を想像すれば、鬱屈した気持ちが少しは慰められるかもしれない。一時だけ何もかも忘れて、想像の世界に逃避出来るかもしれない。
けれどすぐさま、首を振って浮かんだ甘えを追い払う。
だってレオナルドの写真は、ミシェーラに見せたくって撮り始めたものだから。
彼という特別ができても、心に響いた景色を一番に見せたいのはやっぱり、ミシェーラのままだったから。
己の不甲斐なさのせいでそんな自己満足すら届けられなくなってしまった今、見知らぬ誰かにそれを送るのは、手酷い裏切りのように思えてしまったから。
ミシェーラがいくらそんなことはないと言ってくれても、考えすぎよと慰めてくれても、レオナルド自身が自分を許すことが出来なかったから。
これが、最後。
余計なことを省いて簡潔に、彼に宛てたメッセージを作る。
就職が決まって忙しくなりそうなので、アカウントを削除することにしました。今までありがとうございました。
たったそれだけ打ち込んで送信したあとは、宣言通りアカウントを削除する手続きに入る。
何度か出てきた警告を全てクリアして、いよいよこのボタンを押せば何もかも消えるという段階で、マウスをクリックしていたレオナルドの指が止まった。心のどこかで、嫌だ嫌だと駄々を捏ねる声が響いている。
けれど、深呼吸を二回。
聞こえた内なる声を黙殺したレオナルドは、カチリ、クリックを一回。
すぐに切り替わった画面は、何もかもが消え去った事を示していた。
じんと熱くなった目の奥に気づかないふりをして、ベッドに潜り込んだレオナルドは、祈るように何度もミシェーラの名前を繰り返し、胸の前でぎゅっと手を握った。
やがて夜が明け、朝になるまで。
睡魔は一度だって、レオナルドの元にはやって来てはくれなかった。