3
すっかり意気消沈したレオナルドをがようやく僅かばかりに持ち直したのは、いつの間にか運ばれていたベッドルームにて。
やたらと大きなキングサイズのベッドの上、ぺたんと座り込んで俯いていたら急にぐっと顎を掴まれ上を向かされて、舌打ちと共に降ってきたザップのキスを、その唇に受けたから。
不意に目の前に現れたザップの顔に驚いて身を引こうとするも間に合わず、触れた唇が離れていってから、唐突についさっきまでしていた事がまざまざと蘇ってきて、レオナルドはカッと頬を染める。
「レーオ、なあ、拗ねんなよ。それともあれか? 最初っからスカトロプレイが良かったって? 童貞のくせにマニアックすぎるだろ」
「ちげーよ! っつうか、なんで当たり前のように、き、キスしてんすか! ああ、もう、意味分かんねぇし」
ようやく何かしらの反応したのが面白かったのか、にやにやと笑ったザップに至近距離で顔を覗き込まれたレオナルドは、動揺しつつも言い返す。
そりゃあ確かにさっきは、酔っ払って流されて、なんか変な雰囲気になったけど。
バスルームでは衝撃的な事がありすぎてうっかりされるがままにここまで運ばれてきてしまったけど。
酒も抜けてしまった今となっては、はいじゃあ続きをなんて気にはならないし、そうなる理由も道理もない。
「もーアンタ悪ふざけにしちゃやり過ぎっすよ、マジで」
だからいつものようにやり合ううち、全部元通りになって、さっきまでの事は無かったことになるんじゃないか、なんて淡い期待を抱きつつ、ひたすら口を動かし続けた。
ザップがいつものように意地悪く笑って、バーカ本気にすんなよ、と頭を軽く叩いてくる事を期待して。
それなのに。
「悪ふざけでここまでするわきゃねーだろ」
レオナルドの期待が、現実のものとなる事は無かった。
笑うどころかすっと表情を消してしまったザップの静かな声に、開いた口から出てゆく筈だった言葉たちが、喉の奥で溶けて消える。
ヒリヒリと肌がひりつくような、ザップから発せられるプレッシャーに気圧されたレオナルドは、指一本動かすことが出来ずに、ごくりと唾を呑んでその、ぎらつく瞳を見ている事しか出来ない。
と。
とん、と。
前置きもなくふいに、軽く肩を突かれてレオナルドは、何が起こっているか分からないままに、あっさりと後ろに倒された。
そして起き上がろうと考えるよりも早く覆いかぶさってきたザップに、そのまま唇を奪われそうになったから、直前で慌てて横を向いてそれを避ける。
レオナルドの反応に一瞬、むっとした顔をしてみせたザップだったが、すぐににやっと口角を上げて、指でそろりとレオナルドの脇腹を撫でる。
びくりと身体が跳ねそうになったのを、必死で抑えたつもりだったけれど、おそらくザップにはバレていたのだろう。
数度指を行き来させてから、微かに目を細めて。
「ま、いーわ。どーせやるこた、変わんねーんだし」
そして。
見せつけるようにペロリと唇を舐めて、不敵に笑ったザップは。
「サイッコーに気持ちよくしてやんよ、なあ、レオ?」
一度も、見たことがない。
レオナルドの知らない男の顔をしていた。
抵抗は、した。レオナルドなりに、精一杯。
手足をバタバタと動かして、のしかかる男から逃げ出そうと試みた。
けれど振り上げた手をあっさりと捕まれ、手首から肘裏までべろりと舌を這わされれば、それだけでぞわりと背筋に痺れが走る。太ももの内側を指でなぞられれば、じわじわと腰が甘く疼く。
いっその事、義眼の力を使ってしまおうかと真正面からザップをぎりりと睨みつければ、そのギラつく瞳に気圧されて、眼の使い方どころか息の仕方まで思い出せなくなって動けなくなってしまう。
そうしてレオナルドが必死の脱出を試みる間にも、全身にザップの指が触れてゆき、舌の熱が移されていって。
時間が経てば経つほど、身体がレオナルドの言う事を聞いてくれなくなってゆく。仕方ないのだと主張して、それを享受したがる身体に心が引き摺られてゆく。
「ザップさ、やめ、やだ、やめっ」
「んな気持ちよさそーにしてんのに、素直じゃねぇなあレオナルド君は。ほれ、さっきみたいに言ってみろよ、気持ちいーって」
途中からはとうとう、腕を振り上げる簡単な動作さえ難しくなった。せめて少しでもそれから逃れたくて身を捩るけれど、伸びてくる手に一撫でされただけで逃がした以上の熱が与えられる。
それを快感と呼ぶのだと、レオナルドは分かっていた。
ぞわぞわと全身を落ち着かなく巡るその感覚は、気持ちいいのだと既に理解していた。
だからこそ、さっきみたいにそれを口にしてしまう訳にはいかなくて、ザップの言葉にいやいやと首を振る。
だって、それを口にしてしまったら。
言葉にして認めてしまったら。
もっと、もっと、もっと。
気持ち良くなってしまうことをレオナルドは、もう、知ってしまっていたから。
気持ちいい気持ちいいと言い聞かせるように何度も繰り返していたザップは、レオナルドが頑なにそれを口にしないと分かると、まあそのうち、と不穏な言葉を呟いてから、あっさりとレオナルドの上から退いてゆく。
何が起こったのか分からなかった。同時に離れていった指と舌の感覚を、一瞬、惜しいとすら思ってしまった。
直後、そんな己の思考にカッと頬を染めてから、もしかして終わったのかと淡い希望を抱く。
けれどそれは、数秒にも満たない儚すぎる希望だった。
油断して脱力した身体をくるんとひっくり返されそのまま、後ろへと腰を引かれれば知らず知らずのうち、尻を高く掲げる格好をとらされている。
状況の把握も出来ないまま、はあはあとすっかり上がった息をシーツに押し付けて、熱を必死で逃がしていれば、掴まれて広げられた尻たぶの真ん中、有り得ない場所にぬるりとした感触を覚え、レオナルドは声にならない悲鳴をあげた。
「や、やだっ! や、や、汚っ……ひっ」
「キレーにしたっつったろ?」
「やだやだっ、ヘン、気持ち悪、いぃ……っ」
生温かくて湿っているそれが、つんつんと穴の周辺を舐る感覚に、ぞわりと背筋に寒気が走る。
慌てて手を動かして前に這って逃げ出そうとしたけれど、すぐに腹に回した手にぐっと後ろに引き戻されて、再び舌を這わされる。
その感覚を気持ち悪いと思った事に、嫌悪よりまず先に安堵した。
これはさっきまで自分を追い詰めていた熱とは違うものだと、ほっとした。
なのに尻たぶを掴んでいた筈の右手がいつの間にか腰に移動して、へこんだ窪みをさわさわと撫でた指がつっと下に向けて動き始めただけで、その気持ち悪さに余計な色がつく。
寒気にじわじわ熱が混じっていって、むず痒さに似た快感が生まれて、同時に為される動きのどちらがそれを作り出しているのか分からなくなっていって。
シーツに押し付けた口の端からは涎が垂れていって、上がった息と唾液で温く湿った布が頬に当たる感触すら気持ち良くなっていって。
つぷり。
たっぷりと時間をかけて湿らされた中心に、気持ち悪い筈の何かが肉をこじ開けて侵入してきた時には、その気持ち悪さすら快感に書き換えられていて。
「ん……っ! んー、んっ、や、やああっ! やだ、やめ、やめえええっ!」
まるで内側から味見でもするように、柔い粘膜をべろりと舐められたレオナルドはなりふり構わず絶叫した。
やめて、怖い、嫌だ、助けてザップさん。
取り繕うことも忘れて必死に懇願するのに、ザップからの返事はなく、止めてくれるどころか奥へ奥へと軟らかな異物が侵入してゆく。
まるでわざと聞かせているかのように、ぴちゃりぴちゃりと音を立てて舌を抜き差しし、唇をきつく押し当ててじゅっじゅと厭らしく吸い上げる。
ありえない場所に舌を這わされる事への嫌悪感は残っているのに、続くうちにそれすらも快感に変化していって、己の口から吐き出す音がまるで媚びるようなものに変わった事に気づいたレオナルドは、耐えきれずシーツに顔を押し付けて、溢れる涙を布に吸わせてぐっと奥歯を噛み締めた。
炙られた身体はどうしようもなく追い詰められて熱くなってゆくのに、心のどこかがちくりと傷んで、ひゅっと温度が下がってゆくような錯覚を覚える。
いくら名前を呼んでも答えが無いことに、苛立ちに似た何かが心を蝕み始める。流されかけていた心が、頑なに閉じてそっぽを向く。
どうせレオナルドが泣いた所で、止めてくれる訳じゃないのだと捨て鉢な気持ちになりかけていた。
最後の意地で泣き声だけは聞かせたくないと残った理性をかき集めて、喉の奥に蓋をした。
好きなようにすればいい、と自棄っぱちに胸の中で吐き捨てれば、シーツに染みゆく水分の量が少し、増えた気がした。
なのにそういう時に限って、ザップは妙に察しがいい。とても腹の立つことに。
ぐ、と喉の奥からせり上がってきた嗚咽を、音になる前に噛み殺せば、あれほどやめてほしいと懇願しても止まらなかった舌が、あっさりと引き抜かれた。
「レーオ」
鼻にかかったような甘い声で、名前を呼んで。
すっとレオナルドを持ち上げて反転させ、向かい合う格好で抱きかかえると、唇を噛み締めて俯いたレオナルドにちゅっちゅとキスをして、そのまま強引に唇の間に舌をねじ込んでくる。
そして口の中を一通り舐めまわしたあと、ニヤッと厭らしく唇の端を吊り上げて。
「テメーのケツの味はどうだ? ん?」
案外悪かねーだろ、とケケケと楽しそうに笑うザップの言葉に、レオナルドはうわあと顔を顰めてサイテーだ、と掠れた声で呟いた。
口にしただけでなく、心の底からこの人マジで最低だとも思った。けれど。
その最低さに腹を立てるよりも、なぜだか気が抜けてしまった。だってそれは、レオナルドのよく知る、ザップのものに聞こえたから。
つきつきと胸に刺さっていた棘は簡単に抜け、堪えていた筈の涙は一瞬で止まり、脱力してその胸に凭れ掛かる。
「も、ほんと、アンタ、サイテーっすわ」
切れ切れに吐き出した精一杯の悪態に。
隠しようのない安堵と、小指ほどの甘さが滲んでいたことに、気づかないフリをして。
コン、とその胸に、軽く頭突きをしたレオナルドの唇には、小さな笑みが浮かんでいた。
「ふ、んんっ、も、バカ、さいっ、てぇ……!」
「はっ、ナッマイキ。ココ、ゆっるゆるのくせに、よおっ」
「や、も、ムリ……バカ、バカバカしねっ、んっ、ひぃっ」
ぐちぐちと粘った音がするのは、ザップの指がレオナルドの尻の穴に抜き差しされるせい。それも、ザップに肩に額を押し付けて腰を軽く浮かし、その指を迎え入れる体勢で。
それはレオナルドが協力しなければ成り立たないものだ。まるで自ら望んで受け入れてるような格好をとっている事を誤魔化すように、レオナルドはひたすらに悪態をつく。
だってさっきみたいに、尻の穴を舐められたりするのはゴメンだから、だから絶対にそうならない体勢を取らなきゃいけなくって、これが一番マシな格好だから。
胸の中でいくつも言い訳を連ねるけれど、詭弁だとどこかでは分かっていた。
そんな所に指を突っ込まれて気持ちよくなる筈がないのに、中で蠢く指がある一点を掠めればそれだけで、背筋を甘い痺れが走り抜ける。既に何度か果てたそこはもう、勃てるのすらしんどいのに、疼く場所を撫でられちゅっちゅと首筋を吸われぺろりと舐められれば、ひくひくと震えて薄い液体を先端に滲ませる。心臓はこれ以上ないくらいに速く脈打っていて、必死で呼吸をしても脳に酸素がうまく回ってはくれない。触れた肌が擦れるだけで散々撫で回された感覚が蘇ってきて、また一つ熱が追加されてゆく。
凝った言い回しなんて一つも思いつかず、簡単な罵り言葉を繰り返す事しか出来ないくらいには追い詰められていて、とうに限界なんて超えていた。
けれど身体はよすぎて苦しいのに、少し前までは常に頭のどこかにあった、得体の知れない恐怖は随分薄れている。
広い部屋の中、響く荒い息の音。それの発生元が、一つだけでは無いことに向かい合ってようやく、気づいたからかもしれない。
面白がるように揶揄い混じりの言葉を投げてくるくせに、合間にはーっ、はーっと荒い息の音が聞こえてくる。ひゅうひゅうと短いスパンで喉を鳴らすレオナルドのものとは違って、低くて長い、腹の底から空気を飲み込むようなもの。
触れた肌を湿らせるのは、レオナルド一人の汗にしては量が多すぎて、時折視界に入る絹糸のような銀髪はぺたりと首に張り付いて離れようとしない。
声を抑えるフリをして、顔を押し付けた肩にそっと舌を伸ばしてみれば、しょっぱくて苦い味が口の中に広がった。
「ザップさ、もっ、汗、すげぇっ、くせ、にぃっ!」
だからついそんな、余計なことを口にしてしまったのは、負けず嫌いがちらりと顔を覗かせたから。自分ばかり追い詰められるのが悔しくて、せめて一矢報いてやりたかった。
しかしそれは、悪手だったらしい。
中に入った指先で思い切りイイ場所を抉るように潰され、悲鳴を上げて仰け反ったレオナルドの首筋に、ガブリと噛み付いたザップはフンと鼻を鳴らし、そのまま何度も同じ場所をつついて笑った。
「オメーと違って、俺ぁ、まだ一発も、出してねーんだわ」
なあ、でも、もうそろそろいいよな?
俺、すげー頑張ったくね?
さらけ出した喉仏をべろりと舐めて、猫なで声で囁いたザップに不穏なものを感じて、ちかちかとレオナルドの頭の隅で警告灯が点滅する。
けれどその、無意識からの警告をレオナルドが活かす前に、ザップが動いてしまう。
最後に一度、ぐっぐと指を広げて穴を伸ばすように動いたあと、ちゅぷりと音を立てて抜いて。
レオナルドがほっと息をつく間もなく、がっと腰を掴まれて穴の縁に指とは違う、硬くて熱くてぬるりと先端が湿ったものが宛てがわれて、そして。
やめて、と口にするより先にそれが、一気にずぶりと中に埋め込まれる。
「――〜~っ! あ、あ、あああっ!」
「はっ、エッロい穴、してんなっ」
痛みもなく呆気なく侵入を果たしたそれの先端に、さっきまで指で弄られていた場所を正確に抉られ、レオナルドは声なき悲鳴を上げてひゅっと息を飲んだ。目の前にちかちかと火花が飛んで、頭が真っ白になり、一瞬、呼吸の仕方すらも忘れる。
次いでやって来た下半身に広がる甘い熱につられたように、ひくひくと勝手に痙攣する内側が、中に入った異物をきゅうきゅうと締め付けて、その形を浮き彫りにした事に気づいたレオナルドは、いやいやと首を振る。
「やっ、やだ、抜いて、あ、やめっ!」
「無理だっつー、のっ! あーもー、クソっ、いっぺんイクわ」
質量のある熱が突然、腹の中に捩じ込まれた事実をまだうまく受け止められないレオナルドをよそに、掴んだ腰を激しく上下に動かしたザップは、数度の後に低い唸り声を上げてぴたりと動きを止める。
ぎゅっと締め付ける柔らかな肉とは別に、中でぴくぴくと引き連れたように異物が痙攣した感覚があって、直後、熱が内側をじわりと湿らせた。
それが、中で出された事を意味すると理解したレオナルドは、かっと頬を染める。それに連動するかのように、内壁がきゅっと締まって、柔くなった肉棒に勝手に絡みついてゆく。
「サイッ、テー、……っ」
「はっ、まだ、こんな物欲しそーに、してっくせに」
腰を浮かして逃げようとしたけれど、すぐに掴まってゆるゆると中を擦られる。それだけであっさりと硬さを取り戻したものに顔を引き攣らせつつ、内側から拡げられてゆく感覚にじわりと腹の奥が甘く疼いたのを、レオナルドは自覚して赤面した。
「今度はちゃんと、ヨくしてやっから、な?」
「いら、ねえからっ! 抜けっ、んん、やっ」
「ほれ、ココ、いーだろ?」
繋がったままベッドに押し倒され、足を大きく広げさせられたその中心に、何度も何度もそれを突き立てられる。ゆっくりと嬲るように、内側の肉を巻き込むような動きでギリギリまで引き抜いたかと思えば、一気に奥まで突き入れて、焦らすようにいい所を擦って、小刻みに入口を嬲って刺激して。
「も、やだ、やめっ、やあっ、だめぇ!」
「……なあ、レオ。いーいこと、教えてやるよ」
浅いところも、深いところも、どこを嬲られても気持ちがよくて、頭が湯立ちそうなくらい興奮して、だけど未知の感覚で煽られてゆくのが怖くて。
いやだいやだと首を振っていれば、耳元にとろりと甘やかな声を注がれる。
「こーいう時の、やだっつーのはな」
ず、と腰を進めて、奥を一突き。何かに引っかかった異物の先端から、腹の底に熱が移って。
ぽたり、ぽたり。
ザップが動くたびに降ってくる水滴が、つっと肌を伝って流れてゆくたび、火照った肌がじんじんと痺れて疼いてゆく。
「もっとしてって、事でな。んで、やめてっつーのは」
すっと腰を引いて、完全に抜けてしまう手前まで。一気に寂しくなってぽかりとした空洞が、誘い込むようにうねうねと収縮を繰り返して、引っかかった先端を中へ導くように動いてゆく。
「やめないでっつーこと、で。だめっつーのは、」
そしてそのまま、浅いところをゆるりと嬲られる。こんこんとある点を抉られればそれだけで、一気に股間が熱くなって、もう出るものなんて無さそうな先端がふるりと震えて、痛いくらいに張りつめて、そして。
「すげー、気持ちいーっつーことっ!」
「や、やっ、だめっ、そこっ、やっ、ああ!」
「だからオメー、さっきから」
耳に軽く歯を立てられた瞬間、びくりと身体が跳ねて射精の時に似た快感が、足先から頭に向けて突き抜けたのに、いつまでも終わりは見えないまま。ザップの低く湿った声が耳に響くだけでまた、ひくひくと身体が痙攣して、加算された快感の逃がし方も分からないまま、口の端から涎を垂らして必死で息を吸う。
「めちゃくちゃ気持ちーから、ザップさんもっとしてって、オネダリしてんの。な、レーオ? はっ、やっべーなお前、いっちょ前に、ナカイキ?」
レオナルドの様子に気づいたザップは、にやりと笑って緩く腰を動かした。強い快感を生み出す場所は避けていたのに、広がりきった縁をごりごりと擦られるだけで気持ちが良くて、声も出せないまま唇をはくはくと動かす。
「だらっしねー、顔、しやがってっ!」
「いぎっ! あ、あ、あ、や……!」
「んー? もっとって?」
「んんんーっ! ぐっ、ぎっ、んあっ!」
「んっ、なに、気持いーってか」
垂れた涎を舌で受け止められて、そのまま舐め上げるようにして開いた口の中に押し込まれる。
軽く上唇を噛まれて、揶揄うように笑われて、その間も腹の奥を抉るようにぐっと腰を押し付けられて、内臓を強く圧迫された反射か、喉の奥から言葉にもならない音が漏れた。
それでもぐっぐと腰を押し付けるザップの動きは止まってはくれない。
もう、それ以上入るわけがないのに。
まだ、その奥に進んでしまいそうな気配すらあって。
「レオ、レーオ、まだトぶなよ」
「ふ、あ、……あっ?」
「ほれ、まだ全部、入ってねーの。分かんだろ?」
ふと動きを止めたザップに、手を取られてなすがままに導かれたのは、繋がっているそこ。確かめるように触れさせた指で知ったのは、穴の縁がぱつぱつに広がりきっていることと、突き立てられたその、どくどくと熱く脈打つものがまだ、収まりきっていない事実。
何度か指でそこをなぞらされてようやく、それに気づいたレオナルドは、ざっと顔色を悪くして、力無く首を振る。
「やっ、むり、むりぃ、だめえぇぇ!」
「んなオネダリされちゃ、ヤるしかねー、よなぁっ?」
必死で解けた言葉をかき集めて絞り出したのに、ザップの動きは止まらない。
くっと少し腰を進めれば、突き当たりのはずのそこがくぷりと先端を飲み込んで、きゅうきゅうと締め付ける。
ただでさえ有り得ない場所の、更に奥の奥。腹の内側から異物に突き破られてゆく感覚に、レオナルドはぶるりと身体を震わせた。
「こわ、こわい、こわいっ、こわいぃぃぃ……」
「……こえーんならよ」
ひくりと喉を痙攣させて、必死で叫ぶ。
痛みは、ない。ひゅっと息を吸うたびに意図せず締まる内側が、閉じきらずに何かを咥える感覚に、痺れるような疼きすら感じていた。そのままもっと奥を擦られてしまえば、きっと気持ちよくなれる予感すらあった。
だからこそ、怖くてたまらなかった。これ以上良くなってしまったら、壊れてしまいそうで恐ろしかった。
それをもたらしているのは目の前の男だと、頭でも身体でも理解している筈だった。
けれど。
「しっかり掴まっとけ。絶対、離れんな」
背中とシーツの間に差し込まれた腕に抱き寄せられ、レオナルドの腕も強引にその背中を掴まされた。
状況は変わっていない。奥まで侵入したそれを抜いてくれそうな気配なんて少しも無くて、ぎゅっぎゅと締めつける身体のせいで疼きは収まるどころか、肥大してゆくばかり。むしろ悪化してると言ってもいい。
それなのに。
その背中が手のひらに触れるだけで、安心してしまう。己の背に大きな手を感じるだけで、もう大丈夫だと思ってしまう。
そして。
「ぐっ、ふっ、ぎっ! やっ、あ、あ…… ……あ、あ、あ……う、ぁ、あー……」
「あー、奥すげーいい、サイッコーだわ」
ぐっと一気に奥まで貫かれて、引き抜かれたと思えばまた最奥まで押し込められて、何度も何度も、繰り返すうち。チカチカと視界にちらつく光に翻弄されて、腹の奥から溢れる悦楽に流されて、突然パチンとヒューズが飛んでしまったように、何も考えられなくなって。切れ切れにしか口から音が出なくなって、あー、あー、と壊れたラジオみたいに、単音を伸ばすだけになって身体に力が入らなくなって、口の端からだらだら涎が垂れっぱなしになっても。
背中に回した手の指先に、最後の力を込めてすがり付いて。
「レオ、レーオ? やべ、トんだか。……あー、くっそカワイイな、これ」
はっはと荒い息を吐きながら、何事か呟いたザップの言葉は、耳に入っても最早意味を形作ってはくれない。
けれどその腕の中に抱えられていることに、ひどく安心したレオナルドは、最後にふっと笑って。
幸せな気持ちのまま、指先に込めた力を抜くと同時に、辛うじて保っていた意識を飛ばした。